宇宙怪獣、関門海峡を攻撃す(仮)

東堂杏子

宇宙から滅亡がやってきた。北九州に。


 宇宙から滅亡がやってきた。


 地球に舞い降りた狼型宇宙獣はまずパリを落とし、ぐるりと回転してブエノスアイレスを崩壊させ、はるばる海を泳いでアメリカを滅ぼしてから太平洋を横切り日本に上陸した。

 ショコラパフェをたいらげる少女のように、積み木を崩す幼女のように、宇宙獣が地球を生け捕りにしてもっしゃもっしゃと食べている。

 まず北海道が海に沈んだ。東北が吹っ飛び、本州の半分が蒸散した。

 ひとが死んだ。

 ひとが死んで死んで死にまくった。

 地球では、ひとが死ぬということは星が滅ぶのと同じ意味だ。

 宇宙獣は狼の顔をしている。でも顔には目玉がたくさんついてる。というか無数の目玉と口しかない。その目玉すべてがぶつぶつとわいた醜い吹き出物のようで、ひとつずつが絶えず別々の方向を睨んでる。だから宇宙獣に死角はない。

 しなやかな躰つきは奇妙にやせ細った馬で、足の爪は虎で、背中には六枚の巨大な翼が生えていて、尻尾は九本。

 めちゃくちゃだ。

 こいつが空を飛ぶと空がふさがる。西の地平線から東の地平線まですべてが宇宙獣の影で覆われる。

 一週間前、こいつがごうごうとうなりを上げながらゆっくりと北九州の上空で停止した。

 さあ、次は九州が殺される。

 関門地方は暗黒に包まれた。高い山は麓から仰げない。それと同じように、おれたちは絶望のすべてを視界におさめることができなかった。

 あまりにも巨大だから。

 宇宙獣が上空で停止したら残り十日でその都市は滅ぶ。こいつ人間の悲鳴を愉しんでいるのだ。

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