知らなくていいこと

鈴乱

第2話


 はぁ。


 何度目かのため息をつく。


 何度書いても、納得のいくものに仕上がらない。


『これもダメ……。これも……駄作……』


 俺のパソコンは、駄作ばかりで埋まって、クラウドが悲鳴を上げる。


 俺は構わず、駄作を書き連ねる。


 課金なんて文字はハナからない。


『もう、出しちまえばいいじゃないですか!』


 パソコンとクラウドが口を揃えて言う。


「うっせぇ。まだなんだよ。まだ……足りない」


『もう限界です!』


「ごちゃごちゃうるせーな。分かったよ。そんなに言うなら、ローカルに保存してやる」


『……』


「これで文句ないな?」


『……』


 あーあ、だんまり決め込まれちまった。


 困った仲間だぜ、まったく。


「黙ってんなら、肯定ととるぞー? いいんだなー?」


 少々、煽るように声をかけてみる。


『……そういうことじゃないけど、そういうことでいいです』


 あーらら。へそ曲げちまった。


 ……あとで、あいつらのご機嫌とらねぇと、電源も入らなくなるかもしれない。


『しゃーねーな。外部デバイス、買ってくっか』


 心なしか、パソコンとクラウドがほっとした顔をした……気がする。



 俺は、いつもこうだ。


 人ではない誰かと、話をする。


 話をしている気になる。


 ……それが、妄想だと分かっていても。



『「見立て」が大事だと、言っていたからな』


 俺の信頼する情報がそう言っていた。


 だから、俺はそれに倣って行動しているだけ。


 だから決して、病気などでは、ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

知らなくていいこと 鈴乱 @sorazome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る