ユズカのNSセッション説明

「んじゃ、NSのセッションの流れ、教えとこっか。実際やる前に、頭入れとかないと、飛ぶからね」


ユズカはそう言って、自分のスマホを開いて、アプリの画面を見せてくる。

画面の上部には、銀色の脳アイコンと「Online」の表示。下にはチャット形式でクライアントとのやりとりログが並んでる。


「まずね、アプリ開いたら“セッション募集”ってとこタップ。自分の状態、たとえば“空腹で甘いもの食べたい”とか“お風呂入りながらリラックス”みたいに書くの」


「ふつうのSNSの投稿みたいな感じ……?」


「そうそう。でもこれは、向こう──PH側の“感覚依存者”に向けた商品広告みたいなもん。で、数分もすれば誰かから“同期リクエスト”が来るの」


「それ、全部受けなきゃダメなの?」


「ううん。選べる。こっちが承認しなきゃ始まんない。だから、変なの来たらブロックすればいいし、評価とか公開プロフで“地雷ポス”は避けられる。慣れれば一瞬で見分けつく」


ユズカは画面をスクロールして、あるセッションログを開いた。


「で、承認したら『同期開始』のカウントが始まる。3、2、1……で“来る”。同期した瞬間に、こっちの脳にグッて入ってくる感覚があって、ちょっとビリッとする。最初はビビるけどすぐ慣れる」


「入ってくる……って、どんな風に?」


「人による。でも、温度とか、触覚とか、ちょっと重い感情がズンと来る。中には優しいのもいれば、えぐいくらい欲しがってくるのもいる。でも全部“脳の中”だから、現実みたいな恐怖はないの。むしろ、興奮する」


「で……そのあと?」


「自分がやることをやる。アイス食べる、オナニーする、セックスする──内容は自分次第。刺激の強さ=DPMって数値に影響して、報酬が上下する。DPM高いほど快感も報酬もデカいけど、リスクも跳ね上がる」


「フライのやつ、でしょ?」


「そう! Flyout Risk Index。これが700超えたら警告。1000超えると焼ける。脳みそ天ぷら」


「そんなの……やばくない……?」


「公式アプリで使ってる限り、まずそんな数値までいかないって!だいじょーぶ!」


ユズカは、スマホを伏せて、わたしをまっすぐ見る。


「マツリは、SEN(感度)95でTOL(耐性)2でしょ。ハッキリ言って、チート。たぶん、何もしなくてもポスおじが群がってくる。最初の1セッションで2万とか普通にいけると思うよ」


「……そんな、わたし、まだなにも……」


「自信持ちなよ!あたしが保証する!」


ユズカは笑ってる。

わたしは笑えなかったけど──息が、少しだけ、荒くなってた。

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