第11話「最深部の危機と鬼火の絆」

魔物の森の最深部。

栗色の髪に獣耳、フサフサとした尻尾を揺らす少女が一人、暗い森を駆け抜けていた。

彼女こそ、シアだった。


「へへーん! アタシの能力があれば何かあっても逃げればいいだけ!」


張り切るシアは、置き手紙を残し、朝までに戻るつもりでここまでやってきた。

目的は、妹のニアが欲しがっていた「キラキラ光る花」を手に入れることだ。


「えっと、確か…キラキラしてるんだよね…」


奥に進むにつれ、瘴気が濃くなる魔物の森。しかし、シアはそれを甘く見ていた。


そしてついに、目的の花を見つけた瞬間――


「あ! あれだ! …? うわっ!?」


しゅるるる!!


ツタのような植物が突然、シアの足に絡みついてきた。能力を使い逃げようとするが、ツタはびくともしない。


「え…嘘だろ!? 何…これ!?」


動けば動くほどツタは絡まり、身動きが取れなくなっていく。強気だったシアも、さすがに焦り始めた。


「っ!! 離せ!! この!!」


噛みついてみるが、頑丈なツタはびくともしない。


「取れない…! まずい…!!」


ジリジリと這い登るツタに侵食され、シアは涙を浮かべた。


「嫌だ…こんなの! 違う……! うわああああっ!!」


魔物の森の最深部。


少女一人の叫びが届くはずもない――そう思われたその時。


「鬼火!!!」


妖しく光る紫の炎が勢いよく飛び、シアに絡みつくツタを焼き払った。大地が揺れ、植物型の魔物が花の根元から姿を現した。


「キェエエエッ!!」


無数のツタが紫の炎を覆い、シアの救出を阻む。


「厄介なやつだな。」


暗闇の中、月明かりにかすかに照らされた人物が現れた。角が二本、真紅の髪をなびかせ、燃えるような赤い瞳に美しい赤い着物を纏った女性だ。刀を手に、魔物を睨みつける。


「ちょうど…この身体試したかったんだよな。悪いが…てめぇで試させてもらうぜ。」


血に染まったような赤い瞳が魔物を捉え、一瞬で踏み込む。シアを覆うツタを軽々と切り刻み、彼女を抱きかかえて後方へ下がった。


「おい! お前! 大丈夫か?」


「…………うっ…」


シアはぐったりとしており、返事をする余裕もない。


「っ…たく…しゃーねぇなぁ!」


無数のツタが追尾する中、赤毛の女は右腕に巻かれた黒い包帯を解き、大地に叩きつけた。


「悪鬼羅刹!!!」


鬼のような表情で魔物を睨みつけ、大地が割れ、どす黒い紫の炎が吹き出した。

植物の魔物を焼き尽くすその威力は、先ほどの「鬼火」を遥かに超えている。

奇声を上げて抵抗する魔物に、赤毛の女がとどめの一刀を振るった。


「そこだ!!!」


刀を鞘に収めると、魔物は焼き切れ、紫の炎がぱちぱちと音を立てて燃え続けた。


「しぶとい野郎だったが…まぁ…根本は断ち切ったし、おそらくは大丈夫だろう。」


辺りを見渡し、シアを安全な場所へ運ぶと、赤毛の女は呟いた。


「やっと…話せるやつ見つけたと思ったのに…出会いが最悪だったな。」


月明かりがよく当たる場所で、二人は仰向けに寝転がっていた。


「うぅ…あれ…ここは?」


シアが目をパチクリさせて目覚めると、隣にいた赤毛の女が声をかけた。


「なんだ? 起きたのか?」


シアは驚き、開口一番叫んだ。


「アンタ誰だ!?」


その言葉に赤毛の女はキョトンとし、笑い出した。


「なんだそりゃ! …あはは!」


「え?」


混乱するシアに、赤毛の女が説明した。


「お前の叫び声聞いて駆けつけたら、植物の化け物に食われそうだったから俺がお前を助けたんだ。」


それを聞いたシアはハッとし、記憶が少しずつ蘇ってきた。


「そっか…アタシ…ニアのために花を探してここまで来たんだ…」


「わざと来るような場所じゃなかっただろうしな。んで、お前、なんとも無いか?」


「…あ、アタシ? …」


「お前しかいないだろ?」


「あはは! そっか、そうだね! うん! 大丈夫! ありがとう、お姉さん!」


「そうか。良かった。」


「お姉さん? 名前は?」


「ん? 俺か…? そうだな。椿。鬼神椿(きじんつばき)だ。」


「椿って言うの? 綺麗な名前だね! アタシ、シアって言うの! 助けてくれてありがとう!」


二人は打ち解け、落ち着いた頃、椿が口を開いた。

「なぁ…シア。俺、人探ししてるんだ。」


「そうなんだね…なんて人?」


「なんか…黒髪で獣耳で…名前が黒上いぬこって言う…やつなんだけど…。知らねぇか?」


シアは眉を歪め、うーんと悩んだが、結局力尽きたように答えた。


「ごめん…お姉さん。わかんない。」


「そっかー…しゃーなし。」


「そういえば…あの花…どうなったんだろう…?」


「花?」


「うん…」


シアが目的を説明すると、椿は申し訳なさそうに謝った。


「すまねぇ…たぶん…俺が斬っちまった…悪い…」


慌ててシアがフォローする。


「ううん! 大丈夫! 今回は諦めるよ…しかたないもん。」


笑顔で返すが、本心では落ち込んでいるのを椿は見抜いていた。


そこで椿が提案した。


「なぁ、シア。明日の朝、もう一度最深部へ行ってみねぇか?」


その言葉にシアの目に光が戻り、椿に飛びついて抱きしめた。


「ありがとう! そうしてくれると助かるよ!」


シアの笑顔を見た椿はニカッと笑い、くしゃくしゃと頭を撫でた。二人は月明かりの下、交代で眠りにつき、明日を迎える準備をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る