フォロワーゼロの女

階段甘栗野郎

第1話 視線の始まり

それは、俺が大学三年の春休みに体験した話だ。


コロナの影響で帰省できず、バイトも減り、自宅で過ごす時間が増えた俺は、夜な夜なネットサーフィンをしていた。


YouTube、Twitter、Instagram・・・気づけば朝になっていた事もあった。


ある夜、何気なく「都市伝説」「怖いSNS」などのキーワードで検索していると、奇妙なスレッドを見つけた。


【警告】「フォロワーゼロの女」に関わるな【閲覧注意】


開いてみると、こんな書き込みから始まっていた。


「夜中にTwitterで「@n0_follower_girl」というアカウントを見つけた人は絶対に開くな。


 アイコンは目のドアップ。


 ツイートはすべて「見てる」「見てる」「見てる」。


 いいねもRTもゼロ。誰もフォローしていないし、フォロワーもいない。


 にもかかわらず、常に誰かを監視している様なツイートが続く。


 見るだけならまだいいが、間違ってもフォローしたり、DMを送ったりするな・・・見られるぞ」


気味の悪い都市伝説だと思ったが、面白半分、興味本位で検索してしまった。


「n0_follower_girl」でTwitterを探してみると・・・あった。


アイコンは、白黒の瞳のクローズアップ。


顔全体ではなく、本当に「目」だけ。


不気味なほどリアルな写真だった。


ツイートはこうだ。


2023年4月1日 01:12

「みてる」


2023年4月1日 02:34

「まだ みてる」


2023年4月1日 03:00

「もう そこにいる」


リプライもリツイートもゼロ。


フォロワーもゼロ。


そのくせ、更新はリアルタイムで、今もツイートされている。


何の意味が有るんだろう?怖い、でも、やめられなかった。


僕はフォローはせずに、ただそのツイートを追っていた。


数分おきに「見てる」「そっちを見てる」などと投稿され続けている。


ふと、画面の端で小さな通知が表示された。


「@n0_follower_girlさんがあなたの投稿をいいねしました」・・・はぁ?


おかしい、僕のアカウントは鍵付きだぞ。


しかも、さっきまでこのアカウントは誰もフォローしていなかったはずだ。


慌てて自分のTwitterを確認すると、俺の数日前のツイートに「いいね」がついている。


それも、「見てる」と書かれたツイートに。


なんだこれは、鳥肌が立った。


「俺は、こんなツイートしてないぞ」画面に向かってひとり呟く


怖くなってそのアカウントをブロックしようとしたが、ブロックのボタンが表示されない。


その代わり、画面の下に謎のメッセージが現れた。


「ブロックしても、わたしは みてるよ」


俺は、パソコンを強制終了し、布団に潜り込んだが、眠れなかった。


翌日、どうしても外せない講義があったので大学へ行き、講義の後、友人のBに昨日の話をした。


B「マジで? それ、俺も見たことあるかも。アイコンが目のやつだろ?」


俺「そう、それそれ!」


B「俺、フォローしちゃったんだよね」


俺は凍りついた。


俺「え、今も?」


B「いや、次の日、アカウント消えてさ、だけどさ」


俺「だけど?」


B「翌日、俺の部屋のポストに、目の写真が入ってたんだよ、白黒で、めちゃくちゃ気持ち悪いやつ」


ゾワッとした。


俺「警察には?」


B「見せたけど、証拠にならないってさ、監視カメラにも誰も写ってなかったし」


その日、Bは妙に落ち着かない雰囲気だった。


誰かに見られているようなそわそわした様子で、トイレにもスマホを手放さずに入っていた。


そして、次の日、Bは行方不明になってしまった。


警察も動いてくれたが、何も見つからなかった。


スマホは部屋に置かれたまま、パソコンの電源は落ちていた。


俺は恐ろしくなり、自分のSNSをすべて消した。


TwitterもInstagramも、LINEもFacebookも、パソコンからもアプリを全て消した。


だが、ある晩、寝ようとしたときに壁に奇妙な影が見えた。


瞳の影だった。


まるで大きな目が、部屋の隅から僕を見ている様な、そんな影。


慌てて電気をつけたが、そこには何もなかった。ただ、机の上のパソコンが勝手に起動していた。


画面には、あのTwitterアカウントが表示されていた。


フォロワー:1


フォロー:1


そして、DMが届いていた。


「もう みてる」


パソコンの電源を抜き、LANコードも引きちぎった。


それでも、画面は消えない、次の瞬間、カメラが勝手にオンになり、自分の顔が映し出された。


その横に、もう一つの顔があった。


真っ黒な瞳だけがくっきりと映る、女の顔。


僕はパソコンを叩き壊した。


火花が飛び、部屋中に焦げた匂いが広がった。


それでも安心できなかった。


スマホを確認すると、Twitterはアンインストールしたはずなのに、ホーム画面に復活していた。


通知が一件。


「@n0_follower_girlがあなたをタグ付けしました」


タグ? 自分の名前で?


クリックすると、そこには画像が一枚だけ投稿されていた。


それは・・・俺の寝顔だった。


それから、俺はSNSを完全に断ち、ネットの接続もしていない。


スマホも持たず、今は親戚の山奥の家で暮らしている。


それでも、ときどき視線を感じる。


寝る前、ふとした瞬間、部屋の片隅に「目」がある気がする。


一度、電源の切れたテレビに映ったことがある。


彼女が、そこにいた。


黒い目だけが、こちらを見つめていた。


そして、この事を皆に知って貰いたくて、ネットカフェから、これを書いている


今、パソコンのカメラのランプが勝手に点灯した。


ネット回線は切っているし、Wi-Fiも切っている。


なのに、ランプは赤く光っている。


カメラの上に紙を貼っていたはずなのに、剥がされていた。


画面の隅に、新しい通知が表示された。


「@n0_follower_girlがあなたの写真を投稿しました」


俺はもう逃げられない。


もしかすると、これを読んでいる貴方のスマホにも、その通知が来るかもしれない。


彼女は、次の獲物(フォロワー)を探している。


「フォロワーゼロの女」は、誰にもフォローされなくても、誰かをずっと見ている。


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