第十二話 オタクくんはめんどくさい
たとえば、俺が凛々子の好意を受け入れて恋仲になったとしよう。
最初のうちはいいかもしれない。付き合いたてのうちはお互いに舞い上がっているから、嫌な部分を気にせずにいられるだろう。
恐らく、二人でさらに協力することもできるので、この部屋から出ることだってできるはずだ。
でも、その後はどうなる?
外に出て、色々な状況が落ち着いて、凛々子が冷静さを取り戻した時……きっと、少なからずショックを受けるはずだ。
どうして、俺のような人間を好きになってしまったのか。
そう思われるのも、そう思わせるのも怖い。
地雷系女子とオタク系男子の組み合わせなのだ。
属性として相性が悪いのだから、うまくいかない可能性の方が高いだろう。
その場合はきっと、凛々子を傷つけることになる。
俺と過ごしたこの時間にトラウマを覚える可能性だってある。
だから耐えていた。
できることなら、彼女のことを傷つけたくない。
少しでも可能性があるなら、彼女が穏やかでいられる選択肢を取りたい。
その一心で、我慢している。
本能を抑制して、凛々子に対する衝動をこらえいる。
別に俺は、凛々子のことが嫌いじゃない。女子に興味がないわけでもない。
俺は平気なふりをしているのだ。
(でも、いつまでも彼女の気持ちを無視しているわけにはいかないよな)
凛々子が変にポジティブなおかげか、あるいは俺がなんだかんだ嫌っていないことを感じ取っているのか、つれない態度をとっても気にしている様子はない。
とはいえ、凛々子の感情が取り返しのつかないほど大きくなったら……その時に大きな問題となるだろう。
だったら、今のうちに言っておくべきではないだろうか。
「……ちゅーは唇にしてね」
「起きてるならそう言えよ」
「さっき起きたんです~。ぴっぴに見られててドキドキしてたけど、何もしないから飽きちゃった」
ちょうど、凛々子も目覚めたし。いや、最初から寝てなかったのか?
どちらでもいいか。いずれにしても、凛々子は起きている。
いつもなら彼女のことはスルーして自分のことをやるのだが、今日はなんだかそんな気になれない。
先程、手の甲にキスしたことといい……普段よりも、覚悟が決まっている気がした。
(問題を先送りにしても、意味はない。だから――言うか)
凛々子の愛情が偽りのものであることを。
ストックホルム症候群の影響で、俺への好意が捏造されていることを。
ちゃんと、伝えることにしたのだ。
「凛々子。真剣な話だ……聞いてくれるか?」
「え? 急にどーしたの? 別にいいけど……あ、もしかして? やだ、ついに!? ぴっぴったら、もう♡」
凛々子はなんだか嬉しそうだ。
もしかしたら、俺から愛の言葉が出てくると思っているのかもしれない。
その期待を裏切るのは申し訳ないが……やっぱり、ちゃんと言っておこう。
「凛々子って、俺のこと好きだよな?」
「うゅ。好きぴだよ♡」
「でも――それは、ストックホルム症候群のせいなんだ」
そして俺は、ついに言った。
「んにゃ? なにそれ?」
もちろん凛々子は分かっていない。
不思議そうに首をかしげていたので、丁寧に説明してあげた。
これできっと、凛々子は自分の本当の気持ちに気付くだろう。
最初はショックを受けるかもしれない。感情が操作されていると知って、動揺するだろう。
でも、そこはちゃんと俺がケアする。
彼女が傷つかないために、ちゃんとそばで見守るのだ。
そうしていけば、きっと。
偽りではない関係性を、構築することだってできるはずだから――
「は? きも。めんどくさ。死ねば?」
あれ? 綺麗にまとめられたつもりだったのに。
凛々子は白けたような目で俺を見て、大きくため息をついていた。
え、何その反応。
「し、ししし死ねって言った!?」
そんな顔をされるとは思っていなかったので、逆に俺の方が動揺してしまった――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もし続きが気になった方は、最新話からできる評価(☆☆☆)や感想などいただけると更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m
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