ゴーレムの鉄拳と水の神殿

アルスの秘密の一端に触れ、私たちは改めて黒鉄鬼ゴーレムの討伐へと向かった。ゴーレムの居城は、巨大な岩山をくり抜いて作られた、まさに鉄壁の要塞だった。


「こりゃあ、正面突破は難しそうだねぇ」

サヨが、城壁を見上げながらぼやく。

「ゴーレムは、その名の通り岩石と金属でできた体を持つ魔人です。物理攻撃はほとんど効かず、強力な土魔法と、その巨体から繰り出されるパンチは大地を揺るがすと言われています」

ミリアが説明する。


「物理がダメなら、魔法で攻めるしかないわね。ルナ、あなたの氷魔法が鍵になるかもしれないわ」

「はい! 頑張ります!」

ルナは、クロウとの戦いで少し自信をつけたのか、以前よりも積極的になっていた。


ゴーレムの城に潜入すると、内部は複雑な迷路のようになっており、無数の小型ゴーレムが警備していた。それらを蹴散らしながら進んでいくと、広大な広間に出た。そして、その中央に、山のように巨大な黒鉄鬼ゴーレムが鎮座していた。

その体は黒光りする金属と、赤茶けた岩石で構成され、両腕は巨大な鉄球のようになっている。顔にあたる部分には、溶岩のように赤い目が二つ、不気味に輝いていた。


「ヨク……キタナ……人間ドモ……。ココガ……オ前ラノ……墓場ダ……」

ゴーレムが、地響きのような低い声で言った。

「でかいだけじゃないの! 『フレイムランス』!」

私が先制攻撃として炎の槍を放つが、ゴーレムの岩石の体に当たると、大したダメージも与えられずに霧散してしまった。

「やはり、炎は相性が悪いか……。サヨ、風で攪乱して!」

「おうよ! 『サイクロンバースト』!」

サヨが巻き起こした竜巻がゴーレムを包み込むが、ゴーレムは微動だにしない。その巨体は、並大抵の風ではびくともしないようだ。


「無駄ダ……。オレノ体ハ……最強……」

ゴーレムが、巨大な鉄球の腕を振り上げた。その動きは鈍重に見えたが、繰り出されるパンチの威力は凄まじく、床に叩きつけられると地震のような衝撃が走った。

「きゃあっ!」

ミリアが衝撃で体勢を崩す。

「ミリア、大丈夫!?」

アルスが慌てて彼女を庇うが、今の彼にできるのはそれくらいだった。


「ルナ、今よ! 彼の関節部分を狙って!」

ゴーレムの体は硬いが、関節部分は比較的脆いはずだ。

「はい! 『ブリザードエッジ』!」

ルナが、鋭い氷の刃を連続で放つ。いくつかの刃がゴーレムの膝や肘の関節に突き刺さり、その動きをわずかに鈍らせた。

「効イタカ……? 小賢シイ……」

ゴーレムが怒りの声を上げ、ルナに向かって鉄拳を振り下ろそうとした。


「させないわ! セバスチャン、ゴーレムの視覚センサーを狙って!」

ノアの方舟(いつの間にか私たちの後を追ってきて、小型化して潜入していた)から、セバスチャンが精密なレーザー射撃を行う。レーザーがゴーレムの赤い目に命中し、一瞬だがその視界を奪った。

「今よ、みんな! 一斉攻撃!」


私は最大出力の光魔法「サンシャインバスター」を、サヨは圧縮された風の刃「エアリアルブレイド」を、そしてルナは凍てつく吹雪「ダイヤモンドダスト」をゴーレムに叩き込んだ。さすがのゴーレムも、これだけの集中攻撃には耐えられなかったのか、その巨体がぐらりと揺らぎ、膝をついた。

「バカ……ナ……。コノ……オレガ……」


だが、ゴーレムはまだ倒れていなかった。その体の表面から、新たな岩石や金属片が湧き出し、損傷した部分を修復し始めたのだ。自己再生能力まで持っているとは、厄介すぎる。

「まずいわ……このままじゃキリがない……」

ミリアが回復魔法を唱えながら、焦りの声を上げる。


その時、アルスが何かを決意したように、聖剣ソルブレイバーを握りしめた。

「……僕が……僕がやらなきゃ……!」

しかし、彼の体は震え、瞳には恐怖の色が浮かんでいる。いつもの「覚醒」の兆候は見られない。

「アルス、無理しないで!」

ミリアが叫ぶ。


絶望的な状況。ゴーレムが、再び立ち上がり、私たちに止めを刺そうと巨大な腕を振り上げた。

もうダメか、と思った瞬間。


「――水よ、我が声に応え、聖なる流れとなれ! アクア・ゲイザー!」


どこからともなく凛とした声が響き渡り、広間に突如として巨大な水の奔流が出現した。その奔流は、まるで意志を持っているかのようにゴーレムに襲いかかり、その動きを完全に封じ込めた。水はゴーレムの体の隙間に入り込み、内部からその構造を破壊していく。

「グオオオオ……!?」

ゴーレムが苦悶の声を上げ、その巨体が水圧によって内側から崩壊し始めた。


呆然とする私たちの前に、一人の女性がゆっくりと姿を現した。青いローブを纏い、手には水の魔力を秘めた杖を持っている。その瞳は、深く澄んだ湖のような青色をしていた。

「……あなたたちは……異世界の方々ですね? この地の魔力の流れが大きく乱れたので来てみれば……。まさか、黒鉄鬼ゴーレムをここまで追い詰めるとは」

彼女は、静かにそう言った。


「あなたは……?」

「私は、この地の『水の神殿』を守る巫女、マリーナと申します。ゴーレムの封印が弱まっているという報告を受け、様子を見に来たのです」

マリーナと名乗った巫女は、私たちを一瞥すると、再びゴーレムに向き直った。

「邪悪なる鉄塊よ、もはやこれまで。聖なる水の力にて、再び永劫の眠りにつきなさい!」

マリーナが杖を掲げると、ゴーレムを包み込んでいた水の奔流がさらに勢いを増し、ついにゴーレムはその形を保てなくなり、ガラガラと音を立てて崩れ落ち、ただの岩と金属の塊に戻った。


こうして、二番目の四天王、黒鉄鬼ゴーレムは、水の巫女マリーナの助けを借りて、なんとか討伐することができた。

マリーナは、私たちに水の神殿へ来るように言った。そこには、魔王に対抗するためのさらなる力と、この世界の成り立ちに関する重要な秘密が隠されているという。私たちの異世界での冒険は、新たな局面を迎えようとしていた。そして、アルスの心の中の葛藤もまた、深まっていくだろう。

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