第4話 起き上がりこぼし、こぼしの漢字は小法師なんだよ(どや)
ずんだもちを食べた満足感と政宗との会話の余韻に浸りながらも、友乃の中には一つの思いがふつふつと湧き上がっていた。
「いやー、さっきの漆器も綺麗だったけどさ……ウチがギャルの道を貫くなら、ただ“買っただけ”のお土産じゃつまんないよね!」
ギャルにとって、センスとオリジナリティは命。既製品をそのまま渡すだけなんて、らしくない。せっかく戦国時代に来て、しかも伊達政宗というレジェンド級の人物に会えたのだ。ここは一発、自分だけの感性で攻めたい。
「せっかくもらった漆器だけど……まあ、いたし方Nothing!」
そう言って、友乃はあっさりとさっき出会った女性にその漆器を押しつけるように渡した。
「これ、アンタにあげる!さっきは案内ありがと!」
女性は突然のことに目を丸くしていたが、友乃の勢いに押され、「えっ、でも……ええっ、本当にいいんですか!?ありがとうございますっ!」と感激しながら受け取った。
そして友乃は、新たなお土産作りのために動き出す。
「よし、ウチが作りたいのは唯一無二のアイテム!」
町の人々から聞き込みをして、友乃が向かったのは一軒の古い工房。そこは町でも有名な木彫り職人の家だった。
「たのもーっ!ウチ、政宗にお土産作りたい者でやんす!」
工房の奥から現れたのは、腰の曲がった白髪の老人。奇抜な姿の若い娘に一瞬眉をひそめたが、無言のまま中へ招き入れた。
「で、何を作りたいのかね?」
「ウチね、起き上がり小法師作りたいの!しかも政宗用!あの人、絶対ミニキャラにしたらカワイイ系いけると思う!」
老人は思わず吹き出し、目元をほころばせた。
「……変わった注文だな。だが面白い。形を作るのは簡単だが、倒しても起き上がるように作るには、底に重りを仕込まねばならん。根気がいるぞ?できるか?」
一瞬考えたあと、友乃は胸を張って答える。
「ウチ、こう見えてアクセとかよく作ってるし、手先器用なんよ。根気?ギャルにとっちゃ日々のヘアセットで鍛えられてるから、余裕!」
その勢いに押され、老人も「ふむ……なんだかよく分からんが、試してみよう。」と呟き、木材や刃物、重りなどの道具を揃え始めた。
友乃は、初めて握るノミに戸惑いながらも、一心不乱に木を削った。手の中で少しずつ姿を現していくのは、どこか勇ましく、でも可愛らしくデフォルメされた鎧姿の小さな政宗像。鎧の肩当て、兜の三日月、細部までこだわって削り、色を塗る段階では真剣そのものだった。
「見て!政宗バージョンの起き上がり小法師、完成〜☆」
老人は、彼女の努力の結晶に目を細め、「ばーじょん……とは?しかし、見事な出来だ。想いが伝わってくるぞ。」と感心した。
「ありがと、おっさん!いや、師匠!ウチ、めっちゃ満足!」
満面の笑みでお辞儀し、友乃は完成した小法師を包んで工房を後にした。
そして向かう先は、もちろん――仙台城。
「たのもーっ!政宗にスペシャルなお土産を持ってきたんで、取り次いでほしいでござる!」
見張りたちは「またか……」という顔をしつつも、今度は丁寧に中へ取り次いだ。そしてしばらくすると、再び政宗が現れた。
「またお前か。今度は何だ?」
友乃は胸を張って、手に持った包みを差し出した。
「じゃじゃーん!ウチが作ったんよ、政宗バージョンの起き上がり小法師!これ、マジで心込めて作ったから、ぜひ受け取ってほしい!」
包みを開いた政宗は、愛嬌のある自分の姿が刻まれた木彫りをじっと見つめ、次第に目を細めていった。
「……見事だ。これは……倒しても起き上がる。まるで我が生き様の象徴のようだな」
「でしょー!?ウチ、政宗ってただの武将じゃなくて、なんか“信念の人”って感じしたんよ。だから、これがぴったりかなって思って!」
政宗は小法師を掌で転がしながら微笑んだ。
「ありがとう。これほどの品を作るとは、大した娘だ。大切にするぞ」
その言葉に、友乃は心からの笑みを浮かべた。
「ふふん、ウチってやっぱやればできる系☆ これからも、戦国でもギャル道まっしぐらで行くから!」
政宗はそんな彼女の姿を頼もしげに見つめ、静かに頷いた。
こうして、時を超えて出会った戦国の武将と令和のギャル。その奇妙で温かい交流は、まるで起き上がり小法師のように、何度倒れても立ち上がる心を象徴するものとなったのだった。
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