決闘
結局、無茶ばかりしていたからこうなる。行く宛もなくさ迷う。いや、本来の目的地はここであっているのだが、待ち合わせ場所は聞き忘れた。向こうが勝手に見つけてくれるものだと思っているが誰も声をかけては来なかった。俺と違ってエリカは迷いなく歩いていく。それを無視して休みたいが、着いていく他ないのだろう。
町外れの教会にやってきた。エリカが中へ入り、俺はそれに着いていく。
「カン・ザ・トラッシュ。話の通り捨て駒にするにはちょうど良い男だったな。」
教会で待ち受けていた男がそう言った。エリカはその男の隣に並ぶ。その男の名はスケアクロウ。面倒な奴と出くわしたものだ。
「ドロシーではなく西の魔女だったのか。エリカ・グレイス。」
「何も聞かなかったのはあなたよ、カーボーイ。」
それはそうだ。だいたい面倒な話は聞かないことにしている。
「スケアクロウ、こいつを渡して仕事は終わり。そういう話だったろう。」
「滑稽ね。」
「傑作だよ。」
2人は嗤う。馬鹿にされているのは分かるがどうでも良いことだ。目の前には、あのスケアクロウがいる。それだけで十分だった。
「結局のところ、貴方は空っぽなのよ、カーボーイ。自分で考える知恵もなく、運命に抗う勇気もなく、誰かに同情する心もない。だから、私の下手な演技にすら気がつかない。トラッシユなんて、貴方には過ぎた名だわ。
それもそうだな。いつも流されてばかり。目的もなく、野望もなく、使命もない。事態が悪化してもへらへら笑うぐらいしかできない俺には、空っぽがお似合いだと自分でも思う。
「それじゃあ、これからはカン・ジ・エンプティとでも名乗るかな。ありがとう、レディ。」
「どういたしまして。その名で墓標を建ててあげるわ。カン・ジ・エンプティさん。」
きっとここで殺されるべきなのだろう。これから先はもっと辛い現実が襲って来るに違いない。それはちょっと楽しみだ。
「冥土の土産に教えてほしい。本当のところ、どんな計画だったんだ?」
「俺の罪をお前に押し付けて、俺とエリカはグリーンブラッドの幹部になる」
「お前も大概頭が悪いな。利権だけとられて捨てられるだけだぞ。」
「そうはならないさ。エリカ・グレイスが手の内にある限りグレイスの残りカス共は言うことを聞く。」
「救いようがないよ。」
馬鹿げた話に付き合わされたものだ。スケアクロウの頭にはエリカがわざわざ逃げ出した事実がすっぽりと抜け落ちているらしい。
「話はこれで終わりだ。銃を抜けよ、カーボーイ。最後はガンマンとして殺してやる。」
「生憎と俺はガンマンではないのでね。このままで良いさ。」
スケアクロウの銃口は俺の心臓に向いている。それはわかる。引き金を引かれればそれで俺は終了だ。お役御免。今回の役は俺にしてはできすぎだった。
「アディオス、カーボーイ。良い捨て駒だったよ。」
「……ッ!」
俺は膝を抜き、横へ転がった。引き金の音。だが撃ち抜かれたのは心臓じゃなく左肩――まあ、上等なもんだ。
「百発百中のガンマンだと伺っていたが、嘘だったようだな、スケアクロウ。」
まずは1発。やる気が削がれる。面倒になってきた。
「銃弾には二種類ある。知っているかい、スケアクロウ。」
俺は立ち上がってスケアクロウに向かって歩きだした。
バン!と銃声がなり俺の横を銃弾が通りすぎる。あえてゆっくりとスケアクロウに近づいて行く。
「銃弾には二種類ある。人に当たる弾と当たらない弾さ。お前の弾倉に収まっているのは当たらない弾らしいな。」
バン!と銃声がなる。また、俺には当たらない。
「どうした、スケアクロウ。落ち着いて狙いを定めろよ。手が震えているのかい?」
俺は平然と歩く。また、スケアクロウの銃弾がそれていく。
「どうして当たらないんだ。弾が本当に避けているとでも言うつもりか!」
慣れた拳銃使いほど反射で銃を撃つ。だから、自分の異常に気がつかないまま銃を撃ってしまう。俺はスケアクロウの目の前にたどり着く。隣のエリカは怯えて声が出ないらしい。
「上がらない右腕でいくら撃とうが外れるに決まっているだろ。撃たれた事にすら気がつかなかったのかい?」
スケアクロウの右腕から血が滴り落ちている。上がりきらない右腕に握られた拳銃は下を向いたままだ。それでは銃弾は明後日の方向に飛ぶばかり。
「デリンジャーさ。まあ、あると便利な品物だが趣味じゃないかな。ここまで近づけば、その腕でも当てられるだろ?」
「いつ撃った?俺はお前から目を離してはいなかったぞ。」
スケアクロウは痛みを思い出したのか、冷や汗をかきながら聞いてきた。
「お前が撃つ前だよ、スケアクロウ。」
答えてからホルスターに収まっているリボルバーを抜いた。
「私を殺さないの?カーボーイ。」
エリカはスケアクロウが息絶えたのを確認してから俺に尋ねてきた。
「お前を殺すのは契約違反だからな」
「あら、意外。契約はちゃんと守るのね」
「しかし、あんな野心しかない馬鹿についていくきになったな」
「空っぽなあんたよりはマシよ」
「そうだな」
俺はシリンダーに収まった5つの弾丸から2発抜く。そして、シリンダーを回してから納める。確率は半々のロシアンルーレット。
「それじゃ、運試しといこうか」
「あなたは人を殺す時ですら自分の意思では行わないのね。本当に空っぽな人。」
「それが性分でね。何か言い残す事はあるかい。」
「いいえ」
俺は引き金を引いた。
ガチッ!とリボルバーから空撃ちした音が響く。
「1人ではあのロリコン野郎を殺せない」
「知らねえよ。それと裏口から行け。正面の奴に俺は用がある」
エリカは俺を睨んで、喋ることなく立ち去った。それが彼女のためになったかどうかは知らない。
「さぁ、始めようか」
開いたままにしてあったドアの向こうに銃口を向ける。
「ストックリバー以来だな」
ドアの向こうに隠れている男に言う。
不用意に出てこない。スケアクロウとは違う。あの時も付け入る隙なんて1つもなかった。
何をやろうが同じ結果になるだろう。それにこっちは負傷している。時間がたつほど俺が不利だ。ならば、出たとこ勝負。それしか勝ち目はない。出入口に駆ける。
そして俺は、待ち構えていた男に撃たれた。
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