ひょんな思いつき

蠱毒 暦

第一弾

無題 ご◾️ん◾️◾️◾️

微睡みの中…声だけが聞こえる。


【あ、あー。私の声が聞こえますか?】


僕はついさっきまで、より読者の皆様を虜にさせるべく、新作を執筆をしていた筈なのだが…らしくもなく、寝落ちしてしまったのか…ちょっと運動がてら、フルマラソンを走ってきた程度で…情けないな、僕。


【…いいえ。結論を先に述べるなら、あなたは死にました。より正確に言うならフルマラソンをした後、消費期限切れのポカリスエットを飲みつつ、執筆しながらフグの刺身を食べた結果、何かしらの化学反応と、ながらスマホという食物の感謝を忘れた下劣な行為による無意識での精神的ダメージが重なり、内側から腹が爆ぜました。以上です。】


僕が謎に変死したという事実よりも、おにゃのこ達を魅了する声が出なかった事に衝撃を覚えた。


くっ…両目で、視力が5.0あるのが自慢なのに…これが視力の低い人達の世界なのかっ!?


【私が今担当している、ノエルよりウザ…おほん。失礼…口が滑りました。そろそろ、本題に入ってもいいですか?】


いいとも!僕の名前は…


【wkwk-0057さんは…生き返りたいですか?】


ん…まあいっか、本名じゃないけど…知ってたんだね…ま、まさか僕のファンとか!?


【いつもなら、そんな戯言に付き合うのも一興ですけど、生憎…今は、ノエルのお守りとかで忙しいんです。生きたいですか?死にたいですか?決めれないなら、ここで朽ち果ててくれて結構です。】


生きたいに。このまま、僕が地球上からいなくなってしまえば、世界中にいる僕を愛するおにゃのこ達が悲しんでしまう!!!


【はいはい分かりました。ですが、生き返る為には、それ相応の試練を受けてもらいます。】


試練…ま、君を籠絡するよりかは簡単そうだ。魔物でも何でも来い!僕の神器で全てジェノサイドしてあげるよ。


【自信家ですね…では初めましょう。】


指を鳴らす音が聞こえたと思ったら、無性に眠くなり、ゆっくりと瞼を閉じる。


【試練の内容は館からの脱出。単独だとかなり危険なので、特例で1人だけ護衛をつけますから、さっさと生き返って下さい。では…ルーレットを始めます。】


……



【結果…137】


「———♪」


何だこの天使の歌声はぁ!?なーんて思いながら、カビ臭いベットから体を起こした。


泥で汚れた白いワンピース。少女の身長よりも少し長い黒髪…灰色の瞳。目の前に6色の宝石が埋め込まれた王冠を被った推定5年生くらいの可愛らしいおにゃのこがボロボロの木製の椅子に腰掛けていて……


(!起きたんだね…別次元からやって来た旅人さん。)


の、脳内に直接語りかけて来た…こんな感じなのかぁ……悪くない。


僕はベットから降りて、綺麗などではとても言い表せないくらいに美しい歌を歌い続けるおにゃのこの前で跪いた。


「僕はwkwk-0057。君の名前を教えてくれないかな?」


(呼び方は何でもいいけど…泉って呼んでくれると嬉しい…な。昔…旅する吸血鬼さんが、そう名付けてくれたから。)


空気が重くなったな…あわよくば、スカートの中を見ようとした僕を殴りつけたい。とりあえず、こうなった経緯を説明するか!


……数分後。


「んー…ってな事があって。お家に帰らないといけないんだ、泉ちゃん。」


(うん。貴方には…待ってる人達がいるんだね。分かった…全知全能の私に出来る事があるなら、協力します。)


「全知全能!?」


早速チートキャラ…ふふ。すっごく可愛いし、幸先良いねぇ。


(でも…ごめんなさい。鍵がないと旅人さんは出られないの…1階の管理人室にいる管理人さんから、借りないと。)


少女が不意に椅子から立ち上がると、この世界が空気を読んだかのように、ドアが開いた。


「早速、行こう?」


「……あ、ああ!」


早く帰って、執筆の続きをしなくちゃだし。


……



【結果…36】


「〜〜〜♪」


階段を降りる時に何人かとすれ違ったけど、特にトラブルも起こらず、親子みたいに手を繋いで館を歩いていると、泉ちゃんの足が止まった。


「…どうしたの?」


(管理人室の前に…誰かいます。)


あぁ…モーニングスターを持った金髪ポニテのツンデレ率96%(僕基準)の可愛いおにゃの子が見えるね。視力5.0が火を吹くぜ。


とりあえず、気づかれないように近くまで寄った。


「あーしんど。どーして、あーしが…こんな門番みたいな事しなくちゃいけないワケ?」


ギャル路線かぁ。昔トラブった事があるから、ちょっと怖い…ってうん?


目を離した隙に、気づけば泉ちゃんが、金髪ちゃんの前にいた。


「あのぅ…管理人室に用があるんですけど。」


あんなに幼そうなのに、なんて勇気があるんだ!!よし…僕だって!!!


「ダメダメ…うっさい風紀委員長に怒られちゃうし。何か、この館に侵入者が現れたとかでさ…今、警戒してんだわ。」


「ふふん。ひょっとしなくても…僕の事かな。麗しきお嬢さん?」


優雅にやって来た僕を見て、振り向いた泉ちゃんが唖然とする。


「あ、アンタが…」


「そう!僕こそが侵入者!!!阻めるものなら、僕を力尽くで止めてみせたまえ!!」


手を上に掲げ、心の中で叫ぶ。


来いっ!!!!僕の神器……と。



【ここで、成功するか失敗するかのルーレットを行います。結果は…失敗。】



いつまで待っても何も起こらないが…


「泉ちゃん!」


「っ…はい!」


極力、他者の力に頼りたくはないが…仕方ない!時間を稼ぎさえ出来れば、後は僕がっ!!



——ガコンッ



色が白黒になって、僕は何度も瞬きするが…景色は変わらなかった。


(全ての空間において、旅人さん以外の人間の時を止めました。)


「……凄っ。」


ポカンとしたままの金髪おにゃのこから、モーニングスターを回収しても、パンツが白と水色の典型的な縞々模様なのを何度か確認しても特に起こらないので、時が止まっているのは確かだろう。


(…ここまでです。)


「…よし、じゃあ…管理人室に…え?」


(私が動けば、また時が動き出してしまいます…だからお別れです。)


っ…ここで駄々をこねる程、僕の人格は終わってない。僕は管理人室のドアノブに触れた。


「また会えたら…」


途中で僕は口を閉じる。こんなイレギュラーが発生する事はもう2度とないと…本心では、察していたからだろうか。


「さよなら…泉ちゃん。優しき幼いお姫様。」


(はい…旅人さんが、無事に帰って来れる事を願ってます。少しの間だけでしたけど、話していて楽しかったです。)


覚悟を決めて、僕は管理人室の扉を開けた。


……


【結果…98】


室内だと思っていた僕は目を見開く。


「花畑…なんて、美しい。」


「wkwk-0057さん…ですよね?」


目の前には、仮面をつけた何かが俯いて座っていて、その隣に立っていた艶やかな黒髪の愛らしいおにゃのこが、僕に声をかけて来た。


「オフコース!僕がwkwk-0057だ。ここには鍵を取りに来たんだが…」


「どうぞ。」


普通に鍵を渡されて、僕は目を丸くした。


「んん?てっきり、一波乱あるものだと……」


「かなり変わった人みたいですけど、悪い人じゃないって思ったので…本当に、運がいいですね。」


おにゃのこから、殺気をまるで感じなかったから、誤解される前に、さっさとモーニングスターを地面に置いた。


「…座っている人は?」


「あなたをここに招いた張本人。僕達の語り部をしてくれている、作者の蠱毒 暦さんです。今は時が止まって、動けないみたいですが。」


蠱毒…暦?僕の知るおにゃのこの中にはそんな名前の子はいない……え、マジで誰??


「暦さん曰く…本気で、あなたをこの館の中で3度、殺そうとしていたらしいんですけど…結果はこの通り、惨敗です。」


「……じゃあ、もう帰っていいの?実は後ろから刺さない?殺さない?大丈夫??」


「はい。僕には殺す覚悟も度胸もありません。命を奪う行為を、自分の都合を振りかざして、正当化したくないんです。」


そう言って、はにかんだ。


「み…見えないかもしれませんけど…奥に裏口があるので、そこからどうぞ。」


「ちゃんと見えてるから、そこは問題ないよ…最後に…君の名前を教えて欲しい。」


「あ。自己紹介が遅れましたね…僕はムニムニ…誰よりも平和と安息を願った…ううん。今でも願ってる…ただの『和神』です。」


僕は2人を通り過ぎて、ひたすら花畑の中を歩く…視力5.0だから、別に道に迷う事もない。


そうして僕は無事に生還した上で、館から脱出する事に成功したのだった…が。


「あ、ぁふぐぅぅぅぅうぁぁぁぁあ——!!!!!!」


目覚めてから、2日間…トイレの中で、死ぬよりも痛く苦しい腹痛と格闘し、結果として新作の執筆が、遅れてしまうのだった。


                   了

            




































































































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