いわゆる異世界ってド○クエが根底にあるよね

「──おい、そこのあんた。なに勝手に畑作ってんのよ!」


 ガサガサ、と草を踏みわけて現れたのは、小柄な少女だった。


 腰まである栗色の髪を後ろで結び、肩にかけたカゴには野草や木の実が詰まっている。目はぱっちりしていて、キリッとした眉が印象的。そして、ちょっと吊り目。服は作業用らしく泥のついたスカートに袖まくりしたシャツ。……なのに、どこか「可愛い」が混じっている。


 リオは彼女を見て、まず最初に考えた。


(ちっさ……いや、身長じゃなくて……)


 胸元に目が行きそうになるのを押しとどめて、スコップを置いた。


「畑を作ってただけだけど。誰かの土地か?」


「ここはうちの村の共有地よ! まぁ、誰も使ってないけど……勝手に使うとか非常識にもほどがあるわ!」


 ずいっと詰め寄ってくる彼女の顔は、思っていたよりずっと近くて、勢いがすごい。完全にケンカ腰だ。


「……怒ってるのか?」


「当たり前でしょ! 勝手に地面掘って、何してんのよ」


「ジャガイモ植えようとしてた。あとスープ用の野菜も」


「スープ!?」


 突然、彼女の顔がぱっと明るくなった。


「スープって、もしかしてあんた料理できるの!? いや、それより野菜育ててるの!? 本当に!? 今、ちゃんと芽が出てるの!?」


「あ、ああ……そういう反応になるとは思わなかった」


 少女は数歩下がると、腕を組んで少し咳払いした。


「……あたしはユリナ。こっから歩いて十五分くらいの《アルナ村》に住んでるの。村の見回りと採集担当よ」


「俺はリオ。……なんというか、ここに住みついた」


「勝手に定住!? 何者よ、あんた……!」


 ユリナの目がジト目になる。


(この子、言葉も態度もきついけど、村のことちゃんと考えてるんだろうな)


 リオは思った。こんな辺鄙な土地で、しかも十代にしか見えない少女が、誰かの畑に怒鳴り込むなんて普通じゃない。


「お前、いつもこんな感じなのか?」


「悪かったわね、口が悪くて! ……でも、村じゃあたしが一番しっかりしてるって評判なんだから」


 そう言って胸を張ったが、貧相な胸板が服の布をほとんど持ち上げていない。


「……見たか今!?」


「見てない」


「絶対見てた! しかもガッカリした顔してたし!」


「してないって……」


「もー……ッ!」


 ユリナは真っ赤になって、その場で地団駄を踏んだ。

 だがその怒りの裏には、リオへのわずかな興味が隠れていた。


「……あんた、変な奴ね。でも、嫌いじゃないわ」


「急にデレたな」


「はぁ!? べ、別にデレてないし! 誤解しないでよねっ!」


(……まさかこの世界にもツンデレは存在するのか?)


 リオはため息をついて、スコップをもう一度持ち直した。

 やれやれ。どうやら、スローライフもそう簡単にはいかないらしい。


 でも──少しだけ、悪くない気もしていた。

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