僕のてのひら。

@nishitam

第1話

人が一生のうちに掴み取れるものはいくつあるだろう。強く願っても、そのための努力をしても、手に入らないものはどれだけあっただろう。

そして僕が掴み取ったいくつかの物は、果たして僕がどれだけ欲したものだったのだろう。


思えば挫折を重ね、思い通りとは程遠い人生を送ってきたような気がする。一浪の末に中堅私立大学に入学し、どうにか4年で卒業。それなりの企業に入社したところまでは、順風満帆とまでは言わないが、それなりに成功していたと思う。


ただそこからがいけなかった。それなりに要領よく人当たりもよい僕は、いわゆるいい人だった。


もとい、都合のいい人だった。


仕事でも人間関係でも、今思い返せば面倒なことをよく考えもせず引き受けていき、そうして積み重なった物たちの重さで、僕はあっさりぺしゃんこになった。


うつ病だった。


それまで手に入れていた物たちは、音をたてて崩れ去る、というよりは、僕の知らない間に少しずつ手のひらから滑り落ちていった。


僕のままならない人生の第二幕は、こうして静かに始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る