第3話 目撃者
もっとも、それも無理もないことで、いくら、
「何かあったら、警察に」
といわれてはいたが、
「少々のことでは、見て見ぬふり」
と感じていたのだ。
「煩わしいことは嫌い」
というのが共通下意見であり、それは、従業員だけではなく、公園の運営会社としても、
「なるべく波風を立てたくない」
というのは当たり前のことであった。
つまり、
「警察とは立場が違う」
ということだ。
確かに、公園の運営をしているわけだから、
「治安を守るのは当たり前」
と考えているわけだが、実際には、警察というものがあるわけなので、そこまで深く入り込む必要はないということだ。
逆に、何か起これば、
「ややこしいことに巻き込まれた」
といってよく、
「事件などないに越したことはない」
ということである。
しかし、事件は起こってしまった。
警察に連絡をして、まもなくやってくるだろう。
運営会社にも連絡を入れ、警察へ通報した旨をいうと、
「後は、警察の指示に従ってください」
という指示を受けただけだった。
そうこうしているうちに、警察がやってきた。刑事が鑑識を連れて、ものものしい事態である。
パトランプとサイレンが物々しく、完全に、一日の始まりである早朝の、厳かな雰囲気は台無しということであった。
パトカーが数台やってきていて、無言のうちに、形式的に見えるほど、事件現場というものが出来上がっていく。
規制線が敷かれ、
「いかにも、殺害現場と化していた」
といっていいだろう。
最初は、無線から聞こえる機械音のような声と、ざわざわと喧騒とした雰囲気が、当たりを包んでいたが、その中で、鑑識の捜査は、実にテキパキと動いているように見えたのだ。
その様子を見ながら、二人の刑事が、
「これは、自殺ですかね?」
ということであったが、
「うん、何とも言えないかも知れないが、見たところ、これと言った外傷もなければ、争った跡もない。自殺だとすれば、服毒自殺なのだろうが、見ていると、苦しんだ後というのも、見当たらない」
という。
要するに、
「鑑識に委ねるしかない」
ということであろう。
鑑識がいろいろ調べていると、
「これは、殺人ですね。首を絞められた痕がありますね」
ということであった。
そもそも、その死体が見つかったのは、車の運転席に、もたれるようにして座っていたことで、ハッキリとは分からなかった、
頭を下げていたし、刑事としては、
「服毒自殺」
だということに、思い込みを持っていたことで、首筋も見たのだが、その時は光の関係か、
「絞殺された痕」
というのが分からなかったのだ。
鑑識がある程度調べ、
「遺体を運転席から引きずり出して、表のシートに仰向けに寝かせた時に、判明した」
ということであった。
「おや?」
と、死体を見ていた樋口刑事は、思わず声を挙げた。
樋口刑事が注目したのは、被害者の口元だったからだ。
口の端から赤いものが少し溢れているかのように見えた。目立って流れているわけではないが、最初は、
「ケチャップかな?」
と思った。
もし、これが、鑑識から、
「死因は絞殺だ」
といわれなければ、完全に、
「服毒による自殺の痕だ」
と感じたことだろう。
しかし、
「死因は絞殺だ」
と聞かされた後なだけに、逆に、
「服毒なんて考えられない」
と思ったわけである。
確かに、服毒ということであれば、吐血としては少ない気がするが、それは、
「死因が服毒」
ということで、何ともいえない気がしたのだ。
「この痕は?」
と鑑識に聴いてみると、
「何やら、毒物も服用しているかも知れませんね。何も毒を服用したからといって、皆が皆、テレビドラマの毒殺シーンのような形の吐血があるわけではないですからね」
ということであった。
確かに、毒の種類によっても、摂取量によっても違う。
今回のように、
「死因は絞殺」
といわれているので、本来であれば、
「服毒だけでは致死量であっても、吐血をしない毒だってある」
といわれていたが、
「毒を飲むと、絶対に吐血する」
というものばかりではないということになるのだろう。
そんなことを考えていると、
「この事件、何か不思議な感じがするな」
ということであった。
実際に、首には、凶器が残っているわけではなかった。残っていれば、すぐに、
「絞殺だ」
ということが分かったからだ。
しかし、
「毒物を服用している」
ということは見た目にも分かっていることであって、普通に考えれば、
「殺人に対して、念には念を入れた」
といえるのではないだろうか?
殺人の目的は、
「あくまでも、相手の絶命」
ということで、犯人とすれば、
「罪を逃れる」
ということよりも、
「確実に死に至らしめる」
ということを重視したように感じた。
ただ、これは当たり前のことだ。
殺人の動機が、
「怨恨」
であったり、
「金銭目的」
のような様々考えられるが、
「確実に死んでもらわなければ困る」
ということで、殺害に及んでいるわけなので、もし、
「殺し損ねたら?」
ということであれば、
「もう一度、殺害計画を練り直す」
という必要があり、犯人とすれば、
「必殺」
でなければいけないということになるのだ。
それは当たり前のことであり、
「一度殺そうとした相手を、殺しそこなってしまうと、警察が動くことになる」
ということで、下手をすれば、
「殺害計画を中止しないといけない」
ということになる。
そうなると、
「相手が死んでくれないと、自分が生きていくことができない」
と考えてしまい、殺害計画がとん挫した時点で、
「俺はもう終わりだ」
ということになり、結局、
「自害することになる」
ということで、まったく違ったシナリオになってしまう可能性があるということである。
つまり。
「自殺をしたのは、他の場合と同じで、追い詰められた」
ということになるのだが、その経緯が違うということで、分かりにくい場合もあると考えられるだろう。
今回の殺人を、
「念には念を入れた」
というのも、そのあたりを考えれば分からなくもないということで、逆に考えると、
「犯人の精神状態が、一筋縄の捜査で解明できるものなのだろうか?」
ということも考えさせられた。
ただ、これも考えすぎなのかも知れない。
「切羽詰まっている」
というよりも、
「性格的に、完璧を期する」
という人なのかも知れない。
いや、そうとも限らないかも知れない。
「確かに、念には念を入れたということも考えられるが、逆に考えれば、殺人事件というものに、余計な感情を入れたり、必要以上のことをしたりすれば、ボロが出る可能性がないとはいえないからな」
と、樋口刑事は言った。
「というと?」
と。もう一人の若い刑事が聞いたので、
「殺人において、共犯者を必要とする場合というのは、共犯者が多ければ多いほど、露見する可能性が高いということになるだろう? それと同じさ」
と言った。
同行している若い刑事。名前を
「河合刑事」
と言ったが、彼はまだ刑事課に赴任して3年目の若手だが、
「たまに鋭いことをいい、それが事件解決につながる」
ということ、樋口刑事は、そんな河合刑事に敬意を表していて、少なくとも、彼の意見は、無視は絶対にしないようにしていた。
しかし、鵜呑みにするということもなく、
「彼の話を十分に聞くには聞くが、あくまでも、自分の推理を組み立てる中での、参考にする」
ということであった。
樋口刑事は、自分でも、自分の推理にある程度の自信を持っていて、それが事件解決に役立つと思っていたのだ。
だから、自分から、
「河合刑事をパートナーに」
ということで、ここ2年はパートナーを張ってきた。
最近では他の刑事も、河合刑事の
「隠れた素質」
というものに気づいたようだが、樋口刑事が手放すわけはない。
今のところ、
「K警察署刑事課での、最高のコンビ」
といわれているのであった。
今回の事件現場を見て、二人ともに、
「何かの違和感」
というものを感じていた。
その違和感が、どのようなものかということは、最初は感覚的ということなので、具体的には分からないが、二人が、
「違和感を感じる」
と感じた時、
「事件の展開が流動的になる」
ということがえてしてあるというもので、要するに、
「先の展開が読めない」
という場合が多く、だからこそ、
「事件の展開によっては、急転直下で、いきなり解決してしまう」
ということもあった。
それは、二人の、
「ひらめき」
というところからきているというのは、
「れっきとした見方」
ということであり。
「もちろん、推理というものが、エビデンスに基づいた完璧に近い推理」
ということで、その時初めて、自分たちの推理を明かすことになる。
そうすることで、
「完璧に近いもの」
という状況が、さらに、
「完璧に近くなる」
ということになる。
それを自覚している二人の刑事は、自分の中の理論として、
「世の中に完全、完璧というものはない」
と思っている。
だから、完全犯罪というものもないはずなので、
「事件は、必ず解決されるはず」
と思っているわけで、それでも、解決できずに、未解決事件として残ってしまったとすれば、それは、
「警察が、真相にたどり着けなかっただけ」
ということで、その責任は、
「捜査員にある」
ということなのだ。
ただ、捜査員だけの責任ではなく、
「警察組織にも、その責任の一端はある」
ということで、警察組織というものが、
「真相解明というものの足かせになっている」
ということは感じるが、
「だからと言って、刑事一個人に、どうすることもできない」
といえるのではないだろうか?
それを考えると、
「警察組織と、捜査員の溝は深い」
ということを、いまさらのように思い知らされるというものだった。
ただ、そんなことは最初から分かっているというもので、
「それを込みということでの、捜査ということだ」
というのを理解はしているつもりだが、まだ若い河合刑事ともなれば、
「これが今まであこがれてきた警察という仕事なのか?」
と、刑事という仕事に対しての壁を感じないわけにはいかなかった。
そもそも、河合刑事というのは、
「刑事としては、まだまだ甘いところがある」
といわれているが、その甘さは、
「覚悟が足りない」
ということなのか、
「まだまだ学生時代の気分が抜けていないのか?」
ということになるのか、見た目は分からなかったが、だが、
「誰もが一度は通る道」
ということを考えれば、
「彼の場合は、そんな中でも、なくしてはいけない」
という何かが存在し、漠然としてはいたが、
「それを守るのが、先輩としての俺の役目」
と、樋口刑事は考えていたのだった。
実際に樋口刑事は、これまで何度となく、
「河合刑事とのコンビ」
で、事件を解決してきた。
河合刑事としては、
「樋口刑事のおかげ」
と真剣に感じているようで、
「自分の意見が功を奏している」
ということは気づいているのだが、だからと言って、
「それを材料に事件を解決したのは、樋口刑事なんだ」
ということになるのであった。
今回の事件でも、
「樋口刑事に期待されている」
ということを励みに河合刑事も張り切っている。
「決してプレッシャーにならないように」
というのも、樋口刑事の配慮からで、そういう意味でも、
「二人は最高のコンビだ」
といってもいいだろう。
「樋口刑事」
と、河合刑事が声を掛けた。
「どうした?」
と樋口刑事は、河合刑事を振り返ったが、河合刑事が、一人の男性を連れてきているのを見て、少しびっくりした。
「その男性は?」
と聞いてみると、
「はい、この方が我々に話があるということなんです」
それを聴いた樋口刑事は、一瞬だけ、怪訝な顔になった。
それは、
「煩わしい」
などという気持ちでは決してなく、
「なぜ、死体が発見され、初動捜査をしているこのタイミングで?」
ということであった。
まだ、早朝といってもいい時間帯、確かに、早朝の散歩であったり、ジョギングなどで、人がいることに不思議はないが、
「そもそも、警察に対して、市民というのは非協力的だ」
ということは認識しているつもりなので、このタイミングというのは、
「目撃者としては、早すぎる」
といってもいい。
だから、樋口刑事は、怪訝な表情になったわけで、それでも、相手に嫌な思いをさせてはいけないと、すぐに表情を崩したのだった。
「あなたは?」
と声を掛けると、少し戸惑いながら、それでも、
「何か言わないことがある:
ということは、その雰囲気から見えていることなので、
「決して焦らせてはいけない」
と、樋口刑事は感じていた。
「私は、ここの掃除をしている者なんですが、名前を斎藤といいます」
というと、それを聴いたことで反応した男がいた。
その人は、
「事件の第一発見者」
であり、
「通報者」
だったのだ。
本来であれば、初動捜査の中の早い段階で、事情聴取を行う必要がある相手だったわけで、河合刑事も樋口刑事も、彼の存在を決して忘れていたわけではなく、気には止めながら、自分の捜査に集中しているところだったのだ。
だから、
「いずれは話を聞く」
という予定だったのだが、そこに、割って入るかのように、河合刑事が、
「ここで初めて登場する人物」
を最初に連れてきたのであった。
「ということは、河合刑事が、第一発見者よりも先に話を聞く必要があると判断したということになるのだろうか?」
と感じた。
最初に聴く必要があるということであれば、それは、
「殺害されたというこの状況に関しての何か報告を受けることができる」
ということになるのではないかと感じたのだ。
「その掃除をされている斎藤さんですが、我々に何か言いたいことがあるということですね?」
とやんわりとではあるが、言葉が若干震えていたのは、
「樋口刑事も、今回の事件の異様さに、何かを感じているのだろう」
と、
「自分も同じだ」
と考えている河合刑事も、同じように興奮気味であった。
二人の刑事のうち、どちらが、
「前のめりなのか?」
ということであったが、どちらかといえば、
「河合刑事」
だったのだ。
血気盛んなのは、若いということで、無理もないことであり、それが、いい方向に向かえばさらにいいわけであり、それを樋口刑事は期待していた。
そんな前のめりになっているということを感じさせたのが、
「斎藤という目撃者を連れてきたことで、何か、事件で重要なことなのか、少しでも進展するべく話が聞けるだろう」
ということでの前のめりだったのだ。
「私たちは、この公園の掃除を任されているのですが、実は掃除だけではなく、夜も見回りというのも任されているんです」
ということであった。
「ほう」
と樋口刑事は、少し意外な感じがした。
それを察した斎藤は、それを逆にニンマリとして見ていたのだが、それが、
「刑事が自分の話に食いついた」
と思ったからで、ある意味、
「この斎藤という男、一筋縄ではいかないかも?」
という、それこそ余計なことまで考えてしまうのだった。
「私たちは、警察がなかなかやってくれないところの警備も任されているので、夜の警備はある程度覚悟を持っているわけです」
と、
「完全に皮肉だ」
と思えることを、当たり前のこととして口にしていることで、
「案外、彼は皮肉を言っているつもりはないんだろうな」
とも思えたのだ。
それにしても、
「警察が手に負えない」
ということも、昨今の人手不足の観点というものを考えると、分からないわけではなかった。
そのあたりの事情も前述のとおりであるが、それを、斎藤はかいつまんで話をしていたのだが、河合刑事はもちろんのこと、樋口刑事も周知のことだったようである。
「じゃあ、警備というか、パトロールは、夜8時か9時くらいに行うということですね?」
「ええ、この時期は夏至の頃とは違うので、夜の8時頃にパトロールします。その時には、すでに、駐車場の入り口は閉まっているので、車の出し入れはできないということですね。本来は、駐車はダメなんですが、うちは、あまり厳しくなく、
「翌日のパトロールまでに車がなくなっていれば、おとがめなしということにしていたんです。その翌日であれば、警察に通報しますけどね」
ということであった。
樋口刑事も河合刑事も刑事課の人間なので、このあたりのカラクリはよくは知らなかった。
当然、
「交通課の仕事」
ということであり、その時に、駐車違反ということで取り締まりということになるのだろう。
「我々は、交通課ではないので、詳しくは分からないのですが、駐車違反となる車は多かったりするんですか?」
と聞かれた斎藤は、
「ええ、そうですね。比較的多いとは思います」
「それでその車は、その翌日にはなくなっているんですか?」
「ほぼなくなっていますね。もし、さらに違法駐車が続けば、こちらも、レッカーの手配をお願いすることになりますからね」
ということであった。
「なるほど、最初だけは、大目に見るが、違反が確定し、悪質になると、容赦はしないということですね」
「ええ、それは運営ということになるでしょうからね。我々も、経営陣ではないので、何とも言えませんが、手間がかかっているということで、経営陣の立場に近いわけです。だから、レッカーも致し方ないと思います」
と言いながら、次第に語尾が上がってくるということに気が付いた。
だから、この人物は、
「勧善懲悪という感じなんだろうな」
と、樋口刑事は感じたのだ。
「それから?」
と、話の続きを促した。
「夜のパトロールの時なんですが、ちょうど、そこの車が何となく揺れているのが見えたんです。だから最初は、闇に紛れて、いかがわしいことをしている輩がいると感じたわけなんです」
という。
「実際に近づいてみましたか?」
「ええ、ゆっくりと近づきました。本来であれば、我々にそこまで踏み込んではいけないのかも知れないですが、何しろパトロールを任されていたので、近づいてみると、何やら、前の席で、誰かが上下しているように見えたんですね。それで自分は、やっているということに確信を持ったのですが、この場合、それを止めるということはできません。行為の最中であれば、ふいに声を掛けられたりして脅かすと、けいれんを起こしかねないという話を聞いたことがあったので、目撃をしても、必要以上に刺激してはいけないと追われていたんですね」
というと、河合刑事が、
「その場合は放っておくんですか?」
ということを聴いたが、
「少し時間を待ってみて、落ち着いたように見えれば、注意喚起くらいはする」
ということにしていたんです。
「今回だけはしょうがないが、次回からは絶対にしないようにということでですね」
というのだった。
確かに、今回は、もう表に出ることができない以上、どうすることもできない。
「次回を未然に防いだ」
という成果があれば、十分だということになるのだ。
「なるほど、じゃあ、今回はその人に声を掛けたんですか?」
「いいえ、相変わらずに見えたので、声を掛けることはしませんでした。何といっても、夜が更けていて、街灯があるとはいえ、闇夜の中で、車の中でうごめく姿が見えたというだけなので、ハッキリと見えたわけではないです。実際に見えてしまうと、今度はこっちが、覗いたということになり、話がややこしくなりますからね、あくまでも、注意喚起が目的だということでのパトロールですからね」
ということであった。
「じゃあ、ここでは、これまでに、何かトラブルが起こったり、事件が発生したりということはありましたか?」
と聞かれた斎藤は、
「私はこちらで4年くらい勤務していますが、今までに、トラブルは若干あったかも知れませんが、事件というものはなかったような気がします」
という。
「なるほど」
というと、
「ただ、ストーカーがいて、公園でも気を付けるようにということで、警察からの注意喚起を受けたことはありました。実際に、その時は、こちらが警戒する前に、実際に、他で、その人たちがかかわるストーカー殺人というものが起こったので、最悪の結果にはなったようですが、我々の手がかかわるということはありませんでしたね」
ということだった。
「それじゃあ、ホッと胸をなでおろされたことでしょう?」
と言われたが、
「ええ、確かにそうなんですが、下手をすれば、我々がかかわることになったという可能性は十分にあるわけで、ただ、我々は運がよかったというだけのことですからね。それを思えば、事なきをえたという言葉だけで片付けていいものかどうか、難しいところです」
と答えたのだ。
「ところで、今回は、何が言いたいので?」
と、樋口刑事は、自分が話をはぐらかしたくせに、話がそれたことを、
「まるで相手のせいだ」
と言わんばかりに言った。
これはあくまでも、樋口刑事の、
「一流の聞き込みテクニック」
というべきか、
「相手を誘導できる相手かということを見極めながら話を聞いているところに、急に我に返ったように話を戻すことで、相手の記憶をさらに引き戻す効果があることを分かっていたのだ」
しかし、これは最初に、
「誘導できる相手か?」
ということでなければ、却って、
「最初から話そうと忘れさせてしまうことになる」
という、
「もろ刃の剣である」
ということを分かってのことであった。
だから、そういう意味でも、
「一流のテクニック」
ということで、それは、
「使える人間が限られている」
ということからの一流であった。
このテクニックは、
「自分で、最初からこの発想に行きついた人でなければできない」
ということだ。
つまり、
「人から教育を受けたり、郵送される」
ということでは決してできるわけはないということが歴然としていると言ってもいいだろう。
それを考えると、斎藤という男は。樋口刑事にとって、
「誘導しやすい人物である」
ということが分かるのであった。
それが、
「斎藤という男が、実は目撃者として最高の男だった」
ということを示しているのかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます