第6話 修学旅行は恋とピンチのミックスジュース

「じゃあ、明日からの修学旅行、楽しみましょう~!」


 ホームルームで担任がそう言った瞬間、クラスが沸いた。

 京都二泊三日――定番中の定番、恋と事件の発生源。それが修学旅行だ。


 そして当然、俺の目の前には――


「天野くん。今回の旅程、風紀的指導が多くなりそうね♡」


「なにその言い方!? 完全に“甘えイベントフラグ”立ってるよね!?」


 そう、彼女――氷室しおりはこのタイミングでもうやる気満々だった。


◇ ◇ ◇


 ──1日目、夕食後。


 部屋に戻ると、同室の男子たちはお菓子パーティーを始め、騒がしくなってきた。


「うっわ~修学旅行っぽいなぁ~」

「天野、風紀委員長となんか仲良くね? 部屋凸られたら説教されそう」

「な、なに言ってんだよ! 俺がそんなわけ――」


 ──コンコン。


「天野くん、いますか?」


「やっべえええ!! 本当に来たあああ!!」


 ドアをそっと開けると、しおりが浴衣姿で立っていた。


 浴衣。浴衣ですよ。

 普段はきっちり制服の委員長が、髪をゆるく結って、照れ隠し気味にうつむいて――


「少し……話があるの。ちょっとだけ、外、出られる?」


(……これもう、死亡フラグじゃないよな?)


◇ ◇ ◇


 夜の中庭。月明かりに照らされたベンチに並んで座る俺たち。


「……ねえ。今日ね、部屋割り操作したの。天野くんと隣部屋になるように」


「ど、どうやって!? 生徒会も関わってるって言ってたろ!?」


「それを、風紀委員長の権限で……♡」

「私物化しすぎじゃないですか!? 風紀とは一体!?」


 しおりはふわっと笑いながら、俺の袖をそっと掴む。


「ねえ……隣の布団、来てくれないかな」


「それアウトだろォォ!! もう完全に風紀違反コース一直線!!」


「……でも、旅行って特別じゃない? 一緒に寝たら、もっと好きになると思うの」


「好きの爆撃が止まらねぇぇぇ!!!」


◇ ◇ ◇


 その夜。


 こっそり隣の部屋に移動し、同じ布団に横になる俺たち。

 しおりの体温が近い。声が近い。心音が近い。


「……ドキドキ、してる?」


「しないわけがないだろ!?」


「ふふ……私も、止まらないよ。好きが、あふれて……」


「その言い方やめろォォ! 理性が吹き飛ぶ!!」


 ……でも。


 そのとき、俺のスマホに一通の通知が届いた。


『恋愛禁止のくせに、風紀委員長がこんなことしてていいの?』


 添付されたのは、またも――俺としおりのツーショット写真。


(やばい、また来た……今度は、旅行中!?)


 しかもその送り主のアカウント名には――


副委員長・百合川さな(仮)


「え……まさか、犯人……さなさん……?」


◇ ◇ ◇


「どうしたの?」


 しおりが不安げに覗き込む。


「……いや、大丈夫。俺が絶対、守るから」


 笑顔を見せながら、内心ではとんでもない焦りを感じていた。


 この修学旅行、ただのラブラブイベントじゃ終わらない――

 そんな予感が、背中に冷たい汗を伝わせた。


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彼氏禁止の風紀委員長が僕にだけ激甘 @noozu

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