告白済みの女は明日からどう生きれば良いのかという問題
@pChron
バッテリーが切れる前には爆発して警告してほしいよねって話
送れてたらどうしよう、なんて言いながら、内心ではもう送れてる気満々だった。
だって、あのタップの感触。あれは確かに「送信」の手応えだった。物理的には。指的には。タップ感覚的には。
送れた。
そう、送れたのだ。わたしの告白は、彼のスマホに、今、届いている。
……という前提で、考えよう。明日からどうする?
*
【シナリオ1:向こうが何も言ってこない場合】
最悪である。
既読スルー。
冷戦。沈黙。あたしの存在、空気。
わたしは彼の視界の中で、わざとらしく立ち止まり、転び、教科書を落とし、「あっ……」っていうやつを三回やる。
それでも声をかけてこなかったら、もうそれは地球上に存在しないと思っていい。
【シナリオ2:向こうがニヤニヤして近づいてくる場合】
最悪である。
ニヤニヤ系は、告白されたときに「こいつオレのこと好きなんだぜ~」ってやつに進化する。
翌日からあだ名が「田中の女」になる。
あたしは恥ずかしさで気絶して、保健室に運ばれ、先生に「なんで顔が赤いの?」と聞かれ、「地球の酸素が濃すぎて……」とか言い出す。
【シナリオ3:向こうが普通に接してくる場合】
最悪である。
ということは、読んでない。通知スルー? 非表示設定? そんな機能あった?
つまり彼はあたしの気持ちを知らずに、いつも通り「おはよ」って言ってくる。
わたしは心の中で、地雷を一歩ずつ踏んでいる感覚になる。普通でいられるって、地獄。
【シナリオ4:向こうから返事が来る場合】
最高である。
でも、どんなテンションで来る?
「俺も実は……」って来たら、うっかりスクショしそう。
「ありがとう。でも……」って来たら、うっかりスマホ投げそう。
「既読だけついて返信なし」だったら、もう木に登る。枝に座って1日過ごす。
【準備すべき明日の行動】
髪は巻く。いつもより0.7周多めに。
メイクは濃すぎず、でも「今日なんか違うね」と言われたいレベルに調整。
昼食は食べない。胃が何かを受け付けない(という設定)。
田中を目撃した瞬間、視線を一度スルーしてから、戻す。(これ重要)
*
家に着いた。スマホはまだ沈黙している。充電は、ようやく5%。
画面を開くべきか。否。いま開いたら、もし未送信だったら、この妄想が全部無効になる。
だから、わたしは目を閉じる。
そして、明日のことを考える。
——もし彼が、何も言わなかったら。
——もし彼が、笑ってくれたら。
——もし彼が、「気持ち、嬉しかったよ」と言ってくれたら。
そのときは、わたしも、ちゃんと笑おう。ちゃんと、彼の目を見よう。
ちゃんと、恋をしよう。
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