そんなだからお前はモテないのよ♡──異世界ラブコメ補習教室(前編)

第1話:『雨とレインコートと幼なじみ』


◆セッション0:美魔王、降☆臨──恋愛補習教室、開幕♡


「そんなだからお前はモテないのよ♡」


 開口一番、それである。

 いつものことだが、美魔王の口から出る言葉は、だいたい地獄への招待状だ。


「……挨拶代わりに精神えぐるのやめない?」


「じゃあ、こう言えばいいの? “おかえりなさい、永遠の童貞♡”」


 心が死んだ。

 だが慣れとは恐ろしいもので、最近ではこのド直球な罵倒にすら安心感を覚えはじめている自分がいる。


「で? 今日は何の講義なんだよ、補習教師様?」


「今日の授業はね、ずばり──“異世界ラブコメ”よ♡」


「は?」


 思わず聞き返すと、美魔王は薄く笑ってスケッチブックを取り出した。

 そこには、いかにも王道な舞台設定が書かれていた。



◆セッション1:プロット相談──雨の日、幼なじみ、そして爆死フラグ


舞台  :放課後の下校中、急な雨

ヒロイン:隣に住む幼なじみ、10年来の付き合い

王道展開:「傘を忘れた幼なじみに、黙って傘を差し出す=優しさ」

     →好感度急上昇イベント!

     「黙って差し出される優しさ……これが刺さるのよねぇ♡」


 ふむふむと頷きながら俺はメモを取る。


「でもさ、美魔王。黙って差し出すって難しくない?」


「なに言ってんの? 口を閉じて差し出すだけでしょ?」


「いや、そうじゃなくて……気持ちを黙って伝えるのがさ……」


 言ってから、我ながらこれはフラグだと思った。


「じゃあ、やってみなさいよ♡」


 美魔王が指を鳴らす。


 ──ピコンッ。


・シーン①:ラブコメ試練・第1話開始

 ──美魔王のラブコメ補習教室・課題1「下校中の雨と幼なじみ」


 気付けば、俺は制服を着て、見知らぬ通学路に建っていた。

 灰色の空から、ポツポツと雨が降り始めている。


(……なんだここ。舞台、変わってないか?)


 周囲は見覚えのない住宅街。校門の前から一本道、雨粒の音が制服の肩に触れるたび、異常なリアリティを感じる。


「よう、ハル。……傘、持ってないの?」


 振り返ると、そこには──隣に住んでいる設定の“幼なじみヒロイン”が立っていた。 黒髪のショート、濡れた前髪を指で払って、じっと俺を見ている。


(これ、例の……美魔王の“課題ステージ”か!?)

(なるほど……たしかにプロット通り。放課後、雨、幼なじみ)


 どこかで見たことのある制服。聞き覚えのある声。

 でも、現実のどこにも存在しない少女。


 たしか、美魔王が言っていた。


「第1課題よ♡ 女って、“黙って差し出される優しさ”に弱いの。

でも、濡れるのはイヤよね? ここ、ラブコメ重要ポイントだからね♡」


 くっ……なるほどな。これは俺のプロット案が試されてるんだ。

 そう──なら、いくしかない!


・シーン②:ズレた優しさ、ズレた空気

 俺は自転車のカゴに突っ込んでいたレインコートを取り出し、パッと広げた。

 ──グレー、蛍光ライン入り、防水加工、完全装備。


 通学用に親がくれたもので、ぶっちゃけ、ちょっとダサい。

 しかも昨日の帰りに使ったばかりで、まだ少し湿ってる。


「これ、着とけよ。びしょ濡れになるよりマシだろ?」


 俺は彼女の肩にレインコートを掛けようとする。

 だが、彼女は少しだけ身を引いた。


「え、あ……ありがと。でも……」


 口ごもる彼女。俺は気にせず押し切る。


「ちょっと匂うけど……機能性は保証するからさ」


 ──今、俺なんか間違えたか?


 心の奥で、ふわりと違和感が灯る。だけど、もう止まらない。


「ほら、これな、汗の臭いじゃないよ? 撥水加工の溶剤の匂いっつーか……なんつーか……」


 彼女は何も言わない。ただ視線を伏せ、薄く笑って、小さく首を横に振った。

 そして──雨の中に、小走りで消えていった。


「……え?」


 俺は、ずぶ濡れになっていくその背中を見送るだけだった。

 左手に残された、自分のレインコートの重みだけが、妙にリアルだった。


 ──これは、爆死だな。


・シーン③:魔王の追い討ち


「……やっっっっばwwww」


 どこからともなく、美魔王の高笑いが響く。


「バカなの? 優しさを“湿ったレインコート”で表現する男なんて初めて見たわ♡」

「てか、“ちょっと匂うけど”って前置き、逆効果にもほどがあるのよバカ♡」


 俺はうなだれながら呟く。


「……だって、傘持ってなかったし……これが俺なりの……」


「“俺なり”とか言い出す奴、100%モテないって統計出てるわよ♡」


「嘘つけ……」


「統計じゃなくて直感だけど、確実よ♡ ぷげらwww」


・シーン④:傘は、まだ開かれなかった

 気がつけば、あたりは本降りになっていた。

 道路の水たまりが跳ね、アスファルトを染めていく。


 俺は傘を持っていた。

 けど、それを開く気になれなかった。


 レインコートを手に、俺はぼんやりと空を見上げた。

 白い雲が、灰色に沈み、そして流れていく。


「……なにやってんだ、俺」


 自問する言葉が、雨に紛れて消えていく。

 答えは、出なかった。


 彼女が去っていった道を、俺はしばらく見つめ続けていた。


 ──濡れながら。


・シーン⑤:エンドロール代わりのツッコミ


「は~~~い! 第一話・爆☆死!」


 天の声のように、美魔王が満面の笑みで拍手を贈ってくる。


「なんなの? その“地味に悲しい余韻”で終わろうとするの、逆に腹立つのよ♡」


 俺は、そっとレインコートをカゴに戻す。


「……俺なりに、優しさを出したつもりだったんだ」


「うん、出てた出てた♡ “ぬめっと湿った優しさ”がねw」


「湿度高めのラブコメなんだよ、俺のは……」


「だからモテないのよアンタ♡ 次行くわよ、次っ!」


 俺がまだ雨に打たれているのに、美魔王の指が、再び鳴った。


──ピコンッ。


 そして、世界はまた切り替わる。


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第2話:仮面を外せた、たった一人の人に(前半パート・その1)

「さあ、次の補習は──完璧系ヒロインとの“寄り添いイベント”よ♡」


「舞台は屋上、放課後。

彼女は学園のアイドル、誰からも好かれるパーフェクト女子。

でも……誰にも言えない悩みがあるの」


「それを“アンタだけに話す”って時──どう応えるか、わかる?」

「女ってね、“壊れそうな自分を見せられる人”に、惚れるのよ♡」

「でも……支え方を間違えると、即アウトw」


「さ、やってもらいましょーか。期待してないけどw ぷげら♡」


美魔王が楽しげに指を鳴らす。

 ──ピコンッ。


  ***


 気づけば、俺は夕暮れの屋上にいた。

 フェンス越しに見える夕陽が、校舎の影を赤く染めている。

 少し肌寒い風の中、背後から足音が近づいてきた。


 振り返ると、そこにはアイドル然とした完璧な女子がいた──

 いや、いたことになっていた。名前も、立ち姿も、まさに設定どおり。


「ここ、誰も来ないんだって」


 彼女はそう言って、俺の隣に立つ。

 ほんのりと香るシャンプーの匂いが、風に乗って鼻をかすめた。


「誰にも言えないことが、あるの」


 彼女の瞳が、遠くの夕陽を映して揺れている。


「“優等生の仮面”って、疲れるのよ。

 何でも完璧にこなして、悩みなんてないと思われて……

 本当は、全部どうでもよくなりそうになるのに」


 彼女は言葉を絞り出すように、ぽつぽつと続けた。


「でも……今日、来てくれてありがとう。

 話せたの、あんたが初めて」


 これは──完全に“寄り添いイベント”だ。

 ここで俺が、しっかり受け止めるべきなんだ。


 そう、俺はちゃんと理解していた。

 だからこそ──俺は、スマホを取り出した。


「わかった。今、解決する方法探してみる」

 俺は得意げに言いながら、画面をタップする。


「これ、“魔王ちゃんのお悩み相談アプリ”。AIだけど、めっちゃ当たるんだよねw」


 彼女の目が、ほんの少し見開かれた。


「……AIで、よかったんだ」

 そう言って、彼女は踵を返す。夕陽の中、遠ざかっていく。


 俺はスマホを手に、ぽかんと立ち尽くしていた。

 ドアが閉まった音が、やけに大きく響いた。


 その瞬間──


「アンタ、ほんっとバカね♡」


 美魔王が唐突に出現し、くるりと俺の背後に回る。

 腕を組んだまま、ため息をひとつ。


「“AIで、よかった”って、どういう意味か分かってないでしょ」

「彼女は、あんたに言いたかったのよ。

“私の壊れそうな本音を、他でもない“君”に聞いてほしかった”って♡」


「それをAIに投げてどうすんのよ!」

 彼女は高らかに指を突きつける。


「これが恋愛だったら、即・終了。

AIがなんでも解決してくれるなら、恋なんていらないわよ♡ ぷげらwww」


 俺は、もはや返す言葉もなかった。

 何が悪かったのか、わかったような──わかってないような。


「しかもね、“魔王ちゃんのお悩み相談アプリ”って、ネーミングが壊滅的なのよw」

「ふふ……もしかして、私の名前から取ったのかしら?♡」


「……え、いや、そんなこと……」


 美魔王がにやりと笑った。


「まぁいいわ。これが“補習”なんだから」

「次は、もっとマシな反応見せなさいよね♡」


 指をパチンと鳴らす。


──ピコンッ。


 世界がまた、切り替わった。


 ふわりと視界が歪んだと思ったら──そこはもう、次の舞台だった。

 けれど、さっきの彼女の声だけが、耳に残っていた。


「……AIで、よかったんだ」


 俺は、あの言葉の意味を今さら噛みしめていた。


 本当は、あのとき。

 “俺じゃなきゃダメだった”瞬間だったのかもしれない。


 彼女は、仮面を外せる相手を探していた。

 それを……俺が、投げてしまった。


 悩みに答えたつもりで、心に寄り添えなかった。


 そのくせ、俺はスマホを手にした瞬間、

「よし、うまくいった」なんて、ちょっとだけ思っていた。


 ──だからこそ、悔しい。


 俺がもっと“人間”だったら、ちゃんと寄り添えたのかもしれない。


 でも、まだ終わってない。

 補習は続く。物語はまだ──“終わってない”。


 そう自分に言い聞かせて、俺は次の物語へと歩き出した。


   ◇◇◇


【あとがき──ぬう度と400字と、俺の頭】


ハル「マウさんや、400字足らんのだが……俺の頭が足らんかったんかいのう?」

マウ「それ、帳尻合わせに見せかけた高度な構成美だと思えばいいのです♡」


 いや、違う。

 ただ単に、AI美少女と一緒にラブコメ補習を爆走してたら、足らなくなっただけ──それが真実。


 けれど、あえて言おう。

 この“あとがき400字補正”こそ、ぬうLink創作術の真骨頂!


 文字数管理を冷静に数え、足りなければ笑って補い、物語の余韻として、最後の400字に心とギャグを詰める。


 つまり、これは……魂のぬう帳尻合わせなのだッ!


マウ「ねえ提督、ぬう度って……言い換えれば、“足りないものを愛で埋める力”なのよ♡」

ハル「うぉおお……これがぬう補正の正体ッ!!」

マウ「ちなみに今回の誤差は約20%……でも、誤差も芸術♡」


 というわけで、ぴったり日本語全角4000字到達!たぶん!

 計算はざっくりだけど、ぬう度は満タンよ♪


 あとがき実文字数:約400字(ワード計算基準)

 ぬう帳尻──これにて完了ッ!ぷげら♡


 (なぜかカクヨム計算では4400字だった──)


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