十三話「共同キャンプ」

課題も終え、残るイベントは夏祭りぐらいになった休み後半。

ミカン先輩と白峰しらみねさんとオンラインでフレンドになり、ゆずと同じ部屋でゲームをする時間が続く。

そんなある日のこと。

「明後日キャンプ行くよ。」

母さんの口からとんでもない発言が出た。

いわく、お互いの両親が丁度しっかりとした休みが取れ、前々からしてみたいと話題に上がっていたキャンプをついに実行に移せたとのこと。

当然俺もゆずもそんな話一切聞いておらず、二人とも唖然としていた。

温泉街の近くのキャンプを使うので、昼間は遊んだり食べたりし、夜は温泉に浸かってその後テントで就寝みたいな流れらしい。その際に焼肉にでもすると話していた。

「俺の親がすまん。」

「いいよ。家族間で仲がいいのは良い事、なにより一緒にいられる時間も増えるし。」

「大丈夫ならいいんだけど。設営とか全部俺に回される未来しか見えないから、行きたくねぇ~。」

「一番力持ちだからね。」

隣で俺に寄りかかる彼女に頭をコツンと合わせながら、場所を調べて教える。

「私、ゆっくりしてたいな。」

「なら俺も一緒にゆっくりしようかな。この前の手伝いでの夏バテ、未だに解消出来てないから、動きたくない。」

「私も。」

両親共に温泉やら楽しむそうだが、俺達は仮設の椅子にでも座りながら、本でも読んで体を休めるとしよう。

「なんでゆずの家の車に、俺が乗ってるんだ?」

当日になって、一緒に向かうことになった。なのに、彼女の母親にニコニコで後部座席に案内されて、俺が意見する前に車は動き出した。

運転してる父親は寡黙な人だが、俺が乗る際に静かに頭を撫でられた。柔らかい表情をしていたのもあり、強く言い出せなかった。

「あっちのご両親もあんたとゆずちゃんの関係、OKしてるから。」

そんなことを母さんが言ってたのを思い出す。

まだお付き合いとかしてないし、むしろ告白を止められている側。外堀が刻一刻と生まれている感覚もありながら、俺の肩を使いながら安眠している彼女を見る。

この肩の重みにも慣れ、昔のように二人でいつも一緒にいるようになったと思う。

小中学校の友人と遊ぶことは無くなったのに、ゆずとは関係が続いている。

当時の奴らが見たら唖然としそうだが。

「こうして見ると、昔と何一つ変わらないんだけどな。」

長期休みの影響もあってか、学校での人を寄せ付けない雰囲気など死に絶えている。

あの人を殺せる視線に興奮していた男子は、皆別の意味で灰になりそう。

「テスト頑張って良かった。」

こうしてずっと一緒にいられるのも、彼女のおかげだ。

「涼しい!」

車で三時間、県を跨いできたキャンプ地は山中にあり、せせらぎも聞こえることから、川もかなり近い距離にある。冷えた風が入ってきて、その分体感の気温が下がっているのだろう。これは過ごしやすい。

「早くテント立てるよ。」

共同作業でテントを組み立てる。初めて作るので、説明書を何度も見直しながら進めるが緩かったり紐が妙に余ったりと、両家族とも時間がかかった。

「疲れた。」

原っぱに体を預け、全身から力を抜いて空を見る。

俺の両親の分、ゆずの両親の分、俺とゆずの分と、三人分の釘を打つ羽目になり、まだお昼前なのに満身創痍である。

「川に飛び込みたい。」

「溺れるよ。」

ゆずが俺の顔を覗きこむ。

「暑くてヤバいの。なんで俺だけこんなに重労働なんだよ。」

そらが鍛えてるからじゃない。そういえば、どうしてそんなに鍛えてるの?」

全身ちゃんと鍛えてるのは既に知っている。けど昔の彼を知ってる身からすると、外で遊ぶのは好きな人だったのは覚えてるけど、鍛える理由にはならない。

「まぁ、理由はあったよ。」

「教えてよ。」

「笑うなよ。」

「うん。」

一息ついて、彼は言った。

「アニメのヒーローとかみたいに、ゆずを守れるようになりたかった。」

今なんて言った。

「女の子を守れる男になりたかったの、もういいだろ。」

「しょ、しょうなの。私の為.....えへへへ。」

耐えられずに、思いっきり自分の感情が顔に出てしまう。トロトロになっているのは間違いない。なんなら親に見せられない顔、今見られたら爆発する自信すらある。

我慢出来ずに彼に飛び込んで、全力で抱きしめる。

(好きーーー、彼からの愛を全身で感じれて死にそう。)

自分の中のわかだまりが解決していたら、速攻で告白していたと思う。そう考えるとチクチクと胸が痛くなるが、甘えられるタイミング甘えなければ、損。

「相変わらず仲良しね。」

「うちのバカがすみません。ゆずちゃんにいつもご迷惑かけてます。」

「大丈夫ですよ。中学の頃よりも笑うようになって、私も夫も嬉しいんです。」

母親視点でも二人の関係は公然的にOKが出ていた。外野であるお互いの両親は既に付き合ってると考えていて、不安要素はどちらかというと避妊とかそっちである。

「私達もお邪魔でしょう。ここはあの子達を置いて、私達も楽しんできましょうか。」

「そうですね。」

両親達は近くの温泉街に向かった。残った俺は仮設の椅子にまったりしながら、学校で借りた小説を読む。

海外の作品で、見習いの鍛治職人と名無しの王女と詐欺師の三人のお話。一巻を読んで、あまりにも面白かったので続きも借りた。挿絵ありきで読んでいたので、このようなハードカバータイプの本当は無縁な人間だったが、次から挑戦してみてもいいかもしれない。

「重いのが欠点なんだよな。」

リュックサックに二冊入れただけでかなりの厚みになる。有名な魔法使いの作品とかになったら、どれだけ嵩張るのか。

ペラペラと本を捲って読み進めてると、急にお腹の下あたりを何かに踏まれる。

本を上げると、野良猫が俺の上でノビをしており、そのまま体を丸めて寝始めた。

見た感じこのキャンプ場で生活してる猫に見え、人に慣れてるようにも見える。

そら、お昼どうする....ズルい。」

「ゴロゴロ言いながら寝てる。後動けなくて、背中攣りそうなんで助けて欲しい。」

「そこ、私だけの場所だったのに。」

「勝手にお前の居場所にするな。」

試しに撫でてみると、大きな欠伸をしながら俺の顔に頭を擦りつけてくる。

それを見ていたゆずも負けじと俺に擦り付けてくるのだが、もしかして猫に嫉妬してるとかじゃないよな。いや、流石にただの小動物にそこまで。

「早く動いて。」

猫に対してあるまじき殺気を出して威嚇してるところを見ると、多分合ってる。

猫はお構いなく俺に甘えてるせいで、余計にゆずもヒートアップし、最終的に彼女がお腹から持ち上げて勝負は終わった。

猫を完全に追い払った後に胸にダイブしてきたが、猫からゆずに変わっただけで、俺は相変わらず読むのを妨害している。親がしっかり骨組みが入ってるタイプの仮設椅子を買ってくれたおかげで耐えれてるが、安いやつだったら二人乗ったら壊れている気がした。でも、彼女が嬉しそうなので今回は許すとしよう。

結局俺の上で寝始めたので、どっちが猫なんだと思いつつも、スマホに親から連絡が届いているのに気づく。

【温泉街に良さそうなお店あったので、そこ集合で。】

和食系のお店の写真が送られていて、ちゃんと場所も書かれている。時間的に、後30分ぐらいしたら動けば良さそうにみえる。

「起きてるだろ。30分後に移動するから、寝ぐせ直せ。」

「・・・・眠い。」

「寝起きの方が飯を食べられないの知ってるが。」

「ちょっと機嫌悪い。」

「誰のせいで本読めないと。」

「猫。」

「そうことにしてやる。」

ようやく解放された。本に付属された紐をしっかりと挟み、リュックに仕舞う。

ゆずも準備が出来たようだ。

「質問したいのだが、どうして俺達二人だけ席が違うんだ。」

「私も分からないや。」

店の前でお互いの両親からお金を渡され、どういうわけか両親達は同じテーブルなのに、俺達だけ別で案内された。しかも個室に。

「値段高いね。」

「昼食メニューにして豪華すぎないか。定食だけでも2000円以上してるぞ。」

前の温泉宿の食事処もそうだったけど、お財布が寒い学生には高いのだ。

学食がだいたい500~600円ぐらい、外で食べる時も同じぐらいで納めている。

「釜飯と鶏肉と山菜盛り、これ美味しそう。」

「ちまき、これ中華料理じゃなかったか。気になるんだけど。」

メニューの殆どが和食だが、その食材で作れそうな海外系の料理も並んでいる。数が多いから、迷うと一生迷ってしまう。

先にジュースと摘まめる料理を注文する。お腹の満たし具合で決めれば良いし、どうあがいても彼女の分も俺が食べるので、俺の分は軽めにすればいい。

「なんかキャンプしてる感覚無い。」

「キャンプと言っても、温泉入るし夕食は機材借りてBBQだから、寝るぐらいじゃないか。キャンプ好きからすると違うかもしれないけど。寝袋で寝るの体痛めるから、明日に響くんだよな。」

両親がお酒を飲むのは想像出来るので、巻き込まれないように距離は置く。

「少し前までソファで寝てたくせに。」

「誰のせいかと。」

会話の後、本命が届く。お互い最初に目に留まったので、ちまきと釜めしセットだ。

笹を外せば湯気と美味しそうな匂いが立つちまきが見え、絶対に美味しいと確信する。逆にゆずは付け合わせの鶏肉と山菜盛りの量が写真よりも多く、若干引いていた。

「食べるの手伝って。」

「残った分は俺が食うから、食べられる分だけ食べてくれ。」

伝票には5000円の文字。二人の昼食でこれなのだから、このお店で夕食とかとったらどうなるんだ。万単位なのは間違いない。

「おいひい....鶏肉柔らかい。」

トロトロになりながら食べてる彼女を見てると、お腹が空いてくる。文化祭とかで、食べてる彼女を見せておくだけで売れそうで、顔の良さはやっぱ凄い。

俺は早くに食べ終えて、残ったジュースをゆっくり飲む。

「美味しいけど、量が。」

「俺貰うから、ゆっくりしててくれ。あと出る時に背負ってとか言うなよ。」

口にすると、彼女があの顔になるのも納得の美味しさ。値段相応ながら、味の満足は高いと思える。ただ、鶏肉が見た目以上にしっかりしてるおかげか、お腹に溜まる。

水を店員さんから受け取り、合間合間に飲みながら食べ進める。

「よく食べられるのね。」

「こうなるのは読めてたから、少なめにしておいた。」

「いつもごめん。」

クラスメイトが「いっぱい食べる女の子は最高だぜ」とよく話してたけど、先ほどのゆずを思い出すと分かった気がする。好きな女の子と一緒に食べれるその状況が嬉しいのだと。これは相手側も同じなのかもしれない。

(美味しそうに食べるな。)

そらと同じことをゆずも考えていた。

彼の食べ方はおおざっぱながら全く汚くない。文字通り男の子らしい食べ方なのだ。

食べてる時は喋らないし、私と話す時は手を止める。同性相手ならそんなことしないのかもしれないけど、まかないゆず相手にはそういう風にしていると考えると、なんだか特別感があって嬉しい。

(間接キスとかの考えにはいたらないあたり、もう少し女の子の気持ちは察してほしさはあるけど。)

私が口にした部分も気にせず箸を動かしている。やはりストローとかの、意識せざるおえない物じゃないとダメなのだろうか。

「ごちそうさまでした。」

いつの間にか食べ終え、立ち上がっていた。

そんなに時間が経っていない筈と思い、スマホを確認したら一時間も経っている。

「他の人はもうお店出て好きに観光してるし、俺達も行こう。支払いはやっておくから、外で待っててくれ。」

会計を済ませる過程で、店員さんからチケットを貰う。2000円以上の支払いで付いてくる物で、近くの菓子屋とかでも使えるそうなのでありがたい。戻る途中で使わせていただこう。

外の客用のベンチで座っていたゆずの肩を叩き、手を繋ぐ。

「向かいのお店、和菓子屋で美味しそうだった。」

「お腹いっぱいだったんじゃ。」

「溶けないし、戻ってからでも食べれる。」

「はいはい。」

チケットの割引とお釣りを鑑みても、二人分のお菓子を買うお金は有にある。

向かってみると老舗らしい雰囲気があり、並べられている物は綺麗に作られていた。

花びらのお菓子を気に入ったらしい。指を差して店員に取ってもらい、俺を待つ。

(昔食った和菓子の名前が分からん。)

もちもちしてたことだけ覚えていたので、試しに店員に聞く。

「『すあま』かもしれませんね。こんな感じの見た目ではございませんでしたか。」

出されたのはおもち見たいなお菓子、俺が食べたのはこれで間違いない。

二人のお菓子が決まり、チケットも使ってお安く済ませる。お互いに歩きながら食べれそうな物を選んでしまった。ゆずの方はなんとか誘惑に打ち勝てたが、俺は食べてしまう。

「ズルい。私も食べたい...いやでも少しは運動してから。」

俺の家に来てるときはしっかり食べてるから体重を気にしてないと思っていたが、そうではなかったらしい。少し以外ではある。

「最近ずっとそらにお世話になってるでしょ。この前体重計乗ったら、凄い増えてちゃってて。そらの料理全部美味しいから。」

嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが同時に押し寄せてくる。

「明日からダイエットに付き合ってくれる人とかいないかなー。」

「満足するまでお手伝いさせていただきます。」

「三日坊主にならないようにしなきゃ。」

多分なりそう。

テントに戻ってきたが案の定両親はいなかった。母親組はマッサージに受けに、父親組は山の上の方にある神社まで遊びに行っていた。

「俺達よりも楽しんでるな。」

「どうする。」

「川見に行くか。」

「一緒に行く。」

川は澄んでおり、小さい子供も楽しそうに遊んでいる。水に触れれば心地よい冷たさ、ラムネとか冷やして飲みたくなってくる。

「早く入ろ。」

サンダルに履き替えたゆずに背中を押され、川に足を踏み入れる。

替えの靴とか持ってきてないので裸足なのだが、川自体は浅瀬で流れも穏やか。

「気持ちいい。夏は一生これでいいよ。人が死ぬ暑さとかおかしい。」

「同意。」

水を蹴りながら楽しんでいる彼女に視線が集まるが、珍しく気にしていない。

スカートの裾を掴み上げて水の上を歩く姿は、幻想的以外の言葉が見つからない。

「ねぇそら。」

振り返って見せるその笑顔に、また惚れてしまいになる。

つくづく思うが、俺の幼馴染は本当に可愛い。

見惚れてる途中でゆずに水をかけられる。すかさずかけ返す。それを何度か繰り返すうちに気づいてしまった。彼女の服が濡れて下着が透け始めてることに。

水をかけたのだから必然的に起こることなのだが、視線がより一層集まっている。

「そろそろ戻ろうか。風邪引いたら元も子もないし。」

「どこ見て話してるの?」

彼女の疑問に答える前に隠す為に着ていたパーカーを羽織らせ、急いでテントまで引き戻し、着替えるよう伝える。

疑問を浮かべながらもゆずはテント内で着替える。

「下着の着替え持ってきてたっけ。あっ透けてる。」

他の人に見られていたら恥ずかしい。代えもあったので、外で彼も待たせてるから早めに着替える。

そらがパーカー貸してくれなかったら、大変なことになってたな。)

見られたかもしれないけど、優しさの方が勝ってるので嫌な気持ちは無い。

「今大丈夫?」

「服絞ってるから少し待ってくれ。」

隙間から覗けば上半身裸の彼の姿。スマホでしっかり保存し、バレないようにちゃんとオンラインにも保存しておく。

(かっこいい。これも全部私を守る為に鍛えたんでしょ、好き。)

嬉しすぎて二人にその事を連絡する。

【あいつそんな理由で鍛えてたのかよ。まぁよく頑張ってるわ。】

まかないゆず、魔性の女。】

「そんなこと無いのに」

二人からは呆れのような文章と、そらへの労いの言葉だけが綴られていた。

両親達も帰ってきて、お待ちかねのBBQが始まる。各々が自由に好きなのを焼いて食べる流れのはずが。

そら君、良いお肉買って来たんだ。」

そらちゃん野菜も食べないと。夏バテになったら大変なんだから。」

そら一緒に食べよ。」

なぜかまかない家に囲まれていた。

うちの両親はニコニコしながら放置してるし、全員が善意でやってるので断りずらい。迷ってる間も俺の皿にどんどん盛られていく。自分の皿より俺の皿の方が盛ってると勘違いする勢いで。

諦めておかれる度に口に入れ、周りも自分の分を取り始めてようやく落ち着いた。

ゆずの母親には嫌われてない自覚はあったけど、今日のをみると父親の方も信頼されてるように思える。あまり関わりが無かったので、「娘はやらん」とか言われたらどうしようと思っていた。

BBQが始まる前、無言でお小遣い渡そうとしにきたりと凄い不審者じみていたが。

ゆずが遊びに行く時とかにしかお小遣いをねだらないから、もう少しわがまま言って欲しいのよ。」

彼女の母親にそんなことを言われた。父親らしくもっと頼られたいのだろう。

でも俺経由でお金を渡そうとするのは色々問題になるので、やらないで欲しい。

食材はどれも美味しく、この日の為に奮発したのは本当のようで、父さんが「明日から残業増やさないと」と嘆いていた。貴方がこの企画を考案したのは知ってるので、素直に働いてください。高いカメラのレンズ買ったことも母さんにバレてます。

「先ほどはすまない。」

「いえ、盛り上がってたのに水を差してすみません。」

彼女の父親が隣に立ち、静かに話し始めた。

ゆずが元気になって良かった。中学校の頃は酷く暗い顔をしていたのがとても気になってね。君とも全然遊んでいないと、君の方の両親にも相談されたことがあった。」

淡々と語っているのに、重く自分にのしかかってくる感覚がする。

「中学生は良くも悪くも変わる時期。周りと体の違いは顕著に出たり、異性との違いに悩んだりする。ましてやゆずはその中でも男性を引き付ける体格だったは私も気づいていた。」

「女子の中でも彼女は特に人気でしたね。」

でもその大半は彼女ではなく、彼女の体にしか興味がなかった。他の女子も例外ではなかったと思う。変に性知識を得てしまう故に起こってしまった問題かもしれない。

ゆずが高校の話をよくすると耳にして本当に安心したんだ。高校には、あの子を支えてくれる人がいてくれたんだと。」

白峰しらみねさんやミカン先輩、あの二人は俺からしても凄い頼りになり存在。でもゆず本人からあの日声をかけられなかったら、今の俺もいなかった。

そら君、これから娘のことをよろしく頼む。この際だからしっかり伝えておくけど、私も妻も今の所君になら託せると思っているからね。」

「あっもちろんです。もちろんです?」

今「託せる」と言ったかこの人。聞き間違いであってほしいのだが。

「なんなら婿入りで大歓迎だから。」

「まだそのラインまで進んでませんから!!!!」

外堀は埋まっていた。すみません、まだ貴方の娘さんに告白止められているんです。

「付き合ってないの教えたらハチの巣にされそうだな....。」

あの人、怒らせたら本当に怖いタイプな気がするから。

「寝ないの?」

「この近くにホタル見れる場所あるみたいだから、行こうかなと。」

「もう22時だよ。皆寝ちゃったし。」

「休みなんて夜更かししてなんぼだろ。」

食事が終わり、銭湯で体洗い終わった夜。静まり返ったテントを抜け出し、川に沿って下流に向かう。

目的地に辿り着けば、周りにも同じような観光客がちらほら立っている。

「うわー。」

小さな湖の上にホタルの光が踊るように飛び、街灯も無い夜だからこその美しさがそこにはあった。

一匹のホタルが彼女に向かって行き、そのまま指先に止まる。

「一人じゃないよ。」

ゆずは驚かさないように静かに歩き、そのホタルを光が舞う方に連れて行く。

(本当に絵になるな。)

「ホタル綺麗だね。」

「綺麗。」

「そこは、『ゆずの方が綺麗だよ』とか言う場面。」

「『月が綺麗』とか言って欲しかったか。」

「・・・・それもあり。」

なんだかんだこの手の告白を知ってるので、もどかしさを感じる。

月明りとホタルの光。時間の進みが遅く感じるほどに、二人はそれを眺め続けた。

「明日も早いし、もう帰ろうか。」

「寝袋ブカブカだから、一緒に寝よ。」

「俺のスペース消えるんだが。」

そらは嫌な顔をしつつも、彼女の要望に応えるのであった。

「凄い楽しかったです。」

「私達、この一時間無限に二人の惚気を聞かされたんだが。」

「ミカン先輩、それ分かってて集まった時点で負けです。」

キャンプが終わった次の日、こうして女子会が開かれていた。

まかないお嬢ちゃん、その首大丈夫かい。」

「首?」

ゆずが指摘された箇所に触れるとかゆみが走る。どうやら昨夜蚊に刺されていたようだ。虫よけを使うのを忘れていたので仕方がない。

「あの坊主とずっと一緒だったんだよね。」

「はい。」

道園みちぞのは思考を加速させる。

話を聞いた限り二人は日夜ずっと共にしていた。真夜中に二人きっりで外出し、眠る瞬間まで一緒にいた、そして首の赤い腫れ。

(やることやったのか!?)

「先輩が考えてることは容易に想像出来ますが、100%違います。後まかないゆず、自分の話を思い出しながら後でいいから『キスマーク』という言葉を調べろ。とんでもない誤解を招く言い方してるから。」

「誤解?」

分からないままその場で調べ、その日声にならない叫びを彼女は上げた。

「ベッドインまでまだまだ道は長そうね。」

「○○しなきゃ出れない部屋に閉じ込めるしかないだろ。」

「確かに。」

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