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日本文化の起源 著:高田隆三 月明堂 2023年
狛犬(こまいぬ) 日本人で狛犬を知らない人は殆どいないでしょうが、しかしその起源を知っている人はなかなか少ないのではないでしょうか。狛犬の片方が口を開けもう片方が口を閉じているのは物事の始まりと終わりを示す「あ・うん」に由来することは知っていても、なぜ角が生えているのかを知っている人はあまりいないでしょう。この項では狛犬の由来を探っていこうと思います。
数多くの文化と同様に狛犬も中国から伝わったと考えられており、中国では少なくとも漢の時代から宮殿や墓の魔除けとして設置されていたようです。それでは狛犬は中国発祥なのでしょうか?それはどうやら違うようです。
仏教の経典『十王経』に門を守る二頭の犬が描かれていることなどから中国の狛犬はインドからの伝来と考えられています。そしてここからが面白いのですが、狛犬はインドにおいて魔除けではなかった可能性が高いのです。というのも、その犬が守っている門というのは地獄の門なのです。白川静氏の主張するように「獄」という漢字には「犭」と「犬」という二頭の犬の要素が入っており、この考えは中国にも幾分か伝わっていたと考えられるのではないでしょうか。話を戻します。
古代インドで3000年以上前に書かれたヒンドゥー教の経典「リク・ヴェータ」には冥界の王ヤマに仕える四ツ目の二匹の犬について書かれています。ヤマという名では聞きなじみがないかもしれませんが閻魔大王といえば知っているのではないでしょうか。仏教はヒンドゥー教の神を数多く取り込んでおりヤマも閻魔大王として知られています。そして狛犬の起源はインドより更に遡れる可能性すら指摘されています。
ヒンドゥー教は6-8000年前に存在したインド・ヨーロッパ語族の共通祖先の神話である原印欧神話に由来するのですが、同じく原印欧神話から派生したと考えられる多数の神話にも狛犬と同じく冥界犬の存在が見られます。例えばギリシャ神話の冥界犬ケルベロス、北欧神話の冥界犬ガルム、イギリスのグリム。他にもイラン神話、ゾロアスター教、スラブ神話など数え上げれば切りがありません。
またケルベロスや冥界の王に仕えるスラブの冥界犬が多頭である理由の手掛かりも得られるかもしれません。鍵は言語、より正確には再構成された原印欧祖語です。原印欧祖語には双数形という二つのものを数える時に使われる単語の形がありそれを踏まえて二匹の犬とは同一の存在、例えば二つの頭をもつ犬であったのではないかということが指摘されています。
それに加え、原印欧祖語の再構成された単語の中には「*Ḱérberos」というものがあり、これの語義上の意味は「斑点のある」です。そして印欧神話の冥界の王ヤマ(ヒンドゥー教のヤマの由来と考えられています)に仕える冥界の犬を表す単語だとも考えられています。現在でも日本を含め様々な地域で目の上に斑点のある犬を四ツ目の犬と呼び不吉とされていることからも、原印欧神話では四ツ目の犬と死とが強力に結びついていた可能性が高いとされています。そして多数の頭というのは四ツ目を持つという伝承が通常の犬のように二つずつ目を持つ頭が二つあるという伝承に変化したことに由来するのではないでしょうか。
そして「四ツ目の犬」はさらに古い時代、具体的には2万年以上前に遡る可能性が存在します。根拠はナイジェリアのイボ族やアメリカ先住民、具体的にはイオコイ族などの伝承にも四ツ目の犬と死を結びつける伝承が存在する事です。このようにユーラシア大陸全域およびアメリカ大陸で「四ツ目の犬」と死とを結びつける伝承が見られることからビルギット・アネット・オルセンらによる「Tracing the Indo-Europeans」によると古代北ユーラシア人(ANE)の神話にそのような伝承が存在していた可能性が高いとされています。古代北ユーラシア人はインド・ヨーロッパ語族とアメリカ先住民の共通祖先と考えられており南シベリア、すなわちバイカル湖以西2-3万年前に存在したと考えられています。実際、複数の墓で犬が死者とともに埋められており死者を冥界へと導くか死者によりつく悪霊を追い払うためだったのではないかと予測されています。
しかし結局のところなぜ四つの眼が死と結びついていたのかは不明です。アメリカ先住民の中では四ツ目を持つことで地下世界も含めた世界全てを見通せるということがその理由だとも言われていますがそれが他大陸に適用できるのかはわかりません。また狛犬に角が生えている理由は未だに不明です。
世界の犬 著:田中雅史 みどりと家庭の出版社 2019年
世界には多種多様な犬がいますが、それらは全てオオカミから人間が品種改良をして作り出したものです。この過程は世界中で起きたわけではなく、中央アジアの特定地域で行われそれによって作り出された犬が世界中に伝番していったと考えられています。それではその最初の犬はどのような姿だったのでしょうか?もちろん、直接見ることはできませんがDNAを分析することで現代のどの品種と近いのかがわかります。それによると、現在中央アジアで飼育されているバンカール犬、あるいはそれに非常に近い姿だったと考えられます。バンカール犬は非常に大きくオオカミほどもあり牧羊犬として飼われています。最大の特徴は、眼の近くに一対の斑点があり四ツ目のように見えることです。地元では、この眼によって冥界を見ることができるといわれています。この犬にはほかにもユニークな伝承が伝わっており、それによるとこの犬は山からやってきた恐ろしい巨人に付き従って地上にやってきたとのことです。
神秘の香り―麝香(じゃこう)が紡ぐ芳醇な世界 ギモンブログ 「世界の香水」より
麝香はその名の通りジャコウジカに由来します。より詳しくいうと、鹿は臭腺という匂いのある液体を作る器官を体中に持っています。麝香はジャコウジカの腹部にある臭腺を加工して作られたものです。ちなみに商用とはされませんが前述の通り他の鹿にも臭腺はあります。眼の下にある一対の臭腺は特に大きくかなり目立つため四眼鹿と呼ばれる種もあるほどです。今度、動物園に行くときにぜひチェックしてみて下さい!
中央アジアの石造遺物 著:山本玲奈 東山大学出版社 2017年
…中央アジア平原においては鹿石と呼ばれる石碑が頻繁にみられる。中央アジアでは鹿が死んだ人の魂を冥界に送り届けるとされていたためだ。
最古の宗教 シャーマニズム 著:中村慎吾 創造社 2007年
シベリア、中央アジアのシャーマンの独特な風貌は広く知られている。彼らは鹿の角を被り、太鼓を持ち額に一対の眼の飾りを付ける。彼らに期待されるのは病を治すこと、未来を予知すること、そして死んだ者の魂をあの世へと導くことだ。
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