父と子の決着、そしてエルドラの夜明け

アルスの黄金のオーラと、魔王ザルガードの暗黒のエネルギーが激突し、デモンズキャッスルの玉座の間は凄まじい力の奔流に包まれた。私たちの張った水のバリアも、その余波で激しく揺らめいている。


「アルストロメリア……! お前ごときが、この俺の『アビス・エンド』を止められるとでも思うか!」

魔王ザルガードの叫びが響き渡る。彼の背後には、アビス・コアの空に浮かぶ巨大な「瞳」が、まるで彼に力を供給するかのように禍々しく輝いている。

「父上! あなたは、あの瞳の力に操られているだけだ! 本当のあなたは、そんな破壊を望んではいないはずだ!」

アルスの声は、魔力の嵐の中でも、まっすぐに魔王に届いていた。彼の黄金のオーラは、魔王の暗黒エネルギーに少しずつ押し返されているように見えるが、その瞳は決して諦めていなかった。


「ヒメカさん! アルスさんを援護しないと!」

ミリアが叫ぶ。

「ええ! みんな、最後の力を振り絞るわよ!」

私、サヨ、ルナ、フェンリル、そしてミリアは、残された全ての魔力をアルスに注ぎ込んだ。炎、風、水、氷、光、そして闇。様々な属性のエネルギーがアルスの黄金のオーラと混ざり合い、さらに強大な輝きを放ち始める。

「これは……みんなの力が……俺の中に流れ込んでくる……!」

アルスの聖剣ソルブレイバーが、虹色の光を帯び始めた。


「無駄だ! 無駄だ無駄だァァァッ!! 俺の力は無限! この宇宙の破壊こそが、俺の宿命なのだ!」

魔王ザルガードは、もはや正気を失っているかのようだった。あの「黒き雫」、そして背後の「父なる破壊の瞳」の力に、完全に飲み込まれてしまっている。

だが、その時。アルスの聖剣から放たれる虹色の光の中に、一つの小さな影が見えた。それは、優しそうな笑顔を浮かべた、若き日の魔王――ザルガードの姿だった。そして、その隣には、愛情深い眼差しで彼を見つめる、美しい女性の姿が……。


「あれは……アルスのお母様……?」

ミリアが、息をのんで呟いた。

「そうだ……。思い出した……。父上は……母上が亡くなった後、その悲しみから逃れるために、『黒き雫』に手を出したんだ……。そして……力を求めすぎた結果……心を失ってしまったんだ……」

アルスの目から、涙が溢れ出した。それは、父への深い愛情と、そしてその過ちに対する悲しみの涙だった。


「父上ェェェェェッ!! 目を覚ましてくださいッ!! 母様も、きっとこんなことを望んではいませんッ!!」

アルスの魂の叫びと共に、聖剣ソルブレイバーから放たれた虹色の光は、魔王ザルガードの暗黒エネルギーを打ち破り、その胸を貫いた。

しかし、それは破壊の光ではなかった。むしろ、浄化の光とでも言うべき、温かく、そして優しい光だった。


「ぐ……う……あ……?」

魔王ザルガードの動きが止まる。その全身を覆っていた禍々しいオーラが、少しずつ消えていく。そして、彼の顔を覆っていた影が晴れ、その素顔が現れた。それは、深い悲しみと後悔の色を浮かべた、どこかアルスに似た、端正な顔立ちの男だった。

「……アルストロメリア……。そして……リリアンヌ……?」

ザルガードは、まるで長い悪夢から覚めたかのように、虚ろな目でアルスと、そしてアルスの背後に浮かぶ亡き妻の幻影を見つめていた。

「ああ……俺は……なんてことを……」

彼の手から、黒き剣が滑り落ちる。


魔王ザルガードを支配していた「黒き雫」の呪いは、アルスの愛と、仲間たちの力によって浄化されたのだ。背後の「父なる破壊の瞳」は、忌々しげにその輝きを揺らめかせた後、ゆっくりとアビス・コアの闇へと後退していった。まるで、今回は獲物を逃したとでも言うように。


「父上……!」

アルスが、力を使い果たして倒れそうになるザルガードを抱きとめた。

「……許してくれ……アルストロメリア……。そして……ありがとう……」

ザルガードは、安らかな表情でそう言うと、静かに目を閉じた。彼の体は、光の粒子となって消えていく。それは、呪いから解放された魂が、ようやく安息の地へと旅立っていくかのようだった。


魔王ザルガードが消滅すると、デモンズキャッスルはゆっくりと崩壊を始めた。私たちを覆っていた暗雲も晴れ、エルドラの世界に、久しぶりに太陽の光が差し込んできた。

「ヒメカ様! 急いで脱出を!」

セバスチャンが操るノアの方舟が、私たちを迎えに来た。


エルドラの人々は、魔王の消滅と世界の夜明けに歓喜した。アルスは、エルドラの真の英雄として、そして新たな王として、人々から迎えられた。彼の中には、もう臆病な「アルス」も、悲しみを抱えた「アルストロメリア」もいない。二つが統合され、真の優しさと強さを兼ね備えた、新たな「アルス王」が誕生したのだ。ミリアも、フェンリルも、そしてエルドラの民も、彼のそばで新しい国造りを手伝うことになるだろう。


「ヒメカさん、サヨさん、ルナさん……本当に、ありがとうございました。このご恩は、エルドラの民と共に、永遠に忘れません」

アルス王が、深々と頭を下げた。

「いいのよ、アルス。あなた自身の力で勝ち取った未来だわ」

私は微笑んで答えた。


私たちの役目は終わった。ザハラの助け(と気まぐれな情報提供)もあり、私たちは星喰らいの瞳――異世界へのゲートを通じて、再びアビス・コアへと戻る方法を見つけ出すことができた。

「ザハラ……あなたにも、感謝しているわ」

「フン。礼など不要だ。だが……お前たちの旅は、まだ終わりではないのだろう?」

「ええ。私たちは、黄金の桃……『創世の残り火』を探さなければならないから」

「そうか。ならば、一つだけ忠告しておこう。あの『母なる瞳』と『父なる破壊の瞳』……あれらは対であり、そして、どちらも宇宙のバランスを崩す『歪み』そのものだ。そして、その歪みは、お前たちが求める『残り火』と深く関わっている。下手をすれば、お前たち自身が、新たな歪みを生み出すことになるやもしれんぞ」

ザハラの言葉は、重い警告として私たちの胸に刻まれた。


アーク聖教団のソフィアは、魔王ザルガードの結末を目の当たりにし、そしてザハラから「瞳」の真実の一端を聞かされたことで、自らの信仰に大きな疑問を抱き始めていた。彼女は、エデンへの巡礼を一時中断し、自らの教団の在り方を見つめ直すために、アビス・コアのどこかへと旅立っていった。いつか、またどこかで再会することがあるかもしれない。


水の巫女マリーナは、エルドラの復興を見守りつつ、アルス王の良き相談相手となるだろう。彼女から習得した水の魔法は、これからの私たちの旅でも大きな助けとなるはずだ。


「元の世界へ帰る為にはゲートが必要だろうな」

と魔王ザルガードは言った


そのゲートの構築には、その後200年ほど掛った

巨大な街を埋め尽くすほどの魔法陣の構築が必要だったのだ

魔法陣の構築には莫大な魔力と、異世界のアイテムが必要になる


約束通りアルスたちは、元の世界へ帰る為に魔法陣構築と異世界のアイテムの入手に協力してくれた

もう、魔法陣が出来た頃にはミリアは亡くなっていた

アルスは魔族である為、長寿で生きていた


そして、私たちは、ゲートを開いた


「寂しくなるな」

アルスは寂しそうだった


「そうね。あんたとの日々は忘れないよ、坊やもいい男になったね」

私は弱虫だったアルスを思い出していた


「はは。よしてくれよ、昔の事だ。じゃあ達者でな。」


次なる目的地は、アカシャが示唆した「嘆きの星雲」の、さらに奥深く。そこには、「創世の残り火」の最も濃密な反応があるという。


「ねぇ、ヒメカ姉御。あたしたち、一体どこまで行っちまうんだろうねぇ」

サヨが、アビス・コアの禍々しい星空を見上げながら言った。

「さあね。でも、どこへ行こうと、やることは変わらないわ。前に進むだけよ」

「ヒメカさんの言う通りです。そして、私たちが一緒なら、きっと大丈夫です!」

ルナが、力強く頷いた。彼女もまた、この旅を通して大きく成長した。


私たちの千年を超える旅は、まだ終わらない。黄金の桃の謎、星喰らいの脅威、そして宇宙の歪み。待ち受ける運命がどのようなものであろうとも、私たちは仲間と共に、その答えを求めて進み続けるのだ。


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