第5話 恋と風紀と、バレ寸前ポッキー再戦

「……ねぇ、天野くん。ポッキー……食べたい」


 昼休みの屋上。人気(ひとけ)のない場所に呼び出された俺は、彼女のそんな一言で危機感MAXになった。


「やめろォォォ!! 前回のポッキーゲームがどれだけ危なかったか覚えてないのか!?」


「でも……またしたいの。あれ、楽しかったから♡」


「風紀のこと一瞬で忘れてるぅぅぅ!!」


 氷室しおり――風紀委員長にして、俺の(秘密の)彼女。

 普段はカチコチに厳しいのに、俺の前ではふにゃふにゃ甘えん坊モードに突入する。

 このギャップに、俺の心臓は日々削られている。


◇ ◇ ◇


「今日は特別よ。なんと、百合川さんが補習で来れないそうなの」

「つまり見張り不在=好き放題ってこと!?」


「だから……しよ? “スキンシップ風紀確認”♡」

「今度こそ生徒会に怒られるやつ!!」


 でも、しおりはまったく怯まずポッキーを取り出し、俺に差し出す。


「今日は……最後まで、いけるかな?」


 言い方!! その言い方やめろおぉぉ!!!


◇ ◇ ◇


 そのときだった。


 ――カシャッ。


 風が吹いたわけでもないのに、どこからか小さな音がした。


「……今、シャッター音、しなかった?」


「え……!?」


 おそるおそる周囲を見回す。


 ……誰も、いない。


 でも、どこかで見られていたような感覚が、背筋を冷たく撫でていく。


(まさか……写真、撮られた!?)


◇ ◇ ◇


 放課後。


 俺の机に、一枚の封筒が置かれていた。

 開けてみると、そこには――


 俺としおりが、ポッキーを咥えながら向かい合っている、絶妙にキス寸前な写真が……!


「な、なんだこれ!? 誰が!?」


 差出人不明。しかも、裏にはこう書かれていた。


“これ、拡散されたくなかったら――自白してね?♡”


「いやいやいやいや、脅迫じゃねぇかぁぁ!!」


 追い詰められていく中、しおりはと言えば――


「……これ、私たち……キレイに写ってるわね♡」

「おいィィ!!」


◇ ◇ ◇


 その夜。


 しおりからメッセージが届く。


『絶対、守るから。私が、風紀なんかよりも大事にしてるもの、ちゃんとあるから。』


 画面越しの言葉に、胸がきゅっとなった。


 秘密の恋。

 誰にも言えない関係。

 だけど、確かに存在していて、あたたかいもの。


 それを守るためなら――俺だって、やってやるさ。


(って言っても、俺、ポッキー咥えてるだけの男なんだけどな!?)


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