告白ボタンを押した女、帰宅して即バッテリーと共に死ぬ

スマホが光を取り戻した。再起動。復活。命。光。世界。



LINEを開く。


田中の名前をタップ。


……そして、凍りつく。



ない。


あの告白文が、どこにも、ない。


メッセージは未送信。

トーク画面の下に、打ちかけの文章だけが、ぽつんと残っていた。


『あのね、さっきからずっと言いたかったことがあるんだけど、やっぱり好きです』


……その文章が、入力欄の中で、正座してる。



あたしは、がくりと膝をついた。

バカか。あたしはバカか。なんで確認しなかった。

あのタップ、感触はあった。あったけど送られてなかった。


つまりあたしは今、告白した気でいて、でもしてなくて、それなのに一人で告白した後の女として振る舞っていた。


さっきの帰り道のドキドキは、なんだった?

「明日、田中にどう声かけられるかな」とか考えてた自分を殴りたい。

「もしかして向こうも既読無視で困ってるかも」とか考えてた自分はもう、二度と鏡を見るな。



じゃあ今、送る?

いやいやいや無理無理無理。

さっきの勇気、もうない。

あれは放課後限定。夜になったら溶ける。魔法かよ。


しかも今送ったら、「充電切れてたので遅れました」って自白することになる。

スマホに人格があるなら、たぶん「えっ、今さら?」って言ってる。



私は、とりあえず深呼吸をして、スマホを机に置いた。


入力欄に残った告白文は、

まるで、昨日別れた元カレからの長文LINEのように見えてきた。

いや、ちょっと待って、あたしまだ送ってもないし付き合ってもないし、なんなら振られてもないのに、もう失恋の顔してるの、どういうこと?



……送るべきか。

やめるべきか。

もうちょっと粘るべきか。

「このまま告白文だけを打ち続けて生きていく」というライフスタイルもありかもしれない。



とりあえず今日は、スマホの通知を切って寝よう。

そうしよう。


そして明日、また考える。


「告白していない女」として、生きていくために。

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