第30話

 気づくと白い部屋にいた。またかと思う。

 トリッシュはいつものように部屋の中央に置かれたテーブルセットに腰掛けていた。

 そこへと向かい彼女の対面に座る。


「ちょっと危なかったね」

「そうだね。媚薬なんかで動けなくなるなんて思わないよ」


 あの時私の体を操りボスを倒したのはこの体の元の持ち主の少女だった。

 少女は私から体の所有権を取り戻しボスネコを撫で殺したのだ。


「獣や獣人に興味が強いみたいだね」


 彼女は相変わらずソファーで寝ている。

 でも時々寝言のようなことをしゃべっている。

 明らかに眠りが浅くなっている。目覚めは近い。


「まずいことに私たちのバランスが崩れてきた」


 トリッシュは懸念を口にする。


「この子が目を覚ましたら体の所有権が彼女に持っていかれかねない」


 私とトリッシュは対策を練る。見た目よりだいぶ精神的に幼い元の人格。

 彼女が表に出てきたら危険極まりない。戦えないからだ。

 この世界は危険が多い。自分で身を守れなければ生きていけない。


「私が体を使えるのはどのくらいだろう?」


 今はステラが表の人格だけど今回のことで一割ほど少女の人格が強くなった。

 感覚的なものだけれど私が私なのかわからなくなってくる。

 欠けたパズルのピースを埋め始めた彼女。

 今の私がそのピースで埋められていったとき果たしていつまでが私なのだろう。


「そればかりはわからないね。もう私たちは私たちじゃないのかもね」


 トリッシュはあっさりと自分の人格の証明を放棄した。

 自分を自分たらしめるのはなにか。難しい証明だ。

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今宵も魔女は寝られない 氷垣イヌハ @yomisen061

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