第2話 上手く話ができない


 魔法少女との邂逅から一夜、私は学校に登校していた。


 東江さんは「嘘でしょ!?」と叫んだ後に、固まってしまったので、私は一言、「じゃ、じゃあ帰るね」と言い残し、帰路に着き、過酷な稽古をして、過酷な風呂に入り、過酷な食事をして、過酷な眠りについた。


魔法少女に会ってねぇ奴は笑うな。


 そして衝撃の昨日から一夜、いまだに私は、あの事は夢だったのではないかと思ってしまう。


 しかし、そうは問屋が卸さない。


「十さん! おはようございます!」


 ピンク色のツインテールを揺らしながら、テチテチ走ってくるかわいい幼女。


 東江聖理佳さんが私に挨拶をしてきた。


「……おはよう」


 クソっ! 入学して初めて挨拶してくれたクラスメイトに、ぶっきらぼうな返事をしてしまった! 凹む。


 朝から自己肯定感がゴリゴリ下がっていく音が聞こえる。


 誰か私を、遠くへ連れて行って……。


「……! えへへ! ……あの! 昨日はありがとうございました……助けてくださって……」


 やはり夢では無かった。


 あのトンチキな世界は現実だったことに対して、朝から頭が沸騰しそうだよ。


 それにしても朝から東江さんはかわいいな。何だ今のえへへって緩んだ顔、何? 


「十さんは違うって言ってましたけど、大丈夫です! 私、分かってますから!」


 何が? 


 彼女が何の話をしているのか分からない。


 私は、ただの一般人であって……魔法少女なんかじゃないです。勘弁してください。


 そうこう喋っている(東江さんが全部喋ってた)と教室についた。


「あの! 十さん! もし良かったら……今日一緒にお昼ご飯食べませんか?」



 席に着こうとしたら、東江さんがそんな事を言ってきた。


 ……うーん、人とお昼を過ごすなんて何年ぶりだ? 


「ごめん……今日は」


 そう言いかけたら東江さんは悲しそうな表情を浮かべる。


 いつもの私なら、一人で過ごすために断っているところだけど、今日は……。


 そう思いながら、東江さんの姿を見る。


 顔を赤くしてプルプルしている姿は、何だか動画で見た子猫みたいでかわいい。


 うん、私はかわいいのが好きなんだ。


 それに、魔法少女のことだって気になるし……。喋れるかどうかは分からないけど……。


 私は、お昼を誘われたという事に少し照れを覚え、前を向き席に着きながら、答えた。


「楽しみにしとく」


 ……もうちょっと、いい答え方は無かったのだろうか? 


 こんなんじゃ、絶対に何だこいつ、東江さんが誘ってるのにその態度は無いんじゃない? とか、言われそうだ……。


 後ろをチラッと見ると、ぱああっと花が咲いたような笑顔を浮かべる、東江さんがいた。


「は、はい! はい! じゃあまたお昼に!」


 クソかわいいな。


 雰囲気だけでなんかいい匂いがしそう。


 東江さんはテチテチと自分の席に行き、その瞬間クラスメイトの人たちに囲まれた。


 うわぁ、めちゃくちゃ群がってる……人気者なんだな……。


 何の話してるんだろう、めちゃくちゃ悪口言われてそうで辛い。凹む。


 ────


 お昼になり、学校の中庭へ東江さんと一緒にやってきた。


 横に座っている東江さんはもじもじしており、時折こちらをチラチラと見てくる。


 小動物的な仕草にまたもや私の心が撃ち抜かれるが、何なのだろうかこの時間は。


 心臓が幾つあっても足りないぞこれ。


「あ、あの昨日のことなんですけど……」


 しかし、昨日の事かぁ……魔法少女姿の東江さんかわいかったな。


 願うのならばもう一度、あの姿が見てみたい。


「十さんは……魔法少女の事を隠しながら怪人と戦っているんですよね?」


 ごめん、何だって? 


 怪人? あの痴女、怪人だったの? 


 ああ……何だか納得してしまう。あんな格好、人間じゃ恥ずかしくて出来ないもんな……。


 うん、頭がどうにかしてないと、往来であの格好は変質者確定だろう。


 可哀想に……あんな痴女の相手をしなければならないなんて、東江さんが不憫だ。


「私も十さんの様に、変身している事にも気取られない様に強くならないと……」


 うん、変身などしていない。


 全て生身です。


 何を勘違いしてるのか分からないけど、どうやら彼女の中で私は魔法少女で確定しているらしい。


 困った……! 


 これは早めに誤解を解かなければ……。


「あの、私は」


「あ、いいんです! 何か理由があって一人で戦っているんだろうし」


 人の話を聞け。

 

 話に話をかぶせられて、コミュ障の私は咄嗟に口をつぐんでしまう。


 あるよね、話そうとしたら、話被せられて言いたいことが言えなくなってしまうこと……。


 いやいや、そんなこと言ってられない、早く誤解を……! 


「一人で戦っているとき、十さんは辛くならないですか?」


「違……アッハイ」


 人が喋ってる時に被ってしまった。凹む。


 何で私はこうなんだ、こんなの会話になってないし、東江さんも気まずいだろうに……。


「あ、や、やっぱり! だったら、もし良かったら何ですけど……!」


 な、何がやっぱり? 


 ん? 東江さんはさっきまで何の話してたんだっけ? 被ってしまった事に気を取られて、何が辛いのか聞こえなかった。


 数分前に思った言葉がブーメランになって帰ってくる。


 人の話を聞け、私よ。


「私と一緒に、怪人から困っている人を守りませんか!?」


「えっ…………アッハイ」


 グイッと私の方へ顔を近づけてくる東江さんのかわいい気迫に圧倒されて、つい生返事をしてしまった。


 え? 怪人から困っている人を? 私が? 


 ……今現状困っているのは私なんだけど……。助けて〜〜〜〜! 魔法少女〜〜〜〜! 



 ────


 放課後、いつもよりやつれているのは気のせいだ。気のせいだと思いたい。


 流石に今日は人と喋りすぎて、疲れてしまった……。


 思い返せば、たいした事ない言葉しか発していないが、コミュ障にとっては大仕事だ。凹む。


 東江さんはかわいいが押しの強い所があって、私の身が持たない。


 帰ろうとすると、後ろにトコトコ着いてきたので、心を鬼にして校内で撒いた。


 ごめん、東江さん……。また明日ね……! 


 いつもの如く下駄箱に不幸のメールが詰まってるのを見て、凹みながら焼却炉まで持って行き帰路についた。


 今日は変なこと起きないといいけどな……。


 と、思っていたのが悪かったのだろうか。


 遠くからなんか、つい昨日聞いたことのある声が、聞こえてしまった。


「あ〜〜〜! やっと見つけた! アンタ、我を倒した後放置したでしょ!?」


 最悪である。


 魔法少女の敵である、怪人さんがこちらへやって来てしまった。


 相変わらず、ボンテージ姿でおっぱいをブルンブルン震わせている。


 下品だ、どっか行って欲しい。


「昨日は我の不意をついて、いい気になってるみたいだけど、今日はそうはいかないわ!! アルタノギア幹部が一人! レフィーヤ様がコテンパンにしてやるのだから!! ククク……我の妙技の前に散れッ!!!」


 ってちょ!? いきなり襲いかかってきたんですけど!? 

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