紫菫

無礼者。ノックもなしに部屋に入るなど。

どのような躾を受けてきたのですか?

そこに直りなさい。さあ、早く。


さあて、お前を見てやろう。

頭の先からつま先まで、しっかり見てやろう。

髪は、きちんと整えられている。汚くはない。

髭もない、襟の汚れもないようだ。

ほう、洗濯はきちんとできるようだな。

背広は、きちんとしたものだ。

ふうん、お前は金の使い方は知っているようだ。

ズボンもきちんとしている。

ほう、靴も磨かれている。


うん、人としては合格だ。

さあ、そこに掛けなさい。

お前と話をしよう、そのためにここに来たんだろう?


屋敷について聞きたいと。

もう散々聞いてきたのではないのか?

それとも入る部屋、入る部屋とそうやって情報を集めているのか。

我が屋敷の事を、どうしたいのだ?


知りたいというのか。

ならばお前が先に答えよ。

お前は何故ここに来た?何故ここにいる?


答えられないのか、それとも答えを持ち合わせていないのか。

メイドが言っていた。お前は恋人を探していると。

余計なことをしてくれたものだ。

それを下衆のきわみというものだよ。

メイドの分際で恋人を知るなど、不快極まりない。


ん?何かしたのか?メイドにか?

何もしない。ほうら、あそこ。自分からあれにぶら下がっているんだ。

お仕置きとまではいかないが、お前が去ったらアレをしてやろうと。

ほら、ごらん?いやらしい顔をしている。


それでお前の答えは出たのか?

今すぐにお前の口から聞きたいものだな。

話す口があればの話だがな。


何故、黙り込む。私はお前と話をしたいと言っただろう。

さあ。わかった、ではお前が私に質問をすることを許してやる。

何を聞いてもかまわない。


あのメイドのようにならないか?ハハ、ならないさ。

決して、なりはしない。


屋敷の事についてか。

この屋敷はお前が知ってのとおりだ。美しい屋敷だ。価値はいかほどだろうな。

お前が思うよりももっと莫大だろう。


恋人は誰か?

お前は私ではないか?そんな顔をしているな。

恋人は私ではない。私はそのような高貴な者ではないのだよ。


私の血は薄く、何倍も希釈されて、もう価値などありはしない。

もっと濃く、美しく、強いものであれば、恋人も私を認めただろうが

そんな欲すらも愚かなことなのだ。

首が繋がっているだけマシだということだ。


恋人は穏やかで優しいのだよ。

お前はどんな風に思うのか知らないが、失礼なことはするな。

恋人は私にとっても愛しい者なのだ。

お前ごときが触れていい者ではない。



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