俺が令嬢で何が悪い。最強夫婦で国家も陰謀もぶっ潰す!

夢窓(ゆめまど)

第1話「婚約破棄、唐突に」どうして俺が悪いことになってんの?理不尽にもほどがあるだろ!

「――貴族令嬢エレノア・グランベル。君との婚約を、ここに破棄する!」


その言葉は、真冬の空気を切り裂く氷刃のように、学園の中庭に響き渡った。

言い放ったのは、伯爵家三男坊にして、学園では“人畜無害の優等生”と噂されていた男――私の、元(になる予定の)婚約者だ。


「……え?」


間の抜けた声が漏れたのは、聞き間違いだと思いたかったからだ。

だって、彼と深く関わった記憶なんてほとんどない。学園行事で二、三度ペアになった程度。それも、向こうが勝手に決めてきたことだった。


「君のような……男勝りで、礼節も足りぬ娘と、婚約関係を続けることは、家門の恥となる!」


「……は?」


……いや待て、それ中身が前世の社畜リーマン(♂)だってこと、絶対バレてないはずなんだが?

この世界線、どこで狂った? てか理由が雑すぎない?


――俺が、この転生に気がついたのは、実はつい最近だ。

きっかけは、お茶会の時に“いじめイベント”のように転ばされ、どこかの貴族令息に助けられたあの瞬間。

ざーっと頭の中に流れ込んでくる、知らないはずの自分の過去の記憶に驚き、混乱のあまり、その場で気絶した。


あとで聞けば、その貴族令息がずっと看病してくれていたらしい。……が、正直まったく覚えていない。

気づいたら自宅のベッドで、ふかふかの枕に沈みながら、まず思ったのは――

「俺、貴族令嬢だったのか……」という驚きと、

「前世は完全社畜で、24時間働けますか?を本気でやって過労死した、あの俺だ」という事実だった。


そんな私に、よりによって“男勝り”とか“礼節不足”とか、婚約破棄理由を並べ立ててきやがる。笑わせるな。

しかもこの場にはクラスメイトも教師も揃っている。まるで“公開処刑”だ。

ああ、なるほど。わざわざ人目のある場を選んだのは、私を完全に悪者に仕立て上げるつもりだったのね。


――ふざけんな。


「わかりました。ではこちらも、それなりの対応を取らせていただきます。破棄の理由、正式に書面でいただけますか?」


「なっ……?」


「当然でしょう? これは公的な婚約破棄です。あとは法に従って、慰謝料と名誉毀損の処理を進めます」


その瞬間、周囲の空気がガラリと変わった。

ざわっ……と波のようなどよめきが広がり、彼の顔がみるみる赤くなる。


「で、では取り消しだ! 今のは冗談でっ!」


「一度口にしたことは、取り消せませんよ。ねえ、皆さん?」


私は背筋を伸ばし、学園の中心で堂々と宣言した。


「本日をもって、私はこの婚約を“破棄された側”として記録します。以後、私の名誉に関わる行為は慎んでくださいね?」


――前世で鍛えた社畜根性は、伊達じゃない。

こうして、令嬢エレノアの“婚約破棄事件”は、静かに、そして派手に幕を開けたのだった。

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