元イジメっ子、美人生徒会長の依頼で腐った学園を改革する

@knight-one

プロローグ

煌星(こうせい)学園の体育倉庫裏。人目の届かないこの場所は、“処分場”という名前で呼ばれている。弱者を囲み、見えないところで痛めつける、いつもの手口。


今日の主役は僕だ。


金属バットを肩にかけた男、鬼塚レンジ。2年B組、力の支配者。彼の周囲には取り巻きが三人、僕を囲むように立っていた。


「おい、終夜。なんか遺言あるか?」


そう聞かれて、僕は首を少し傾けた。


「特にはない。……しいて言えば、お前らがこれから見せる顔を、ちゃんと見ておけってことかな」


「は?」


鬼塚が眉をひそめる。理解できなかったらしい。


少しの沈黙。その直後、鬼塚がバットを構え――振りかぶる。


――甘い。


バットが振り切られる前に、僕は鬼塚の懐へ一歩踏み出す。身体の重心を滑らせるようにずらし、彼の右手首にそっと触れる。金属音が鳴ることなく、バットの軌道が外れた。


その隙を突いて、肘を腹部へ。


「……反撃を受ける前提で殴るのは、悪手だよ」


呻き声とともに鬼塚の身体が折れ、続けて膝を顎下へ打ち込む。脳が揺れる音が聞こえた気がした。鬼塚はそのまま地面に崩れる。


「れ、レンジさん……!?」「お、おい、終夜、やりすぎじゃ――」


「やりすぎ?」


僕は顔を上げて、取り巻きたちを見た。


「……武器を持ち出して集団で囲んで、それで“やりすぎ”を語るのは、都合がよすぎるよ」


一歩、歩み寄る。たったそれだけで、彼らは一斉に数歩、下がった。


「僕は正義の味方じゃない。だけど、悪いことには報いが必要だと思ってる。――それだけの話だよ」


地面に伏せたままの鬼塚が呻いた。


「て、てめぇ……いったい何なんだよ……」


「僕?」


袖をまくりながら、淡々と答える。


「ただの元・いじめっ子。……でも、地獄に落ちたことがある人間は、地獄の住人と話す言葉を知ってる。それだけだ」


――そして、数時間前。

煌星学園・生徒会室。


整った資料棚の一角に、目立つ赤いファイルが置かれていた。

表紙にはこう記されている。


「非公式記録――裏生徒会・制裁任務第一号:制裁対象 鬼塚レンジ」


そのファイルを閉じたのは、生徒会副会長――姫宮アヤネ。

整った制服姿。冷たい目をしていた。


「……やっぱり、あなただけが適任ね。終夜。あなたなら、煌星の腐った根を断ち切れる」


彼女は静かに呟いた。


窓の外、風が吹く。

新たな“制裁”が、今、始まった。


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