【リライト③】死にたがりとプリン ツクヨミアイ様
【自主企画】みんなでリライトしよう♬
ツクヨミ アイ
【原文】死にたがりとプリン【企画用】
https://kakuyomu.jp/works/16818622176784197750/episodes/16818622176784336712
【作品タイトル】『死にたがりとプリン』
【作者】ツクヨミアイ
【作者コメント】
この物語は、誰かの「終わりたい」という気持ちと、誰かの「まだここにいてほしい」という祈りが、たった一つのプリンを介して出会うお話です。
描写は静かに、余白は大きく──読む人の解釈によって、青年の過去も、少女の正体も、物語の行く末も変わりうるように書かれています。
登場人物や視点の変更、背景の再解釈、大歓迎です!
特に「少女の正体」や「青年の抱えているもの」を、あなたなりの言葉で描いてみてください。
会話だけで構成したり、SFやファンタジー要素を加えたり、結末をガラリと変えていただいても構いません。
逆に、あえて余白をさらに増やして“詩のような物語”にしていただくのも面白いかもしれません。
あなたが感じた「一匙の甘さ」が、どんな風に物語に溶け込むのか──
ぜひ、あなたの手で新たな物語を。
==▼以下、リライト本文。============
『プリンとノスタルジー』
午前二時を過ぎた街は、静寂というより無関心に満ちていた。信号も歩道も、まるで役割を放棄したように沈黙している。青年はそんな道を、ふらふらと歩いていた。どこへ向かうでもなく、ただ「終わり」にたどり着きたくて。
遠くではメトロポリスフューチャーのタワー群が見える。そこでは眠らない人たちがまだ働いたり、自らの生をデジタル信号を交わすように暮らしている。そこだけは、もう明治、大正、昭和はおろか平成、令和を終えた先の未来だ。たまに未来人がそこから、この昭和の時代にやってくる。だから青年はすでにこの昭和の時代の世代でありながら、もうこの時代は古く懐かしいんだというノスタルジーを感じていた。
さっき歩道橋の欄干に手をかけた。あと一歩で飛び降りられた。でも、そのとき風が吹いて、目にゴミが入った。くだらない、と思った。そんな理由で死ぬのをやめて、あまりまだ舗装されていないアスファルトの道を通り近くのコンビニに入った。理由なんて、もうどうでもよかった。この昭和の時代には珍しい。午前二時過ぎに営業している店という発想がまだないから。
店内は蛍光灯の光だけが生きていて、無人のように感じられた。棚をぼんやり眺めていたとき、声がした。蛍光灯が一部点滅している箇所がある。ここだけが少し未来にあるかのようだ。平成初期の時代にはあったのでそれくらいだろう。
「死にに来たの?」
「そういう風に見える?メトロポリスの未来人さん」
反射的に振り返ると、少女がいた。十歳前後、小さな体。白いワンピースにサンダル。異物のように、そこだけ時間が止まっている。未来人ではあるが、昭和の時代の服装だ。
「顔を見ればわかる」
「でも目にゴミが入ったせいで、いや何でもない」
少女はにこにこしながら、冷蔵棚の前に移動した。そして、プリンを指差す。
「このプリンとあなたの生命、どちらがが比重が大きいと思う?」
「は?」
「このプリン。あなたが死にたがってる理由、これより重たいかなって」
青年は笑いそうになる。ばかばかしい。プリンひとつで何が変わる。
「そんなもん、比べる意味もねえだろ」
「あるよ。だって、死ぬってすごく特別なことなんだから。プリンより軽い理由で死ぬのって、ちょっともったいなくない?」
もったいない気もすると青年は思う。
少女の声は不思議だった。高くもなく低くもなく、妙に染み込んでくる。青年は溜息をつき、棚からプリンを取り出す。未来人でありながら懐かしい。
「……買えばいいんだな」
「うん。せっかくだし、生きてるうちに一個くらい」
レジには誰もいなかった。なのに、プリンは会計済みになっていた。少女がさっき何か言った気がするけれど、よく覚えていない。
店の前のベンチに座り、スプーンでプリンをすくう。ひんやりと、やさしい甘さが口の中に広がる。その瞬間、なんでもない味に、涙がにじんだ。午前二時なので他に人はいない。
「……おいしいな」
声に出してみる。誰に言ったのかも分からない。
「そうでしょ」
青年はプリンを全部スプーンで綺麗にすくって食べた。
気づけば少女は隣に座っていた。
「わたしもね、死にたかったことがあるの。でもそのとき、プリン食べてさ、ちょっとだけ明日を延ばした」
「そんな簡単に生き延びられたら、誰も死なねえよ」
「じゃあ、あなたはどうなの?」
青年は言葉に詰まる。
「……わかんねえ。けど、今は……ちょっとだけ、まだ食いたい気がする」
少女は満足そうに笑った。
「じゃあ、また明日も食べてみて。味、変わるかもしれないよ。またノスタルジーを感じに来て」
そのまま、少女は歩道に降りて、闇の中へと消えていった。
青年はベンチに座ったまま、空になったプリンのカップを見つめる。
ふと気づくと、そこには小さな紙切れが挟まっていた。
――『ありがとう』
黒いインクの走り書き。
青年は命の重たさについて考えた。母から授かったこの命。誰の物でもない母のものだ。母はまだいる。あの古い木造建ての如何にも昭和の家は父が建てた。その家に家族と暮らしてきた。そしてようやくこの死へとだどりついた。そこがやはり人間の生の終着なんだ。
青年は空を見上げた。何も変わらない夜の空。そして遠くにメトロポリス。 けれど、息を吸い込むと、さっきより少しだけ空気が甘くなった気がした。どこかでコオロギが鳴いていた。また少女に会える。またあのプリンを食べて考えよう。
1982年、もうすぐCDが発売される。時代が少し未来へ進むのだ。
プリンとノスタルジー 終わり
ツクヨミ様、最高の物語をリライトさせて頂きありがとうございました。これはリライト作品であり、自作のオリジナルとは別のものです。
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