十四話「夏の終わりと線香花火」

夏休みの終わり、すなわち八月末。それは夏祭りの合図。

二人の近所の商店街で行われるそれは、花火とかの大層なものは無いが人は溢れる。

「楽しみ。」

「浴衣着るのか。」

「着てほしいの?」

ゆずの母親なら着せそうだから。」

「うん、着る。」

そらはいつものパーカースタイルで出かけるつもりだったが、ゆずの方で俺の分の浴衣も用意してたので、試しに着ることに。

そらちゃん似合うじゃない。」

「扇子持てば完璧。」

「初めて着るから、マジで違和感しかない。」

「ちゃんと紐も結んでるから安心して。」

少し前に髪も切ったおかげか、前よりも男前になっている。ゆず好みだ。

彼女の浴衣は花柄で、明るい雰囲気と良く似合っている。昔の知り合いに見つからない為に、お手製のお面も買っておいたので準備は完璧。

久しぶりにお金以外持たずに出かけるので、ここまで身軽なのも久しぶりだ。

「まだ始まってないのに着ちまった。何処か先に遊び行くか。」

「なら前に行った神社行こ。道園みちぞの先輩から頼み事されてて。」

「まともな感じのか?」

「多分?」

俺の時と同じでお守りを買う頼みをされ、今回は合わせて神社の歴史も聞いて欲しいとのこと。俺が渡したあのお守り、ゆずは何処に行く時も離さず身に着けているので嬉しいのだが、見る度にあの時の記憶が蘇って死にたくなる。

そんなそらも普段使いしているリュックサックに紐づけ、汚さないように透明なフィルムで保護という厳重体制なので、どっこいどっこい。

「じゃあ行こ。」

「昼間からこれ着ていくのか。」

「似合ってるよ。」

祭りに合わせて神社も提灯が飾られ、二人と同じような浴衣姿の人も見られる。

元々この時期は神社の方でも奉納祭が開かれていて、市と神社が手を合わせて一緒に楽しめる形にしているらしい。

神主さん自身も夏祭り限定のお守りを出していたりと、しっかりと力をいれている。

こちらのお守りと恋愛成就の実績が多く、大学生あたりに人気と聞いた。お値段もリーズナブルなのも良い点。今回はこれを買いに来た。

「風鈴無くなってるね。」

「提灯と重なるし、人も多いと事故に繋がるだろうしな。」

「でも夜になったら此処も綺麗になる気がする。告白スポットしても有名なんだよ。」

「敷地の中を告白スポットにするなよ。」

「神社の方がOKしてるとか。」

「なんかそこまでしっかりしてると尊敬するわ。」

若手を神社に呼び込む為なんだろうが、その年齢層の目線に合わせられるのも凄い。

並んでいるとゆずが腕を組んでくる。周りを見れば皆腕を組みながら歩き、文字通りカップルで溢れかえっている。浮かない為にも俺の方も彼女に寄せる。

「そっちから来るのはダメ....ズルい。」

「何がだよ。」

「乙女の気持ちを少しは学んできてください。」

毎回対処を間違える、これはミカン先輩にご指導を伺うしかないか。無理難題投げられそうで怖くはあるが。

(それにしても何を着ても似合うな。)

今のゆずの浴衣姿は水着とかと違って可愛いが勝っている。肌の面積の違いもあるが、それ以上に雰囲気が良い。

お面を付けてるのもそうだが、下駄まで履いてるのもより一層良さを強めている。

普段の私服とは違って、胸の大きさもそこまで気にならない。現状のように密着されると体感で分かってしまうのが玉に瑕だが。

「私に何か付いてる?」

「可愛いなと。」

「・・・・今日のそら、なんか変だよ。」

「案外俺も夏祭りで浮ついてるのかもな。」

二人は静かに笑いながら、ようやく自分達の番になる。受付は前来た時と同じ人で、彼女の顔を見たら「お守り効いてるみたいですね」と喜んでいた。ゆずが真っ赤になっていたから、何か言われたらしい。言葉になっていない何かで威嚇してるが流石大学生というべきか、それすらも楽しそうに聞いている。

そらも何か言ってよ!」

「完全に部外者だから...。」

道園みちぞの先輩と同じ気配なんだもん。」

「それは勝てないわ。」

文句は言いつつ頼まれた買い物はこなし、彼の方で神社の歴史を聞く。

そらは学校始まったらミカン先輩に新聞のチェックをやらされるのが確定した。

奉納祭は夜行われ、その時間帯は二人の年齢だと補導されてしまう。見学したくはあるが、深夜に外を出歩くのが許されるのは年越しの初詣ぐらいなものだ。

「見てみたかったな。」

「大学生になれば見れるよ。」

「その時は一緒に見よ。」

「後二年か。先が長いよ。」

そらとなら一瞬だから大丈夫!」

彼女の笑顔を見ると、何故かそう思えた気がした。

手ぶらで帰るのもなんなので、神主に奉納祭の写真のコピーを貰えるか相談したとこと、喜んで渡してくれた。神社的には学校内で知名度が上がれば参拝者も増え、こちら側は新聞のいい見出しに出来る。神主さんが若かったのには驚きだったが。

「ラムネ美味しい。」

「夏祭りとかじゃないと見れないから、つい買っちゃうよな。」

カランとビー玉の音が室内に響く。

帰る途中のお店で売られていたので買ってみたがこのワザとらしい味が良い。

ゆずは飲むに苦戦してるが、俺は舌でビー玉を押し上げてるのでスイスイ飲める。ただ失敗すると挟んで痛い思いをするが。

「全然飲めない。飲む度に苦戦してる気がする。」

「それ込みで楽しむ飲み物だからな。」

「そういうそらはすんなり飲めてるじゃん。」

「女の子がしちゃいけない飲み方してるので。」

方法を教えたら「汚い」と言われた。だから言ったのに。この飲み方じゃないと俺はスムーズに行かないし、元々ゆっくり飲むためにビー玉入ってるはずだし。

飲み終えたのを見て彼女の分もバラしてゴミ箱に捨てる。

「眠い。」

「お昼寝する?」

「する。」

まだ祭りまで時間があるし、遊んでる最中に眠くなるのも困る。ソファに寝っ転がるとゆずのそのまま俺の上に倒れてくる。慣れた影響か気にせずそらは睡魔に流され、そのまま目を瞑る。

(はや!)

再会した頃なら寝るふりして一時間とか起きてたのに、今はもうこれである。

一応私も女の子。幼馴染でずっと隣にいるから慣れてるかもしれないけど、ここまで普通にされると流石の私も傷つく。いやそういう風にしちゃった原因100%私だから文句言えない。

「相棒を朴念仁、いや鈍感系主人公にさせたのはお前だろ。」

南雲なぐものあれは直せないよ、まかないゆず。」

なんだか二人の声が聞こえてくる。とびっきりの笑顔で言ってるのも想像に容易い。

不満は彼の胸に頭を押し付けてグリグリする事で解消する。

「マーモット....やめろ、やめてくれ。」

なんだか面白くなってきた。続けて頬を突いたり髪の毛を弄ったり、色々するとその度になんか悪夢見てる時の寝言が漏れる。

「流石にやりすぎかな。」

これ以上イタズラして怒られるのも怖い。しかし同じ浴衣を着て一緒になってる状況がこれからも起こる可能性は少ない。

自撮りの形で一枚写真を撮り、そのまま彼のスマホにも送る。

ピロンと音がテーブルから聞こえたので覗くと、スマホを見つけた。試しにロック画面を確認してみる。

「・・・・・・バカ〜。」

二人で遊びに出かけた時の写真、しかもしっかり手を繋いでる。前に見た時はゲームのキャラクターだったのに、今はこれ。どんだけ私の事が好きなのか。

ここまで来るとホーム画面も気になってくる。あれこれしたが寝顔ではどう頑張っても解除するのは不可能で、顔を注視する為にゆずは自分の顔を近づけた。

その時、彼のスマホから着信が響く。

「時間!?」

アラームと間違えたそらが飛び起き、そのまま私のおでことぶつかった。

勢いがあり、痛みと衝撃で二人一緒にソファから転げ落ちる。

(漫画とか小説なら、今のは偶然キスとかしちゃうんじゃないのーー。)

現実はそう甘くない。改めて実感した。

ついに祭りの時間。私はお面で顔も隠せてるし、準備は完璧。

商店街に向かえば道は人で詰め詰めで、彼の腕に捕まってないと離れてしまう。

「中学の時は来なかったけど、やっぱ人多いな。おみくじとか小学生の頃は輝いて見えたけど、今はただの詐欺にしか見えないわ。」

「ネットで色々見れるようになったしね。」

人が密集しているからか、夜とはいえど蒸し暑い。そらが定期的に私にうちわで風を送ってくれてるのでなんとかなってるけど、対策無しで来たら倒れそう。

お互いに夕食用のお小遣いは貰っている。食べたいのを見つけたら買い、量が多かったら二人半分こする。屋台の人にカップルと間違われるけど、彼は否定しなかった。それが少しだけ嬉しかった。

「かき氷食べて大丈夫?」

「お腹壊したら近くのトイレに逃げ込むだけだから。」

「下青い。」

「ブルーハワイだ。」

楽しそうにしてる彼が突然固まった。私も彼の視線の先を見る。

(いるよね。)

五、六人の男子のグループ。そのうち二人は私も見覚えがあった。中学校の生徒、私をで見ていた人達。

そらが咄嗟に私を自分で隠し、その数秒後に彼らの声が聞こえる。

南雲なぐもじゃん久しぶり。こっちの高校来るとか言ってたのに、なんで別の高校行っちまうんだよ。」

「色々考えた結果。そういうお前ら髪とか染めて高校生デビューか。」

少し顔を出して覗く。彼らは中学生の頃のまま、見た目も雰囲気も変わっていない。

見知らぬ男子はすれ違う女性に顔を緩ませ、そらと話している人はウキウキで「もう童貞卒業した」とか気持ち悪い話を続けている。

「お前は一人なのか。」

「友達とだ。高校の友達が用事が出来て来れなくてな、今は二人で回ってる。」

「何処にいるんだ。」

「今はお手洗いに行ってる。」

「なーんだつまんないの。お前ならまかないと一緒に来てると思ったのに。何処の高校行ったのか分からないし、あのレベルの胸とかそうそう拝めねぇのに。」

「もう行っていいか。待ち合わせに間に合わなくなる。」

ワザとらしくスマホを見せつけ、彼らを追い払う。

小言を言われ続けたが、高校のクラスメイトのように良く悪くも精神的に成長してる奴らとは違い、待ち続ける事ができないようで良かった。

見えなくなったところで息を吐き、振り返る。

「すまん大丈夫だったか。」

「うん。」

そう笑っていても掴んでいる腕は震えている、顔色も良くない。

商店街から抜け出し、歩行者天国になっている道路で一息着くことにした。

自販機で水を買い、彼女が回復するまで待つ。

それにしてもチャラかった、あんなのでも彼女とか出来ると考えると世も末だ。ミカン先輩が見たら光の速さで殴り飛ばしてる、白峰しらみねさんもやりかねない。

「お手洗い行ってくる。何かあったら連絡してくれ。」

「ここから動かないよ。でも早く戻ってきてね。」

一人になると途端に震えが収まらなくなる。やっぱりトラウマに立ち向かうというのは、生半可な覚悟で出来るようなことじゃない。今だって目を閉じると中学の記憶がフラッシュバックして気持ち悪くなる。

(やっぱり背中大きいな。)

身長差の話じゃない。はきっと、どんな人の背中であっても大きく見える。彼だって怖かったはず、でも私のことを一切話さずに面と向かって会話していた。凄い、凄い強い人なんだと、分かっていたのに思ってしまった。

【好き。】

その気持ちは以前よりもより強く増している。彼ならきっと私のことをまかないゆずとして見てくれる、それは明確で確信すらある。

それなのに、そう思えば思うほど。

(胸が痛い、痛いよ。)

心の傷にはまだ立ち向かえない。

「遅いな。」

スマホを見ると10分以上過ぎている。お手洗いが混んでる可能性もあるけど、それだったら連絡のひとつは来ていても可笑しくない。そう考えると何かトラブルにあったのが妥当だ。

お面の紐を締め直して立ち上がったタイミングでスマホに着信が入った。

『交通整備で真反対の道路に流された。そっちに戻るの時間かかりそうだから、そっち側の近くに公園あったでしょ。そこで合流で大丈夫か。」

「分かった。早く来ないと、帰っちゃうけど。」

『厳しいな。』

はや来ないかな。

「それで何のようだ。」

ゆずとの電話を切り、俺の前にいる女子たちに視線を戻す。

そら自身は中学に良い思い出があまり無いので大半を忘れている。クラスメイトの名前も伴って忘れている。元々ロクに話したこともない女子なら尚更。

「まだアイツと友達だったのが驚きで。」

お手洗いに行く途中で遭遇し、先程の男子グループが情報を回したのかこの人達は俺がいるのを知っていた。こちらも先ほどと同様でなんかチャラい、つうかダサい。

これを見るといつも顔を合わせている三人のファッションセンスは良かったのだと思い知らされる。

「流行を取り込み、ただそれを着るのではなく自分流に落とし込むのがファッションよ相棒。ちなみに相棒のパーカー姿は見慣れてるから、目印としては役に立つ。」

そんなことをミカン先輩は言っていた。次会った時はちゃんと褒めよう。

「だってあいつ中学の時酷かったんだよ。私の好きな人も奪うし、男がドンドン寄っていくのを興味無いように振り撒くとかキモすぎたし。」

一人が口にしたと思えば連鎖的に周りも彼女に対して罵倒を始める。ただの嫉妬なのは理解出来る、でもこうはなりたくない。

「そういう南雲なぐもだってあいつから嫌われたじゃん。何も思わなかったの。」

「思ったよ。」

沢山考えて、どう足掻いても答えが出ないことに気づいて、踏ん切りを付けて高校生になった。でも運悪く彼女と再会して、沢山話をした。頼りになる先輩と同級生にも助けられて今こうして隣に立っている。

「でも中学と高校だと話は違うだろ。悩みなんて人それぞれだし、関係が長続きするのは基本高校生。いつまでも昔を引きずるのは馬鹿らしいよ。」

彼女も変わろうとしてる。それなのに俺の方が昔の事を引っ張ってまた離れ離れになるのは我慢ならない。

「それに、俺はゆずのことが今も昔もずっと好きだからさ。恋は盲目と言うだろ。」

彼女らを置いて待ち合わせに公園に向かう。正直かなり待たせたから申し訳ない気持ちでいっぱい。多少の我儘は我慢しよう。

「遅かった。」

「走ると服が汗で張り付くんだよ。」

「復活したし、ほら行こ。」

「休ませてくれる選択肢は。」

「無いに決まってるじゃん!」

りんごあめに焼きそば、ソフトクリームに唐揚げとゆずの手元にどんどんと食べ物が集まっては消えていく。少し前に「体重がー」と言ってた気がするが。

あんなことあったしストレス溜まるのも納得なので止めはしないが、残り物を食べる俺のことも考えて欲しい。お金は浮くけど。

「やっぱりそらの隣は安心する。」

「俺もゆずの隣ならいつでも貸せるよ。」

「そんなこと言ったら、死ぬまで借りちゃうよ。」

「どんと来い。」

祭りのムードに酔ってか二人も甘々になっていく。周りの視線には気づかないフリをしながら、また一つ屋台から料理を買う。

フランクフルトをかぶりつきながら歩いているとヨーヨー釣りを見つける。

「一回やろ。」

「この手のゲーム下手くそなの知ってるからな。」

流れているヨーヨーに合わせて釣り針で掬い上げるが、予想通りゆずは成果無し。そらは簡単に二つ掬い上げ、一つを彼女に譲る。

この手のオモチャ、手に入れた次の日には無くしている。数時間楽しめれば御の字だから構わないけど、最悪破裂して濡れるのが怖いところ。

「お腹もいっぱい。」

「帰りに寄りたい所あるけど、時間大丈夫か。」

「何か買うの。」

「夏と言えば花火だろ。」

残ったお金はかなりあったので、ちょっとお高めのセットを買った。

家の庭でやるわけにもいかないので、家の近くの公園に向かう。バケツと火をつける物も買ったので準備は完璧。

火を付ければ、真っ暗な公園を明るく照らす。それを見て楽しそうにはしゃぐ彼女を写真に収める。

「ネズミ花火?」

「それ結構危ないから気をつけろよ。」

回り出した花火に驚きつつも興味深々に近づき、急に挙動が変わった花火に悲鳴が上がる。花火が切れる間近のアレは、重さが変わることで動きも変わる。男で集まるとあれをジャンプで避ける遊びが始まって、皆足に火傷するのが鉄板ネタだ。

「あんな風になるんだったら教えてよ。」

「初見の反応は楽しんでナンボだから!」

「もう!」

その後も色々な花火を楽しみ、最後には線香花火だけが残る。

これに火をつけると本当に夏が終わった気がしてくる。

「どっちが長く持つか勝負!」

「運ゲーに持ち込むなよ。」

「勝った方は負けた方の言うことを聞く。」

全く俺の話を聞かず、二人の線香花火に火がつく。

パチパチと綺麗に弾けるそれを見ていると時間の流れがゆっくりに感じる。

「綺麗だね。」

「やっぱ線香花火が一番好きだな。」

「私も同じ。」

ゆずが俺の方に体を預ける。甘えたい時にいつもしてくる行動に、俺も何も言わずに彼女の肩に腕を回す。

「守ってくれてありがとう。」

「俺もあいつらあまり好きじゃなかったし、見るからにヤバそうだったから。」

「それでも怖いものは怖いでしょ。」

「あのぐらい屁でもない。ミカン先輩に振り回される方が大変だ。」

「ふふっ、そうだね。」

少し目が泳いだから怖かったのは事実らしい。でもそれを見せないのも彼らしい。

花火の勢いがドンドンと弱まり、最後にはポツンと落ちた。

先にそらの方が落ち、その後直ぐに私のも落ちる。

「勝負は私の勝ち。」

「うげー。」

「うげーとは酷い!」

一体何をされるのかと身構えていると、ゆずは目を閉じるようにお願いしてきた。

渋々閉じると、途端に周りの音が大きくなった感覚に陥る。マジで何をされるのか不安もあってか心臓の音もうるさくなる。

唇に何か触れた。

柔らかくて温かいもので、咄嗟に目を開くとゆずがお面で顔を隠していた。

「い、今。」

「・・・・・・今日のお礼。」

「お礼...いやでも。」

「我慢、できなかったんだもん。あんな、カッコいい背中見ちゃったら。」

お面がズレ、そこから今にも倒れてしまいそうな程に真っ赤な彼女の顔が現れる。

「好きだから。待っててくれてるのに、その間は何も無しとか酷いから。」

唇に触れるとさっきの感覚を思い出す。紛れもなく、あれは『キス』。

そらも真っ赤になり、二人して固まる。

「帰ろっか。」

「そうだね。」

辿々しく片付けを行い、帰路に着く。

いつものような恋人繋ぎではなく、普通に手を繋ぐ。お互いに恥ずかしさが有頂天で、何かしらのきっかけで今の状況が壊れそうなほどに。

「今日泊まってもいい。」

「・・・い、良いけど。」

彼女が俺の前に出て、手で「少し屈んで」と合図する。

従って屈むと彼女が耳元で呟いた。

「耐えられなかったら、。」

驚いてゆずの顔を見る。

「しーっ。」

恥ずかしそうに口に指を当て笑っていた。

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