昨日何を食べやがった?
平ミノル
第1話 昨日何たべやがった
僕はある時、旅先で見かけた赤マムシと呼ばれる飲み物を買った。
なぜだかわからないが、とても興味をひかれたからだ。
父さんは、それがどういうものか知っているらしく、10歳の子供がそんなものを飲んだら鼻血を出す。といって笑っていたし、母親はきっと口に合わなくて全部飲めないと断定していた。
僕は、まだ飲んでもないのに、良くそんなこと言えるよねって、怒ったんだけど、実際に飲んでみたら本当にゲロまずかった。
そんな話を近所のミヨちゃんにしたら、ケンちゃんったら、そんなもの飲んだら蛇になっちゃうよ?といってコロコロと笑っていた。
◆
その日の夜のこと。
空から神様がやって来て言うには、
「人間は生き物を手当たり次第に食べつくし、さらに食べ物を無駄にしておると聞く。寛大なワシもだんだん腹が立ってきた。こうなったら神の権限で人間に天罰を与えてやるから、捕食される立場の生き物の気持ちを知るが良い」
そういうと、人間を昨日食べた食物に変えてしまうという、神の力を発動したのでした。
このお告げは、すべての人類へと語りかけられたのですが、あまりに唐突な出来事だったので、多くの人は夢だったに違いないと、スルーしたのでした。
◆
翌朝。
僕はマムシになっていた。
「なんじゃこりゃあ?!」
僕はそういいながらシャーッ!と舌を鳴らす。
僕の体は一体どうしてマムシになってしまったのだろうか。僕は泣きそうになりながら、親の寝室に向かった。するとそこにはは牛が眠っていたのである。
母さんが牛になっていたのだ。
いつも「食ってすぐ寝たら牛になる」と謎の小言を良く言われたもんだが、どうやら牛になったのは母さんの方だったようだ。
まあ、牛ならしばらくほっておいても大丈夫だろう。
そう思いながら、ひとまずこの現象について考えを巡らす。
どうしてこんなことになっているのだろうか。思い当たるのは、昨日、夢の中に出てきた神様のお告げである。
人類を昨日食べた食物に変えてしまうという、神罰のことだ。確かに僕は、昨日赤マムシドリンクを買って飲んだ。
だから蛇になったのかもしれない。
もしかしたら、人類のすべてが、何等かの動物か何かになっているのかもしれない。そう思って玄関を出てみると、牛や豚、鶏などが走り回っていた。
「やはり神罰によって、人は昨日食った食べ物に変えられてしまっているようだな」
まあ、ライオンを食った人はいないだろうから、たいていは牛か豚か鶏か魚ってことになるわけか……。
そこで思い出したのは、近所のミヨちゃんのことである。
彼女は大の魚好き。
もし、昨日の夕飯が魚だったら。
彼女が魚になっていてもおかしくはない。
心配になった僕は、あわてて彼女の家へ向かった。
家に侵入してみると、一見誰もいないようだったが、布団をめくってみるとサバが跳ねていた。
こいつはきっとミヨちゃんに違いない。
駄目だ。このままだとミヨちゃんは死んでしまうだろう。
僕は、水だ。水を用意しないといけないと思った。
そうやって、水道水をバケツに入れていたが、途中で思い出した。
「違う違う、サバは海水魚だった!」
慌てて塩を探して投入し、サバをほりこんだ。
ふぅ。
なんとか彼女は死なずにすんだな。僕は一安心した。
僕はそれから、ミヨちゃんのために、風呂場で水をため始めた。
そして、近所から塩をかき集めてきて、風呂場へ入れた。
僕は塩かげんを確認して、ミヨちゃんを投入する。
それにしても、これから世界はどうなっちゃうんだろう。
僕は考え込んでしまった。
そうやって、ふと玄関を見ると、すっぽんが歩いている。
多分、ミヨちゃんの父さんだ。
「ミヨちゃんお父さん、亀なんか食べたんだ」
僕はスッポンを食べたことはない。父さんは美味しいと言っていた。なんだか元気になるらしい。僕は子供だから良くわからないが、そういうことらしいのだ。
その時、窓がガチャーン!!と割れた。
なんだ? 外からなんかすごい音がしたぞ。
そう思って窓の外を見ると、なんと猫が狂暴化している。
もう、ゴロゴロとのどを鳴らす可愛い猫ではない。
まるでライオンのように狩りをする狂暴さだ。
それだけではない。
犬は群れを作り、オオカミのように行動している。
そして、手当りしだい獲物を襲っている。
さらに、空からはカラスだ。
カラスは空から得物を攻撃をしているようだった。
風呂場のから何か大きな物音がしてきた。
何の音かと思えば猫である。
なんとミヨちゃんを狙っているのだ。
やべ!
僕はすぐさま、猫のそばへ忍び寄り、音もなくシュルシュルと体にまとわりついて行った。
そして長いからだを猫の体に巻き付き、ギリギリし締め上げていった。
猫は最期のニャンと一泣きをして事切れた。
僕はこの時、蛇で良かったと思った。
僕が昨日、牛や豚を食べていたら、きっとミヨちゃんは猫のエサになっていたに違いない。
そう思っていたら、今度は犬だ。
犬もミヨちゃんを狙っているようだった。
ふと、ミヨちゃんの父さんの方をみると、ちゃんと手足をひっこめていた。
大丈夫なようだ。
僕は犬からミヨちゃんを守らなけばならないが、さすがに犬を締め上げるのは無理なので、今度はマムシの毒を試してみることにした。
シュルシュルと犬にかみついて毒を注入すると、犬はひとたまりもなく、すぐに死んでしまった。
そうか、おれはマムシだったっけ?
毒もってんだよな。
そうい思ったら、他の生き物に変化させられた者と比べたら幸せ者だ。とりあえず身を守れる。
・・・て、何幸せ感じてんの?? 僕。
もしかしてなじんじゃってる?
ダメダメ。人間に戻りたいっ!!
そう身もだえていたら、次は野生のカラスがやってきた。
空中を飛んで、隙を見て降りてくる。
嫌らしい奴だ。
こいつもミヨちゃんを狙っているらしい。
駄目だ駄目だ。ミヨちゃんは僕のものなんだ。
だがカラスの猛攻に、とうとう風呂場への突入を許してしまう。僕は捨て身でカラスへと飛び掛かり、黒い体へとからみついた。
僕はサバのミヨちゃんを守るために、僕は戦った。
僕はカラスにからみつき、締め上げた。
たまらずカラスは上空へ逃げていく。
そして、とうとうカラスにかぶりついた。
毒が廻りカラスは弱り、墜落していく。
落ちながら、僕も死んじゃうんだなと思った。
僕は最後にカラスへ一言いいました。
「襲ってさえ来なければ、僕は君を毒で殺したりしなかったのに、何で攻撃なんてしたのさ?」
「ほんと、余計なことをしてしまった」
とカラスはいいました。
そして後悔するようにしみじみと言った。
「藪蛇とは、まさにこういうことでございますな」
そういいながら、二人仲良く墜落していくのだった。
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