第7話 女神アイナは告げ口する



その頃、神界は大騒ぎになっていた。

地球の神々は激怒して、主神のもとへと集合していた。


「一体なんてことをしてくれたんですか?信者あっての神なのですよ?それをみんな獣や鳥にされてしまっては、誰が我々を信仰するというのですか!」

そういって激怒しているのは、大地の女神ガイアである。ガイアは美しい顔に怒りをにじませ、柳眉をキーッと吊り上げて主神へと詰め寄っていた。


「まあまあ落ち着け、落ち着け。落ち着いてくれ!たのむから。ワシだって悪気があってやったことではない。ちょっとムカっとして……いやいや、ちょっとした教育の一環として、指導したというわけだ」


それにしてもやりすぎだ!主神の座から引きずりおろせ!など、後ろからヤジが飛んでくる。特に女神たちの怒りは尋常ではない。そこは男神たる主神はこうなった女神たちを抑える術を持っていなかった。


「みんな落ち着いて!ちゃんとするから。ちゃんと。もうちょっと待ってよ!」

主神は困ってしまって、みんなに落ち着くように声をかけるのだが、そのへりくだった態度がまた腹立つみたいで、余計に女神たちの怒りはヒートアップするようだった。 


「ちゃんとするとおっしゃいましたが、具体的にどうなさるおつもりですか!私の住処など、謎の光線で真っ二つにされたのですよ!」


そう言って怒りを露わにするのは、月の女神セレーネである。

「ウラノスを呼んでください!そして、時を巻き戻し、月を元の状態に戻すことを要求します!」


そういいながら、ギャンギャンと主神は攻め立てられ、次第にその声も姿も小さくなっていった。


その時、部屋中に響き渡るくらい、大きな声が鳴り響いた。

それは女性の声だったが、その部屋にいた者すべてが震えあがるほど迫力のあるものだった。


「一体、何を騒いでいるのです!はしたない!」


その大きな声の主は、神界の最高権力者、ゴッドマザーだった。


ゴッドマザーの登場に、この騒動の原因を作り出した張本人である主神は青くなっていた。


「先ほど女神アイナが私の所へ地球の子供を連れてやってきました。その子が言うには地球人は獣へ姿を変えられ、なぜだかアイナの使徒が巻き込まれてドラゴンになり、暴れまわっているとか。これはあなたが狙ってやったことなのかしら?」

ゴッドマザーはそう言って、主神をギロリと睨みつけた。


「どういうことか説明して頂きましょうか。なぜ、世界を混乱に貶めることをしたのか。世界中の神々から苦情が寄せられているのです。動物化した信者が神殿や神像をぶっ壊して回っていると。それは、あなたが人間を動物に変えてしまうという、わけのわからない神罰を下したからだと聞いていますが、それは本当ですか!」


「いや、これはだな、つまり」


主神はどう言い逃れをしようか悩んでいたが、そんなことはゴッドマザーにはお見通しなのだった。


「つまりもヘチマもありません!」


「はい」

主神はどんどん小さくなっていった。


「たくさんの神々が住まい、神々を崇める多くの信者が生活する世界を混乱させるとはなんと愚かな事をしたのか……そんなことをして何のメリットがあるの?さっぱりわからないのですが?私が理解できないバカだからでしょうか?」


「いえ!そんなことはございません。はい。ごめんなさい」

主神はうなだれてあやまった。


「はーっ。もう嫌だわ。もううんざり。あなたのそんなバカな行動、いつになったらなおるのかしら?」


「はい。反省してます」

主神はうなだれて言った。


「はあ?反省してます、反省してますって、何回聞いたかしら?」


「はい。反省してます」


「反省してますじゃないのよ!反省しているならとっとと元に戻したらどうなの? 早くしなさいっ!」

ゴッドマザーは大音声で怒鳴りつけ、主神は飛び上がって驚いていた。


「はいーーっ!」

そういうと、主神は一瞬のうちに部屋から出て言ったのだった。


ゴッドマザーはため息をひとつ吐くと、皆に言った。

「おそらくこれで世界は元に戻るでしょう。あなたたちも安心して、もうお帰りなさい」


そこに集まった世界中の神様たちは、皆、ゴッドマザーの言うことに首肯して、わかりましたあ~といって帰っていった。


そして、部屋を飛び出ていった主神は、時の神様クロノスの元へと向かい、動物へ帰る前へと時を巻き戻したのだった。



時が巻き戻った事によって、すべての世界が動物になる前の日に戻ったのだったが、異世界のことを知っているこの5名だけは、女神アイナの元へ呼び出されていた。


「このたびのことは、お疲れ様でした。あなたたちのおかげでこの地球は救われました。アイリス、あなたが両断した月も元に戻っていますよ」


アイリスは平伏して謝った。

「申し訳ございません!アイナ様!」


「いえいえ、いいのですよ。それよりあなたはどうするの?レイクリスと一緒に、地球へ移住するのかしら?」


「はい、そのつもりです」


アイリスがそう答えると、女神アイナは言った。

「わかったわ。それじゃ、あなたはレイクリスと一緒にあちらの世界で幸せに暮らしなさい。ただね、魔術はもう使えないわよ」


「魔術は使えないのですか?」


「ええ。アースガルドでは、世界にあふれている魔素を元に魔術を駆使しますが、この世界には魔素がないのですよ。だから、あなたの体内と、その杖に残っている魔素を使い尽くしたらもう発動できないでしょうね」


「そうなのですか。それは残念です」


「だからアイリスはか弱い女の子になったのです。レイクリス。彼女をしっかり守ってあげるのよ」


レイクリスは大きく頷いて言った。

「はい、わかりました。必ずやアイリスを幸せにしてみせます」


「レイクリス……」

レイクリスの言葉に頬を赤く染めるアイリス。


女神アイナはそんな二人をほほえましく見守りながら、

「レイクリス、アイリスの二人には、魔法こそ使うことはできませんが、私の方から少し加護を与えておきましょう。それは幸運という加護です。これからも幸せに生きるのですよ」

「ありがとうございます」

そう言って二人は下がって行った。


「それから、アントニオとシルヴィア。あなたたちはどうしたものかしら?まさか元いた森に帰すわけにもいかないし……」


そういって、女神は試案顔をした。


「また、食べられちゃうかもしれないしねぇ」

そう言って笑った。


「女神様笑いごとであありませんよ。本当に死ぬかと思ったんですから!]

そういうと、女神アイナは笑って、


「ははは、冗談ですよ。じゃあ、とりあえず日本へ転移させますから、そこからはなんとかして自分の国へ帰りなさい。それから異世界のことは他言無用なので、その辺の記憶は、ちょっとぼかさせて頂きます」


「はい、ありがとうございます。命があっただけでも感謝です」

そう言って二人は下がって行った。


「最後にケンちゃんね。あなたはどうしようかしら?」

女神アイナはそう言って笑った。

ケンちゃんはちょっと不服そうだった。


「なんだか無事に元へ戻れて良かったと思うのだけど、あなたはなんだか不服そうね」

「そりゃあ、そうですよ。僕はミヨちゃんのために体を張ったんですから。それを全部なかったことになって、元に戻ってしまうのだから。ひどいですよ」


そういうと女神様は笑って言った。

「大丈夫よ。いつかきっと彼女と結ばれる日がきっとくるわ。そのきっかけは、いつになるかわからないけどね」

「そんな日が、本当にくるのでしょうか」

「あなたがミヨちゃんへの思いに変わりがなかったたら、その”きっかけ”は必ずきます。それは、この女神アイナが保証するわ。だから、今はみんな無事で良かったと思うようにしなさい……」


女神アイナがそういうと、ケンちゃんの目の前は真っ暗になって、次に目を覚ました時にはふとんの中だった。


「本当に戻ったんだ」

ケンちゃんは、あの騒動が楽しかったような、大変だったような、なんだか不思議な記憶として残っていた。決して誰にもいえない思い出なのだけど。


あれから、レイクリスさん……ミヨちゃんのおにいちゃんの和明君だけど、アイリスさんを連れて自宅へ帰り、そのまま結婚することになった。戸籍を入れるまでは色々と苦労したようだったけど、無事、夫婦になれたようだ。これも女神の加護と、わずかに残った魔素を駆使して、アイリスさんがちょちょいのちょいと操作したのだろう。


アントニオとシルヴィアは、あの後大使館に駆け込んだようだ。渡航予定があわないだの、なんだかんだ言われていたが、結局は本国へ強制送還されることになったので、無事帰国を果たしたといっていいのかもしれない。その後、彼らは某国の大森林の再度赴いたらしいのだが、その時、村は近代的な村へと変貌しており、人喰いは行われていなかったそうである。なぜなら、仲間のモーガンが村長になっていて、村人を指導した結果、近代的な村になったということらしい。世の中なにが起こるかわからないものだ。


最後に僕はというと、あれから5年が経って高校生1年生にとなっていた。

そして、高校1年生の誕生日のこと。僕は、ミヨちゃんから誕生日プレゼントとして、手作りケーキをもらっていた。

なんでも、カズ君からもらった、異国から取り寄せた希少な果物を使ったケーキらしかった。


「わたしも味見をしたのだけど、とっても甘くて美味しかったわ。だから、ケンちゃんにも食べてもらいたくて」

そう言って、ミヨちゃんは上目遣いでチラリと僕を見た。


「へえ、それは楽しみだなあ。そんな珍しい果物を僕にくれるなんて」

僕はうれしくなって、ケーキを頬張った。それは、とても甘くて幸せな味だった。


「へへへ。ケンちゃんだから食べてもらいたかったのよ」

そういってミヨちゃんは微笑んでくれた。


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