第4話「姉弟の帰路」
私はゆっくりと目を開ける。
知らない天井だ。
私はどうやら眠っていたらしい。
身体をゆっくり起こそうとするが全身が少し痛い…。
周囲を見渡すといぬおが私の手を握りベットに倒れ込むように眠っている。
「……………。」
少しずつ意識がはっきりとしてきたいぬこは状況を整理する。
いぬこといぬおは商人の依頼を受けて素材を納品するために江野町商店街に向かう道中、謎の集中豪雨に襲われ一次雨宿りで様子を見るがいぬこがこの天候に違和感を感じ魔物の仕業と判明。
発覚後姿を現す巨大な青白い蛇の魔物。
魔物はいぬこたちに襲いかかり戦闘、何とかこれを撃退するが瀕死のいぬこをいぬおは背負って江野町商店街の医療所へ急ぎで運び込んだ。
…いぬおはきっとあの蛇の魔物と戦った後私を背負ってここまで運んでくれたんだと理解するいぬこ。
いぬこはいぬおの頭を優しく撫でる。
「ありがとう…いぬお。それと…心配かけてごめんね。」
小さくボソ…と呟くいぬこの表情は申し訳なさそうだった。
後にやってきた医者や看護師はいぬこの目覚めに驚きつつも安心の表情を浮かべ喜んでいた。
改めて医者からの話によれば身体全体のダメージが酷く体の筋肉が無理な動きをしたため体に負担がかかり無意識に汎ゆる神経が一時的に機能しない状態だったという。
その結果意識は2日くらい気絶したかのように目覚めなかったと報告を受けたいぬこ。
少し間をおいて衝撃を受ける。
「えっ!?2日も!?2日も寝てたんですか?!」
いぬおはこの同様に安心する様子でいぬこをなだめているとそれを見た看護師さんはいぬおの方を向いてクスクスと笑い出す。
いぬおは不思議そうに看護師に質問を投げる。
「俺なんかおかしかったですか?」
その何気ない問に微笑みながら答える
「いえ、いぬこさんはいい彼氏さんがいるなーって…」
それを聞いたいぬおは慌てふためき顔を赤面させると同時に訂正の弁明を述べようとした時、姉であるいぬこがそれより先に答える。
「えへへ…やっぱりわかりますか?」
少し照れくさそうにいぬこは身を捩りながら悪乗りで答える。
いぬおはそれを悟った瞬間さっきまでのトキメキは消え失せたのだった。
その後誤解は解け、医療所を後にするいぬこといぬおは商店街を歩いて帰路を目指す。
しかし、いぬおの機嫌は悪くさせてしまったようで、いぬこがひたすらにフォローをいれるがいぬおの機嫌は治らない。
「姉貴はそういうところほんとよくないと思う。」
「あー…ごめん!ごめんなさいってばー!」
「…………。」
(たまには姉貴も痛い目を見るべきだ…しばらくシカトしてやろう…)
いぬこはいぬおの前に立ち飛びかかろうとする。
しかし、医療所を出たばかりで体がうまく前に進まずいぬおを商店街の道端で誤って押し倒してしまういぬこ。
「いたた…」
目を開けるといぬおが近い。
近すぎる。
瞬間いぬおが少し照れくさそうに答える。
「早くどけよ…」
いぬおの赤い瞳がキラキラしている。
改めて数秒だけでもこんなにもまじまじといぬおの顔を見てなかったから変に意識してしまう。
いぬおは…
「姉貴。もういいだろ…どけよ」
「え…あ…はい…ごめんなさい…。」
いぬこが周囲を見渡すと多くのギャラリーにその一部始終を見られている。
いぬこがハッとして少し赤面した後、いぬおの手をつかみ全力疾走で商店街を後にした。
「……はぁ…はぁ…ここまでこれば…大丈夫。」
息が荒くぜえぜえと呼吸が乱れている。
「俺は全然大丈夫じゃねぇけど…」
不機嫌は未だに継続中
いぬこは気まずくなったのか
その場を走り出すようにいぬおを置いて去ろうとする。
「…………。いぬお…ごめんね…先に帰るね」
これにはいぬおも待ったをかける前にいぬこの手をつかんでいた。
「いぬお離してよ」
「いや…離したくない。」
「どうして…?」
「離したくないから。」
それを聞いたいぬこは調子が少し戻りいぬおにとある提案をした。
いぬおは調子を狂わされたようなぎこち無い様子で姉と横に並んで手を繋ぎ帰路を辿り魔物の森を歩き続ける。
いぬおは落ち着かない様子でいぬこの顔を見ないようにしている。
雰囲気を少し変えようといぬこが話しかける。
「そういえばで…商品に渡す予定のアレどうしたの?」
「あー…アレか…」
「そうそう…すっかり忘れてたんだけどちゃんと報酬貰ったかなー…?って…」
「残念なことにあの時の戦闘で半分くらいおじゃんになっちまってたんだ。」
「まじ…?」
「ああ…ごめんな。姉貴…。」
申し訳なさそうな表情でいぬおは落ち込む。
そんないぬおを見ていぬこは報酬のことで期待していた自分に罪悪感が湧いて仕方なかった。
「いやいや…仕方ないよ。大丈夫大丈夫!また商人から依頼受けてまた一緒に手伝ってくれたらいいんだから!ね?だから…元気だしてよ。それに今回あの魔物が悪い!ね?ね?」
いぬこは必死にいぬおにフォローをしまくる。
その必死すぎる光景をいぬおは少しおかしく感じたのか先程のくらい表情から変わり笑顔になる。
「姉貴必死すぎだ。ありがとう。それと…ごめん。俺も姉貴に意地悪してた。いつも姉貴が俺をからかうから少しばかり仕返ししようとしてただけなんだ。…だからごめん。」
いぬこはそれを聞いてホッと息を吐く。
安心したと同時に二人が一緒に笑い合う。
「お互い様だね。」
「そうだな。」
二人は手をつないで再び我が家に向かう。
他愛ない話をしながら。
ーーーーーーーーーー。
【戦闘跡地にて】
いぬこの攻撃によって倒されたと思われる
蛇の魔物の死体は無くなっていた。
正確には脱皮したような皮だけがその場に残されていた。
パキパキ…しゅるるる…
「しゃあああああ!!」
魔物の森に密かに響き渡る咆哮はまだいぬこたちには届いていなかった。
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