38話【警戒体制】

「この艦のエンジンは永久機関だって言ってましたよね。何が動力源になってるんですかね」

「えっとね。地球で言う所の核動力みたいなもんだって、ランガが教えてくれたけど。私には理解できないだろうから、そう考えておけって言われてさ! 酷いよね!」

「そうですね。一回くらいはちゃんと説明してくれても良いのにって思います」

「でしょ〜!? でも、時間の無駄だって言って教えてくれないの! ああ言うところ直してくれたら良いのに」

「直して欲しいんですね。何でですか?」

「…あ〜! 今のナシナシ! 聞かなかったことにしてくれる?」


あたしは振ってもいないと言うのに、シェリーさんの発言にはいつもランガがと、添えるように彼の名前が出てくる。女の子だけの特徴かもしれないが、好きになってしまったら、その人の事を関連して発言してしまう人が多い。男もいるはいるが、友達の前とかではそこまで話はしない。ってか、恥ずかしくてしない。女の子はそこら辺大らかなのかもしれない。

シェリーは頬を赤らめ、少し早歩きになる。あたしは背丈もだいぶ違うこともあって、小走りじゃないとついて行けない。そうしていたから、食堂には早くつけたと思う。


「はい! ここが食堂だよ。食事の用意は機械がしてくれるから、そこの端末の画面上をタップしてくれれば調理してくれる。これくらいかな…? あ、こんにちは〜」


シェリーが食堂の端末操作方法をあたしに教えてくれる。そしてシェリーが食堂を見回したら、そこにはディミトリとマリエッタが机の席についていた。ディミトリとマリエッタはシェリーとあたしに気付き、立ち上がってお辞儀をする。ディミトリがシェリーの挨拶を応じた。


「こんにちは。先程はこの船の案内をしてくれて、ありがとうございます。我が領土の市民も、同様の対応をしてくれたようで。ガブが失礼な発言をしていませんでしたか?」

「いえいえ。陽気な方で私は好きでしたよ〜! 特徴的な話し方をされますよね」

「下町育ちな奴でして。何度教育しても、治らず」

「大丈夫ですよ! この艦にそれを気にする、そんな堅物は一人もいません」

「それでしたら、何より」

「お二人だけなんですね。他の方々は自室でごゆっくりされているんですか?」

「ほとんどはそうですね。ですが、ガブとデンとグウは、何やらお医者様に呼ばれて医務室へと向かいました」

「あ、そうでした! ランガが何か3人と話をしていたんです。何だったんでしょう? その時、私はナミさん達女性陣のお相手をしていたので」

「私も同席していなかったので。メインブリッジ…という場所にいましたので」

「あはは。慣れないですよね。艦内の名称」

「お恥ずかしい限りです」


二人は世間話をしているが、あたしは目を赤くしているマリエッタさんへと視線を向けていた。やっぱり、泣いていたのか。そう思って、心配している訳じゃないけど、同情している自分がいた。あたしから声をかけられる言葉は何もない。ディミトリがシェリーとの話題を変えようとしていた。


「つかぬ所をお伺いしますが、この船にはコックはいないのでしょうか」

「そうなんですよ。調理はできる人はいるんですけど、機械が調理してくれた方が美味しくって。でも、味気ないんですよね。あと、レパートリーが少なくて」

「我々からのご提案があるのですが、このマリエッタに調理を任せてご提供させて頂きたいのですが、いかがでしょう。調理場もあるようですので」

「お〜! それはありがたいですよ! 艦長に報告相談しなくても、私がOK出しちゃいます!」

「よろしいのですか?」

「はい! 前々から、みんなで話していたんです! 調理担当の人を艦に迎え入れられないかな〜って! でも、場合によってはこの艦も危ないので…。勧誘しても断られちゃうんです」

「そうでしたか。マリエッタ。こう仰られている。頼むぞ」

「はい。お任せ下さい」


そう言って、マリエッタさんは綺麗にお辞儀をする。さっきの痛々しいマリエッタさんの顔を見ていたから、そのお辞儀が悲痛に似たものに見えてしまった。


そのお辞儀が終わったところでいきなり、天井に備え付けられていたスピーカーからブザーが鳴った。大音量で。


ブオーン、ブオーン、ブオーン


この警戒音にまず疑念を抱き声を上げたのはディミトリだった。


「なんの音でしょうか!? この奇怪な音は!」

「静まって下さい! 音声が流れます!」


そのディミトリの大声をかき消したく、大声を次に上げたのはシェリーだった。あたし達はそのシェリーさんの命令に従い、黙った。そして、大音量で音声が流れる。その声はルンさんだった。


(メインブリッジから搭乗員へ向けて、各位部門に伝達。第3種警戒配置。繰り返します。メインブリッジから搭乗員へ向けて、各位部門に伝達。第3種警戒配置。戦闘員は格納庫へ、戦闘員は格納庫へ。ご客人方はその場にて待機願います。繰り返します。戦闘員は格納庫へ、戦闘員は格納庫へ。ご客人方はその場にて待機願います。各位、警戒体制は維持。各位、警戒体制は維持。以上)


ルンさんの声を乗せた電子音声が鳴り終わり、再び静寂が訪れる。シェリーさんはこの場にいるみんなへ指示を出す。


「音声の通り、この場で待機をお願いします。第3種なので、私もこの場で待機します」

「第3種…と言うのは?」


ディミトリが眉間にシワをかなり寄せて、シェリーへ質問する。すぐに、シェリーは回答する。


「敵艦や敵艇からの襲撃はないんですけど、何か異常事態が発生したから、士官クラスは急いでメインブリッジへ招集。その他の搭乗員はその場で役割を維持しながら警戒すること、と言う意味です。最後の命令は、第3種の中で指示が定まっていなかったので、付け加えて伝達したんです。戦闘員というと、この艦だと艦長とアシュラさんしかいないから…、アシュラさんが格納庫へ駆けつけているところだと思います。この場で、続報を待ちましょう」


シェリーの回答を聞き、ディミトリの眉間のシワは以前と変えない。ディミトリはある提案をした。


「戦闘員ということでしたら、私も現地へと馳せ参じましょう。この老骨、何かと役に立ちます」

「いえ、駄目です。指示に従って下さい」

「わかりました」


ディミトリの強面の顔にも物怖じせず、シェリーは真剣な顔で命令する。先程までの朗らかな笑顔はどこかへと消え失せていた。


そうして、あたし達は10分程、食堂で待機をした。その時間を過ぎたら、またスピーカーから音声が流れる。大音量だった音声がどこへ行ったのやら、通常の耳馴染みやすい音量だった。あたし達はジッと、音声に集中した。


(メインブリッジから搭乗員へ向けて、各位部門に伝達。第3種警戒配置を解除。繰り返します。メインブリッジから搭乗員へ向けて、各位部門に伝達。第3種警戒配置を解除。ただし、牢屋への入室は艦長並びに副艦長の指示がない限り禁止です。繰り返します。牢屋への入室は艦長並びに副艦長の指示がない限り禁止です。ご注意下さい。…ご客人の方々。ご安心ください。警戒は解除されました。ご自由になさって下さい。ただし、牢屋付近は近づかないように。お願い申し上げます。以上)


最後のルンさんの安堵した声が流れ、音声は鳴り終わった。その音声を聞き、シェリーさんが大きいため息を吐いて、緊張感を外へと排出する。また、朗らかな顔が戻ってきた。


「戦闘員って言うから、艦内で銃撃戦があるのかと思いました〜。よかった〜…!」

「「じゅう、げき、せん?」」


ディミトリとマリエッタの声がハモった。シェリーがその意味を教える。


「あ、そうか。アポリア…でしたっけ? そこには拳銃やパルスガンはないんですよね。えっと、手に収まる鉄で出来た物体を持って、パシュパシュ撃つんですよ」

「「…」」


静寂がまたこの場を支配する。ランガさんの言っていたことがわかった。さっきみたいに真剣な場面でないと、うまく要領を得た説明ができないんだ。この人は。シェリーさんが恥ずかしそうにしている。


「あ、あはは…。あの、ガンツさんとかに聞いてみて下さい。拳銃やパルスガンを見せて説明してくれます」

「そうですか」


ディミトリが相槌を打ち、シェリーは説明の責任をガンツさんへ丸投げした。ランガさんにしなかったのは…恐らくまた馬鹿にされるからと思ったからなのかな。…そうだろうな。

あたしはシェリーに外に出回っていいか、確認する。


「あの、メインブリッジに行ってみてもいいですか?」

「うん。大丈夫だと思うよ。入室制限は牢屋だけだったし。って、あれ? 牢屋? なんで?」


その疑問にあたしは答えられる訳もなく、あたしも当然の疑問を持っていたから、メインブリッジへと向かうことにした。シェリーさん、ディミトリさんとマリエッタさんはその場に留まるようだ。あたしはこの場を後にして、少し駆け足で走っていった。

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