第二話 未来から来たワイン②

 未知のワインの登場に、生徒たちのざわめきが止まらない。


 「静かに。いいか──ここにあるこのボトルは、本来存在してはいけないワインだ。

 2025年現在、2026ヴィンテージがあるというのなら必ず理由があるはずだ」


 教室の空気がピリ、と張り詰めた。


 「なぜ、誰が、こんなワインを学園のセラーに置いたのか。

 それともこれは──本当に“未来から来たワイン”なのか」


 誰かが喉を鳴らした音が、やけに大きく響いた。


 「校内のセラーは、出入りの記録が残る。勝手に持ち込めば、処分は免れない」


 「ラベルの改ざん、瓶のすり替え……もし意図的にやったなら、十分に重い話だ」


 タカヒコの声は、責めているわけではなかった。ただ、淡々と事実を並べただけ。

 だがそれが逆に、生徒たちの表情を緊張させた。


 「……もしかして、誰かのイタズラ……?」


 「いや、でもここに置く意味が分からない……」


 「香り、試してみてもいいですか?」


 アルネがグラスにワインを注ぎ、そっと鼻を近づける。

 グラスの中で揺れる赤は、まだ輪郭が粗く、どこか不器用な印象を放っていた。


 「若い……でも、ちょっとだけ……時を積み重ねてきたような香りがします。でもこれは…恐らくワインとは言えない」


 生徒たちは息を呑むように彼女の言葉を聞き、教室の空気がさらに引き締まっていく。

 

 そんな中──


 「……僕です」


 その声は、教室の一番後ろから響いた。


 タカヒコが顔を向ける。

 立ち上がっていたのは、三年の百瀬蒼一だった。


 「……あのワイン、置いたのは……僕です」

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