宇宙からの来訪者(あるいは闖入者)
博士の音声ファイルが見つかってから数日後、私たちの平穏な日常に、文字通り空から変化が舞い込んできた。
「ヒメカ様、緊急事態です! 上空に未確認飛行物体が接近中! コロニー政府からの事前通告はありません!」
セバスチャンが、いつになく緊迫した声で警告を発した。リビングの大型モニターには、地球の大気圏に突入してくる銀色の流線型の物体が映し出されている。それは、明らかに人類の宇宙船とは異なるデザインだった。
「まさか……異星人!?」
リリが声を上げる。千年種の間でも、地球外知的生命体の存在は長らく噂されてきたが、実際に接触するのはこれが初めてだ。
「落ち着きなさい、リリ。セバスチャン、相手に敵意はあるの?」
「現時点では不明です。しかし、武装している可能性は否定できません。ヒメカ様、及び皆様はシェルターへの避難を推奨します」
「そうね……でも、まずは相手が何者なのか知りたいわ」
宇宙船は、私たちの住むエリアからさほど離れていない平原に、静かに着陸した。しばらくすると、ハッチが開き、中から数人の人影が現れた。モニターの映像を拡大すると、その姿は……驚くほど人間に酷似していた。ただ、肌の色が淡い緑色で、耳が長く尖っている点を除けば。
「……エルフ? いや、そんなお伽噺みたいな……」
私は思わず呟いた。彼らは、ゆっくりと周囲を見回し、やがてこちらの方角へ歩き始めた。
「どうする、ヒメカ? あたしゃ、ちょっとワクワクしてきたよ」
サヨが、好戦的な笑みを浮かべている。
「あなたは黙っていてちょうだい。……セバスチャン、彼らとのコンタクトを試みて。まずは友好的にね」
「了解しました。多言語翻訳システムを起動。ファーストコンタクトプロトコルに移行します」
私たちは、セバスチャンを先頭に、平原へと向かった。緑色の肌の彼らは、私たちに気づくと立ち止まり、警戒するような素振りを見せた。
『――我々は、惑星キラーナより参りました。あなた方は、この星の先住民族の方々でしょうか?』
セバスチャンのスピーカーから、滑らかな異星の言語、そしてその翻訳音声が流れた。
「私たちは、この星に古くから住む者です。トビ・ヒメカと申します。あなた方の来訪の目的を伺ってもよろしいでしょうか?」
私も、できるだけ穏やかな声で返答した。
『ヒメカ……。その名は、我々の一族に伝わる古い伝承にも記されています。黄金の果実により永遠に近い時を生きる種族……あなた方は、もしや『千年種』の方々では?』
リーダーらしき人物が、驚いたように言った。まさか、彼らが私たちのことを知っているとは。
「いかにも。我々は千年種。あなた方の伝承に、我々の名が?」
「ええ。遥か昔、我々の祖先の一部がこの星を訪れたという記録があります。その際、千年種の方々と交流があったとか……。我々はその記録を頼りに、あなた方を探しに来たのです」
話を聞くと、彼らキラーナ星人は、自らの星が滅亡の危機に瀕しており、新たな移住先を探しているのだという。そして、その候補地の一つとして、かつて祖先が訪れたという地球に白羽の矢を立てたのだ。彼らは、千年種の長寿の秘密にも強い関心を持っているようだった。
「……なるほど。事情は分かりました。しかし、残念ながら、この地球もまた、かつて住んでいた人類という種族が撒いたウイルスにより、彼らにとっては住めない星となってしまったのです」
私の言葉に、キラーナ星人たちは明らかに落胆の色を見せた。
「そんな……では、我々はまた振り出しに戻るというのか……」
「ですが、私たち千年種は、そのウイルスの影響を受けません。あなた方も、もしそのウイルスに対する耐性を持っているのであれば……」
この出会いが、私たち千年種にとって、そしてこの地球にとって、どのような影響をもたらすのか。それは、まだ誰にも分からなかった。ただ、私の退屈だった日常が、少しだけ「ドキドキするようなこと」で満たされ始めたのだけは確かなようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます