春S
水野千角形
第1話春へ、巣に潜る。
(4個目の記憶)
ある日なんとなく父に膝枕を頼んだ。
14になって変に気張ってた僕自身を変えるために、いや、甘えたかったんだあの頃みたいに。
仕事帰りの父はいつも真っ直ぐ風呂に向かう。
そこを僕がグッと引き止めて、貸してもらったのだ。
「突然なんだどうしたんだよ、もう。俺は疲れてんだ、、、気が済んだら風呂に入らせてくれよ。」
と父は言った。照れてるように聞こえてふと顔を見たくなったが、なんとなくやめておいた。
五分くらい経った頃、父にボソッとありがとうと言ってリビングに戻った。
目も合わせず、振り返りもせず、少しの気まずさを纏わせて脱衣所を出た。
右奥で夕飯を作る母と左下でスマホを見る弟を視界に収めて、風呂のドアが開く音を聞くために中央の廊下を見つめてた。
「ねえ大丈夫?どこ見てんの。」
左下。ローテーブルの向こう側でくつろぐ弟が、心を廊下にやった僕に話しかけてきた。
「いや、ぼーっとしてただけだよ。」
自然に出た「いや」に頭グルグルしていた。
父に向けた意識を悟られまいとしたのだろう、と考えていたそのとき、奥でドン!と風呂の扉が閉まる音がした。
何故か少しほっとして、ザーというシャワーの音は雑音に変わった。
代わりに包丁がまな板にあたる音や、何かが焼ける音が耳に入ってきた。
あまり好きじゃない魚の焼ける匂いもして来たから部屋に戻った。
どたんとベットに飛び込んだ。
マットレスのバネが弾む音を耳の辺りで微かに響かせ、すぐさっきまでの一連の時間を振り返っていると、なんだか疲れて寝てしまった。
(5個目の記憶)
ある日なんとなく母を散歩に誘った。
僕は特別散歩が好きな訳でもないが、
最近少しいろいろ丸くなってきた母を思って、いや2人だけの時間が欲しかったんだあの頃みたいに。
僕が学校から帰ると母はいつもリビングのローテーブルに座りテレビを見ていた。
「何よ突然。」
ただいま、の後リュックは背負ったままで
リビングにいる母に誘いに行った。
「まあいいけど。どこにいくの?」
「1個先のコンビニまで」
「うーん、わからないけど分かったわ。準備するね。」
意外とすんなりのってくれた。
母は寝室へ、僕は自室へ歩いていく。
「その先は?」
「はあ、はあ、ここまでしかわかりません。」「はあ、はあ、ここまでよ。」
「ふむ、なかなか鮮明だね。わざわざ遠くまでありがとう。隣の棟の3022が明日15時までの部屋だ。よく休みなさい。無事を祈る。」
「ふう。ありがとうございます。では失礼します。さあリサ、帰ろう。」
ギイイイ、ガチャ、、バタン。
「はあ、、キーチ。2連チャンは流石に疲れたよ、。」
「そうだね。僕も疲れた。さっさと部屋に行こう。」
32年前、ある少年少女、“boy”、“girl”によって審判“ball”が起きた。
二人の肩が触れたとき、ビー玉のような丸い歪みが発生した。それが破裂すると、ラッパのような口をした白い生命体がから飛び出して人を宿主に瞬く間に数を増やし、地球を埋めた。さらに球とやらが作られて、それが次第に大きくなってやがて地球を覆ってしまった。
それが破裂すると白い生命体は日を浴びて土に還った。九割九部の人間は地球に飲まれてしまったのだった。
それをballと言う。
各所で生き残った一部の人間は白い生命体に適応した人間だった。
それらの人間がまた文明を再興した。
日本には特別各所に“記憶”が土に帰れず残っていた。そこには円形に褐斑病の雑草が茂っている。
木一と理左は“春S”を知っている為その調査を手伝って生きている。
「もしあの記憶に行けたらな。どんな幸せだろうね。」
「ほんとにね。ballのせいよ全ては。なんで私たちがケツ拭かなきゃならないのよ。ねえ?」
「だな。でもリサ、あと2か所だ。そしたら外国に逃げよう。」
「うん!行く!、、インドとかどうかな?ま!さっさと終わらせてやるんだから!お金も貯まってきたしね。」
『30階です。』
「だね。無事ついてくるんだよ。」
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