霊災事例⑦ シレンシグ
◼️ 死霊系モンスター報告書(概要記録)
報告者 : 元冒険者・現見回り任務
遭遇日時: 第七月二十一夜 午前三時頃
発見場所:ルーヴァ村北部 旧ミシェル屋敷周辺
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◼️ 目撃内容(抜粋)
・夜間、屋敷屋根上にて黒い翼の影を目撃。
・形状は鳥類に酷似するが、羽は骨状の構造に半透明の皮膜。飛翔音なし。
・三度の泣き声(非言語的、哀悼・呼びかけに類似)を発し、即時に視認不能に。
・その三日後、屋敷の管理者である女性(67歳)が就寝中に死亡。
・死因不明、争った形跡なし。表情は安らか。
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◼️ ギルド窓口への報告内容 詳細
……あー、悪いねぇ。こんな朝っぱらから。ちょっと、気になることがあってさ。
あんたらに報告しておこうと思って。
この前な、ルーヴァ村の北側、ミシェル屋敷ってあたりを夜回りしてたんだよ。あそこ、管理だけはしてるからな。一応管轄内にあるわけだし、見ておかないわけにもいかないだろ。まあ、魔獣除けの結界がゆるんでないか、見に行っただけなんだが。
で、だ。深夜の三時過ぎだったか。妙なもんを見ちまってな……。敷地内の、建物には入れないが、庭に入る許可はもらってた。だから、その中を見回ってたんだよ。最初は泣いてる女の声だと思った。しくしくと、静かにな。ほかに音もしねぇし……ちょっと不気味だったよ。
耳をすましてみたら、なんか違うんだ。人の泣き方じゃない。どっか金属が軋むみたいな……でも、寂しさが混ざってる、不気味な声だった。
で、よく見たら、その声の出どころが……屋敷の屋根の上なんだわ。
そこに、黒い鳥の影がいた。いや、カラスか? とも思ったが、羽が妙に薄い。骨の輪っかに、布みてぇな膜が張ってる感じでな……飛ぶ様子もなくて、ただ止まってるだけ。あれは鳥じゃねぇよ、たぶん。見たことのねぇもんだ。
そいつがな、しばらくじっとしてたかと思うと、急に鳴いたんだ。三回。
「……ひゅぅ……うぅ……ひぃ……」ってな。まるで、誰かを呼ぶみたいに。泣きながら名前を呼ぶ子供みたいでな……背筋がぞわっとしたよ。さっきと鳴き声も変わってた。で、次の瞬間にはいねぇんだ。羽音も気配もなく、まるで霧みたいに消えた。
それだけなら、まだただの不気味な夜だったんだがな。
その三日後、今日だ。村のばあさん――あの屋敷の管理してるばあさんが、朝、眠ったまま亡くなっててな。
……あんた、思い当たらないか? 俺はな、昔読んだ記録を思い出したんだよ。
“シレンシグ”ってやつだ。黒い鳥の死霊。死を呼ぶ鳴き声を持つっていう……。鳴き声を聞いた家に、数日以内に死が訪れるって伝承だ。
しかもな、今回だけじゃねぇ。昔もこのあたりで、似たような死に方が三件あった。共通してたのは、屋敷のに住んでたことと、夜に不思議な泣き声を聞いたって証言だ。
多分、あの屋敷に何かがいる。封じられてたのが、何かの拍子で外に出ちまったのか、一定の周期で活動しているのか……。
だからな、ちょっと調べてほしいんだ。できれば、封じ直してくれりゃ助かる。
俺も見回りで命張るのはもうコリゴリだし……それに、あの鳥の鳴き声、まだ耳に残ってる気がしてな。
頼むよ。ギルドの本筋に回してくれ。でないと、次に死ぬのは俺かもしれねぇ。
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◼️ 現象の推定
・伝承における“死を告げる鳥”または“泣き声により魂を抜く影”の特徴と一致する。通称「シレンシグ」
・死者に直接的な物理的損傷はないため、対象は精神・霊魂に作用するタイプと判断。
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◼️ 霊災等級(暫定)
二等
・単体の直接攻撃性は確認されていないが、継続的な死者の発生あり。
※本報告者の死亡がこの報告を聴取した当日中に知らされた。報告聴取後にC級の神官による浄化を行うも、効果が無かったか、効果を発揮するには手遅れだったと考えられる。
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◼️ 対応
・緊急封印術士の派遣を要請。
・シレンバグ(仮称)の伝承を照会中。古代文献庫からの調査を進行。
・当該屋敷周辺への夜間接近の禁止令を一時発令(半径500メルト以内)。
死霊系モンスター・特異事例報告書 岡田真裕 @sadahiro-okada
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