魔女の系譜

@derniersorciere

第1話

私がその家に住むことになったのは、他でもない祖母の遺産を引き継いだからである。遺産と言っても、人嫌いな祖母らしく、財産と言えるものはこの町から離れた森の外れ、荒れた海に面する断崖の上にある古びた家と辺り一帯の土地だけだ。

祖母の娘ーつまり私の母は祖母のことを嫌っており、この家も欲しくはない、こんな家住むところではないから、解体して更地にしたいと言っていた。客観的には真っ当な意見なのだろう。けれど、私は何かこの家に強く惹かれるものがあり、この家をなくすことには賛成できなかった。そこで、私がこの家を相続する運びになったのである。

私と言えば、大学を卒業して都会で働いていたものの、ただ労働するだけの日々に虚しさを覚え、閉塞感を感じていた。環境を変えてみたかった。行き詰った日々を打破できるような気がしたのだ。そこで、思い切ってこの祖母の家に住んでみることを決めたのである。仕事は在宅でできるところを見つけていたので、偏狭な場所に住んでも当面は困らない算段をつけていた。あとはできるだけ自分の自由な時間を確保し、創造的なことをやってみたかった。いや、創造的なことをできる人になってみたかったのである。

祖母の家は祖母が存命のころ一度母と訪れたきりだった。私が母と住んでいる郊外のアパルトマン(父は私が子供のころ母と離婚し、再婚して都会に住んでいた)に比べ、美術館のように天井が高く、豪奢な造りだった。しかしその分重々しく、規律に外れたことを許さないような、威圧さもあった。図書室や地下の貯蔵庫もあり、図書室は私のお気に入りで、何時間もそこで過ごしたものだ。なぜ祖母がそのような荘厳な家を持てたのかはわからないし、あえて聞いたこともなかった。食料や生活品は定期的に町から運ばれてきており、その際に祖母は次回の注文票を渡していた。

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