曖昧な記憶であっても、問いかければ誰かが答えてくれる。
そんなネット掲示板で起きた奇妙なやりとりから、現実がじわじわと侵食されていく恐怖を描いた物語。
誤った記憶、架空の歌、ありえないはずの存在――
どのような質問にも的確で正しい回答を行う回答者“ᕫ”。
それは、なぜ“知っている”のか?
“ᕫ”は人か、AIか、それとも……
淡々とした口語調のやり取りの中に不意に挟まれる詩的な描写や読者への問いかけが、じわじわと不安と没入感を高めていきます。
何気ない投稿や会話が、物語の核心に直結している構成の妙も見逃せません。
記憶は誰のものか。真実はどこにあるのか。
あなたの記憶の隙間にも、もう“ᕫ”は入り込んでいるかもしれませんよ。
知恵袋って自分で質問した事はないけど、何か調べる時参考にすることが多い。
割とコアな質問が自分が知りたい事と同じだったりすると嬉しいモノだ。よく出来たシステムだと思う。
この作品は、そんな知恵袋に質問を投稿した主人公の田中が、回答者のᕫに翻弄され精神を壊されていくモキュメンタリーホラーである。
他に自分のような体験をした者はいないか、探し当てた2人の証言者はしかし‥‥田中の奇妙な体験に興味を示した大学教授まで‥‥
そして最後には、田中の存在さえなかったものにされてしまう。
ᕫは個人の記憶を読み取り、現実を改竄するのだ。ᕫの正体とは!その目的は⁈
あとがきには、作者自身が体験したᕫという記号に関する背筋が凍るようなエピソードが書かれており、更に恐怖を増幅させている。
いわく付きホラーです。あなたもᕫに取り憑かれるかも。
近頃、AIを題材に扱った小説を多く出しておられる、平手武蔵さんの最新作です。
タイトルを一見すると、「トンチものの昔話かいな?」って思いそうですが、全然違います! これが実にぞっとする、気持ち悪いホラー小説なんです。
ストーリーは、主人公のフリーライター田中聡が、ネットのQ&Aサイトで、どんな曖昧な質問にもたちどころに完璧な回答を返してくる謎の存在「ᕫ」(ッテ、って読むそうです)に出会うところから始まります。
「ええと、あの歌なんだったっけ?」と、記憶の断片を入れるだけで瞬時に回答してくれるので、最初は「お、これは便利」と、喜んで使い始めますが、あまりに瞬時に精緻な回答を出すものですから、「これ、本当にちゃんとやってんのか?」と怪しんで、存在しない架空の歌を検索させます。すると、即座に「〇〇です。1976年の発売です」と回答してきて、「あはは、回答適当に作ってんのか」ってあきれ返るのです。
が、検索してみると、「ᕫ」から回答のあった歌が、実在していた。。いや、実在していることにされた。「ᕫ」によって、現実の方がゆがめられていく。。
恐怖を感じた田中は、「ᕫ」のことを調べて、追及していきますが、そのうち、どんどんと周りが狂っていく……。「ᕫ」の自己防衛本能のため、都合の悪い物事が消えていく。。
そして、最後に「ᕫ」の本質を突き止め、勝負に出る田中の運命は?
近頃隆盛を極めている生成AIを扱った本作。掛け値なしに面白いです!
みなさんもどうぞ読んでみて下さい!
主人公であるフリーライター、田中聡はネット上の集合知『人間の曖昧な記憶』を『AIがどう処理するか』ということに興味を抱き、知恵袋にて実験を開始する
彼が実験に用いたのは、自らの朧気な記憶、とある歌
AIによる的外れな連想ゲームを流し読み、人間の回答者を待つ彼の前に、しかし姿を表したのは『ᕫ』を名乗る不可視の投稿者だった
まるで質問した者の脳をスキャンにかけ、デフラグを施したかのような、一種の妄執染みた『真実の再構築』に田中自身も虜とされる
そこで彼はある勝負めいた質問を『ᕫ』に投げ掛けるが……
真実と虚構
理性と狂気
空白と改竄
『ᕫ』の異常性に恐怖を抱きネット上で訴え始める田中だが、相手にされずに終わった彼は、ついには現実での調査究明を開始するが……
モキュメンタリー・サイコホラー
狂気と絶望の淵に立たされた人間が、その最期に何を試み、何を知るのか
是非、見届けてくださいませ