演習場というのは~自衛隊怪談シリーズ~

リラックス夢土

第1話

 僕は通っている中学校でちょっとした怪談師となっている。

 きっかけは動画サイトで観た怪談を友達に話していたら、徐々に男女問わず語ることが多くなっていった。

 

 この前、他のネタが欲しくて元自衛官の父さんに自衛隊の怪談を聴かせてもらった。

 それをまたみんなに話したら、けっこう好評だった。

 その時に父さんの自衛隊時代の先輩のことを少し話してもらったけど、今度はその人からも聞いてみたくなった。

 かなりオカルトにのめり込んでいる人らしく、面白い話を聞けると思う。

 父さんに頼んだら、その人に話してくれるかもしれない。


 そして僕は夕食の時に話してみることにした。



「ねえ、父さん。この前話してくれた自衛隊時代の先輩のことなんだけどさ」


「ああ、稲田士長のことか。あの人がどうかしたか?」


「その人に直接取材することってできないかな?」


 すると、父さんは箸を止めた。


「取材って、もしかして怪談のか?」


「そう、直接話を聞いてみたいんだけど・・・連絡とかとれないかな?」


「いや、まあ・・・できるけど、本当に会いたいのか?」


「会いたいっ!」


 父さんは少し悩んでいる。


「わかった、訊いといてやる」


 ちょっと困った顔しながらも了承してくれた。



 それから数日経った頃、夕食の時に父さんから話があった。


「和人、あの人から会ってもいいと連絡あったぞ」


「え、本当!?」


 まさか僕の希望を了承してくれるなんて。

 断られるかなと思っていたんだけどね。


「うん、次の日曜に○○神社で会うことになったけど、その日で大丈夫か?」


「ありがとう、楽しみにしてるよ」


 よし、後で取材したい内容をメモしておこう。




 次の日曜日。

 ぼくは父さんと関東でも最も古い神社に向かった。

 詳しくは知らないけどアニメの聖地にもなっているみたいで、人気ある所らしい。

 その人アニメオタクでもあるみたいだし、その神社を指名したのもその影響なんだろうな。


 神社に到着すると、縁日か何かで出店も出ていた。

 僕と父さんは駐車場から境内に入り、出店の近くのベンチの方へと足を進める。

 

「稲田士長、お久しぶりです!」


 ベンチに座っていろいろと飲み食いしている夫婦と思われる三十後半の男女に声をかけた。

 ということは、この人が例の不思議な先輩か。


「お、檜山くん! 久しぶりだね~」


 稲田と呼ばれた人は立ち上がると、父さんに近付いていく。

 すると、いきなり拳銃を抜いて父さんに向けた!


「えっ!?」


 あまりのことに僕は固まる。

 だけど父さんは驚きもせずスッと身体が動くと、素早い動きで銃を奪った。

 その動きはまるでアクション映画みたいだった。

 いつもの父さんだと、本当に元自衛官?と思うこと結構あるけど、今の動き見たら本当にそうだったんだと納得する。


「おお! お見事!」


「やっぱり、やると思っていましたよ・・・」


 父さんは呆れたように言うと銃を返した。


「いい動きじゃないか。練習している?」


「辞めてからしてませんよ。あの頃稲田士長に無理矢理仕込まれたからですよ。たとえモデルガンでもこんなの持ち歩いてたらダメですよ」


 父さんは苦笑い。

 現役時代この人とどんなことしていたのかも気になるな。


「ああ、そうそう・・・こいつが息子の和人です」


「は、初めまして。檜山和人です」


 僕は慌てて挨拶する。


「初めまして、お父さんの自衛隊時代の先輩の稲田弘和です。こっちは嫁さんの満里奈です」


 稲田さんは立ち上がって軽く敬礼してきた。


「どうも初めまして、稲田満里奈です」


 奥さんも立ち上がって挨拶してきて、ぼくも同じように自己紹介して一礼した。


「よかったらどうだい?」


 うわっ、この人中学生の僕にビールを勧めてきた。


「稲田士長、こいつはまだ中学生ですよ。それに俺も今日は車なので」


 父さんが呆れたように言う。


「あんたなにやってんのよ・・・」


 奥さんも呆れている。

 この人はいつもこうなのかな?


「ざんねーん♪ まあ、それ以外ならいいんだよね? ちょいと待ってな」


 僕にビール飲ませること諦めた稲田さんは屋台の方へと行って、いろいろと買ってきてくれた。

 それも、こんなにいいのかなと思うくらいに。

 

「お待たせ。俺から怪談を聞きたいんだよね? これでも食べながら聞いてくれ」


「あ、いただきます!」


 僕はその行為を素直に受け取ることにする。

 そして僕達も座って食べながら話を聞くことにした。




 和人君、きみはお父さんから「砲兵森ほうへいもり」というのを聞いたことあるかい?

 あ、無いか。富士の演習場にそう呼ばれる森があってね。

 確か他に正式な名前あったような気がするけど、そちらは忘れちゃった。

 そこは他にも「吊るしの森」なんて呼ばれてもいるんだ。

 

 これは俺が新隊員の前期教育の時の演習の時のことなんだけどね。

 俺達の区隊・・・まあ、小隊みたいなものかな?の区隊付という役職の二曹の人がその場所でいきなり怪談を始めてね。

 もしも上から声をかけられてもそちらを見てはいけない、返事をしてはいけないってね。

 理由? それは教えてくれなかった。でも酷い目に合うんだろうということだけはわかったよ。その話を聞いた時にはすごく怖くなったよ。

 当時は今ほどオカルト関係に詳しくなかったし、ただの怪談好きだったからね。


 そして前期教育が終わってきみもよく知っているあの駐屯地のあの連隊で後期教育となって、その最後の演習・・・40キロの行軍をして、疲労困憊で天幕を設営して野営をしたんだ。

 次の日の朝に攻撃を開始するためにね。

 天幕を設営した後は交代で二人一組で歩哨につくことになったんだ。まあ、見張りだね。

 そして俺達の番になって歩哨についたよ。その同期は前期から同じだったやつで結構仲良いやつだったよ。

 しばらくして俺は今いる場所に見覚えがあることに気付いたんだ。そう、砲兵森だよ。

 それに気付いた時、同期に小声でここが砲兵森であることを話したんだ。その同期も吊るしの森のことは覚えていたよ。

 そうしたら二人して怖くなっちゃってね・・・・。だからといって持ち場を離れるなんてできない。

 だから俺は同期に銃剣を着剣することを提案したんだ。そいつはそんなことして効果あるのかと聞いてきたが、少しは安心できるからと言って二人で着剣したよ。

 まあ、あまりの恐怖に少しおかしくなっていたんだろうね。


 着剣してから少ししてからなんだけど・・・・声が聞こえたんだよ。

 最初は小さな声だったね。なにを言っているのかはわからなかった。

 その時期は三月で寒かったのに、さらに寒くなったね。 でも、気のせいということで気付かないふりをしたよ。

 そうしたら、しばらくしてまた声が聞こえてきたよ。

 今度はさっきよりも少し大きな声で。間違いなく俺達に声をかけているとわかったよ。

 でも、俺は聞こえないふりをしていたね。

 それと、歩哨に集中していたよ。もしかしたら班長達が仮設敵で襲ってくるかもしれないと考えながらね。

 

 少ししてまた聴こえてきたよ。

 なにか俺達に他の部隊の場所を聞いているようだった。何とか砲兵中隊とか言っていたと思う。

 俺は同期の方を見たら、同期と目が合った。そいつにも聴こえていたようだった。

 お互いに震えているのがわかったよ。

 どうしたらいいのかわからなくて、どこかへ行ってくれと願ったね。

 でも、まだ声はするんだよ。

「○○はどこでありますか?」ってね。

 その時ははっきりと聴こえたよ。

 うん、めちゃくちゃ怖かったよ。固まって動けなかったよ。

 だけどね・・・・恐怖の為か、同期がね・・・・返事しちゃったんだよ。あっちですって指差しながらね・・・・。


 そうしたらさ、急に同期のやつが銃を落として首を押さえながら苦しそうな声をだし始めたんだ。

 さらに背伸びまでしてね・・・・。そう、まるで『吊るされている』ようだったよ。

 俺はどうしたらいいのか分からなかった。

 だけど、とっさに着剣した小銃で同期の上を何度も突いたり斬ったりする動作をしたんだ。

 なぜそうしたのか俺にも分からない。今だったら別のやり方をするね。

 だけど、無我夢中でやっていたよ。

 そうしたら、原因を倒したのか同期が元に戻ったよ。手を離してむせていたけど、吊るされているような状態ではなくなったよ。

 声も聴こえなくなったし、普通の静かな夜の森に戻ったんだ。




「これが初めての怪奇現象だね。俺がオカルトの世界に入っていくきっかけの一つにもなったんだ」


「そんなことがあったんですね・・・・。その時は呪術は使えなかったんですよね」


「ああ、そのことも聞いているのか。その時は呪術のじゅの字も知らなかった時だからね。あの時今くらいのことができればもっと楽に対処できたはずなんだけどね」


 稲田さんは苦笑しながらビールを飲んだ。


「稲田士長にそんなことがあったとは知りませんでしたね」


 父さんもその話は知らなかったようだ。


「そりゃ~誰にも話していなかったからな~。その後同期と俺は声は聴こえなくなったけど、怖くて震えながら歩哨についていたよ」


「その幽霊?は倒したんですか?」


 気になることを聞いてみる。


「さ~~~? あれから何度か砲兵森で訓練はしたけど、あんな事が起きたのはあの時だけだったね」


 やっぱり倒したのかな?

 自衛隊の銃剣は幽霊も倒せるようになっていたりして。


「さて、次の話いこうか。ああ、飲み物とつまみなくなってきたね。買ってこよう」




 それから僕はいろいろな話を聞かせてもらった。

 どれも結構怖くて面白い話だった。

 それにいろいろとご馳走にもなったし、僕は稲田さんに気に入られたのかも。

 帰る際には稲田さんは連絡先を交換もしてくれて、聞きたいことあればいつでも連絡をくれとも言われた。


 これで怪談師としてのレベルもアップしたかな。

 また明日からみんなにいろいろと話してやろう。


 ただ・・・・神社を出る時に御神木の前を通った時・・・・なにか上から声が聴こえた気がしたんだ。

 でも僕は気にしないようにそのまま駐車場へと歩いて行った。

 

 ここは演習場の砲兵森じゃないのに・・・・・まさかね・・・・




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