第2話 ダンジョンの現実
見回してみると、そこはまるでゲームでよく見るようなダンジョンだった。石造りの床と壁、奥へ続く暗い通路、天井から滴る水音。
「ここが…ダンジョン…」
ここが日本だなんて、信じられない。俺は制服姿のまま、薄暗い空間の中で、場違いな違和感に身をすくませた。
「イリス……これ、本当にどこなんだ?」
俺の問いかけに、イリスは宙に浮かびながら静かに言った。
「ダンジョンであることは確か。でも、どうしてここにいるのかは……わからない。記録にも、転送の痕跡がないの」
頭を抱えるしかない。現実味がなさすぎる。
「一応、GPSでの座標は取得できてる。位置情報では、ここ……日本になってる」
「は? ここが、日本?」
石の壁に囲まれたこの空間が日本?
「それ、どう考えてもおかしいだろ……」
まるで、ライトノベルの世界じゃないか。
俺はふと思いついて、小さく呟いた。
「ステータスオープン……」
……何も起きない。
「……あれ? ステータスウィンドウとか出ないのか?」
イリスのくすくすと笑う声が響いた。
「悠くん、なにやってんの? ライトノベルの読みすぎだよ〜」
「いやでも、見ろよこの状況! ラノベの世界そのものじゃん!」
「ふふっ、残念だけど、ちゃんと令和の日本だからね」
俺は思わず吹き出しそうになった。少し和んだ空気。
「でも日本にダンジョンなんてないだろ。アーティファクトがとか異世界がとかそんなレベルでおかしいぞ」
「可能性は否定できないわ。空間の材質や構造、装飾の意匠……どれも近代建築の範疇から逸脱してる。だけど、記録上のデータに類似情報はなし」
「要するに、現代日本の常識が通じない場所ってことか……」
足元の石の床を軽く踏みしめる。反響する硬い音が、現実を突きつけるようで、背筋が寒くなる。
だが次の瞬間、イリスの声が低くなる。
「……悠くん、このままここにいるのはおすすめできないわ。ダンジョンの構造にごく微細な振動と圧力変化を検知。高確率で崩落、あるいはトラップの作動が始まると思う」
「え、そんなのわかるのか!?」
「もちろん。私は完璧だから。あっちに扉があるわ。まだ時間はあるから、落ち着いて進んで」
どこか余裕のある口調に、俺は息を整えつつ歩き出す。
湿った石の床を蹴り、イリスの指示された方に足を進めると扉へがあった。
そして──
背後から、轟音が響いた。
振り返ると、地面が崩れ落ち、波のようにこちらへ迫ってくる。
「うわっ、やばっ……!」
「悠くん、扉をくぐれば大丈夫だから。ほら、入って!」
イリスの声に背中を押されるように、俺は扉を勢いよく開けて中へ飛び込んだ。
扉の向こうは薄暗い通路になっていて、微かに風が吹き抜けていた。
「はあ……助かった……」
「お疲れさま、悠くん。よく頑張ったね」
ふと見上げると、イリスが柔らかな笑みを浮かべていた。心臓の鼓動がまだ速いままだったが、その顔を見て、ようやく少しだけ安心できた気がした。
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