妻より先に男は死んだ

片桐秋

第1話

 女は、ずっと頼りがいのある男と共に暮らしていた。その人の妻となり、ずっと頼りがいのある夫が自分を助けてくれて、本当に良かったと思っていた。


 月日が経つうちに、徐々に男の心身も衰えていた。だがそれでも妻にとって、誰より頼れる男だった。


 子どもは二人、ふたりとも女の子だった。今は嫁いで遠くにいる。歳暮と中元には、何やら地方の名産品をくれた。


 ある日、男は妻を置いて先に亡くなった。本当に突然のことだった。


「どうして先に死んでしまったの。私はあなたがいないと駄目なんですよ」


 その未亡人が近所づきあいをしている奥さんが、未亡人の家を訪ねてきた。


「いつも助けてくれていた旦那さんが亡くなって辛(つら)いわね」


 近所の奥さんは、慰めるように声を掛けてくれた。


「いいえ、助けていたのは私なの」


 未亡人は答えた。それは事実だった。


終わり

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妻より先に男は死んだ 片桐秋 @KatagiriAki

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