第11話side:Rin「……ここ、どこ?」



 白い壁、白い天井。

 規則正しく鳴る電子音と、遠くのナースコールのチャイム。


 


 「……ここ、病院……?」


 


 夢の中で目を覚ました私は、ベッドの上にいた。


 見たことのあるような、ないような景色。

 でも、やけに馴染んだ匂いがして――


 


 (知らないはずなのに、知ってる……)


 


 ふと横を見ると、小さな花瓶に、白いカスミソウが活けてあった。

 その花を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


 


 (この花、知ってる……私、何度も見てる……)


 


 でも、いつ、どこで――?

 思い出せそうで、思い出せない。


 


 そして次の瞬間。

 ドアの向こうから、声が聞こえてきた。


 


 「……ごめん、遅くなった」


 


 その声は――奏だった。


 


 (え……なんで、奏がここに?)


 


 姿は見えない。でも、声は確かに彼のもの。

 静かに、でも必死に、語りかける声だった。


 


「もう、大丈夫だからな。絶対、退院できるから」

「お前が笑ってくれないと、俺も笑えないから……」


 


 その言葉を聞いた瞬間、

 私は涙を流していた。


 


 身体が震える。

 胸が痛い。

 ……でも、なぜ泣いてるのか、自分でもわからない。


 


 (これ……夢? それとも、昔の記憶……?)


 


 誰かが私の手を握っている感覚だけが、妙にリアルだった。


 


 「ねえ……奏……これ、なに……?」


 


 夢の中の私が、そう問いかけると、

 遠くから、かすかに彼の声が返ってきた。


 


「もう一度だけ、やり直せるなら――」


 


 でも、そこで夢は――途切れた。


 


 目が覚めると、部屋は真っ暗だった。

 時計は深夜2時過ぎを指していた。


 


 心臓が速くなってる。手が少し汗ばんでる。

 そして、胸の奥が、すごく痛かった。


 


 (なんなの……あの夢)


 


 思い出しちゃいけない景色。

 だけど、あれは確かに“あった気がする”。


 


 私は、何かを忘れてる。

 いや、**“忘れさせられてる”**のかもしれない。


 


 でも、もしそれが――

 奏と、神谷くんと、私の間にある“過去”だとしたら。


 


 私はもう、目を背けられない。

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