その翡翠き彷徨い【第35話 運命の夜】
七海ポルカ
第1話
魔術師とは単なる職業や生業ではなく、人種なのではないかと思うことがある。
普通の人間には見えない世界を視る者だ。
一度魔術の世界に足を踏み入れその大地を踏みしめたら、きっと普通の人間にはもう戻れなくなるのだろう。
結末を考えればそれを簡単に「直感に優れた」と言い表したくはなかった。
だが自分の人生を後に省みてみれば、確かにメリクは人生のうちに幾度か、何か自分の意志ではない――例えば何者か……神のような者の意思で、自分の足がそこへ導かれたと思うようなことがあった。
だからメリクはいつの頃からか、自分は運命の神によくよく疎まれているのだとそう思うようになったのである。
運命の神が自分を疎むのだから、自分もそれを決して慕うまいと。
その日もメリクは説明出来ない直感に動かされその地へ赴いた。
――本当に不思議だったのだ。
その頃と言えばメリクは魔術学院寮から城に戻る時は、よく夜中に城を抜け出して遠駆けをすることが多かった時期である。
同じ王宮にいるのにリュティスに近づけず、忘れることも出来ず。
魔術学院の寮に移り友を得て、少しだけ自分にとって心安らげるような場所を得たことが、尚更その失望感を膨らませていた。
環境が変化しても一向に溶けない氷のような第二王子の気性を恨めしく想い――同時に憎みきれない自分の弱さにも失望していた。
それほど、この時期は心から傷ついていたのに、城にいると平然とした顔で振る舞わなければならなかった。口に出すことも出来ない想いだったから。
行き場のない想いを抱えて、辛かった。
また、辛いとも言えなかったし言える相手もいなかった。
だから夜ごとに逃げ出していたのである。
アミア、ミルグレン……リュティスのいるサンゴール王城から。
その頃すでにあの石の巨城はメリクにとって心安らげる我が家ではなくなっていた。
……もちろんそれ以前にも、心安らげる場所だと思ったことは連れて来られたその日から、一度もなかったのだけれども。
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