第三章前編 城壁南西門防衛戦→魔族殲滅戦
シャリーナ様と別れて、二日目の早朝。
城壁南西側、外縁農民用の小門前に、僕は立っていた。
この街に着いた時と違い、濃霧は出ていない。辺りの見通しはよく、正面に見えるのは乱立する木々や打ち捨てられたあばら屋、そして整えられた用水路のみ。
敵が来たらすぐに察知できる。そしてこの城壁を攻撃する者はこの地を統治する貴族王族に仇なす者と看做されるのだと聞いた。
二日前、あのチタニアスという魔族がわざわざ僕に警告した上で何もせず退いたところを鑑みるに、あの傭兵魔族連中もこの街と全面的に敵対するつもりはないのだろう。
つまりこの城壁を背にしている限り、アウトレンジからの狙撃の心配はない――はず。
万が一撃たれたとしても、こちらには奥の手があるから多少は問題ないだろう。
「ふぅ……シャリーナ様、僕がお守りしますから」
独り言が溢れる。そのどこかで聞いたようなありふれた言葉は自分に言い聞かせているようで、我ながら弱々しい。
どんなに誤魔化しても、やはり頭の奥には不安が残っているようだ。
落ち着かない指を武器に伸ばし、改めて今の武装構成を確認する。
背部、左右一対の翼のように伸びるサブアームで保持された長剣のソードラック。
サブアームは本物の腕のようにフレキシブルに可動し、肩がけから佩刀のように腰横で固定、更には反対側にまで届き思い通りに素早く動いてくれる。
納剣された合計二振りの
腰後ろには左側にナイフ、右側にカービンライフルのマウントラッチを装備した。ナイフは対魔族用に魔力コーティングがかけられている以外は一般的なものだ。
本体のものと両大腿部のマガジンラックを合わせれば、全五本のマガジン×各三十発、合計百五十発の単発ビーム弾を発射可能。敵の人数や装備にもよるが、節約すれば問題はないだろう。
ジーナが装備していた左腕の
ジーナは体当たりしていたが、本来は片腕だけでもパンチで鉄扉や頑丈な水圧扉を凹ませるくらいのポテンシャルをもっている。純粋に火力を水増しできる唯一の兵装であるため、これに頼る場面は多いだろう。
アンダースーツの
隊長から受け継いだ指揮官用ヘッドセットの感度も良好。エルフ耳と鬼の角を参考に開発されたブレードアンテナと眼帯型多機能モニターにより、多少の悪環境でも対抗できる。
唯一の優位性であり同時に大きな心配点はスラスターが脚部しかないというところ。
本来は背部やサブアームにスラスターを設けることで擬似的に飛行することもできるが、今有効的に機能するのはハイジャンプや瞬発力強化のみ。
それでも敵は似た魔法でも無い限りこの推力には着いてこれない。こちらが優位をとるためには、この脚部スラスターを巧く使うしかないだろう。
これらの
高難易度というレベルではない。しかしやり遂げなければジーナの、ニコの、隊長の死が無駄になり、シャリーナ様が吐き気を覚えるようなおぞましい末路を迎えることになる。
戦って、勝って――生きて、帰る。
これが僕の、任務。
「ここに居るなんて意外だな」
ふと、声が聞こえた。
街道の先から歩いてきていた人の列、その先頭には燃え盛る焔のような髪の男――チタニアス。
「聞いたぞ、お嬢様の見張りにつけた連中を皆殺しにしたんだって? 結構アグレッシブなんだな」
シャリーナ様はカフェから出ていない。直接見張れる位置は自然と限られる。
シラミ潰しに当たれば、一掃は簡単だ。監視カメラや盗聴器の類は、この指揮官用ブレードアンテナから発した害悪レベルの超強力な電磁波で受信側が焼きついただろう。あの街の電化製品普及率の低さに救われた。
「お嬢様の近くに居なくてイイのか?」
「街中で戦いたくないので」
「別働隊は考えなかったのか?」
「あなたがここに居る時点でその可能性はありません」
出来るものならカフェで出会った時点で連れ去るはずだ。出来なかったということは、こいつらもこの街の法執行機関とは少しでも関わりたくないということになる。
あの街を統率しているのは強大な魔物を絶滅させた側でもあるため、当然と言えば当然なのだが。
「思ったより面白いヤツだな。だが一人でなんとかするつもりか? 悪いが手は回してある、ここなら騎士団の邪魔も入らない。正真正銘、お前は背水の陣ってわけだ」
「元よりそのつもりです。あなた方こそ、早くかかってきたらどうですか」
魔族としての性分が疼いているのだろうか、周囲の傭兵たちはすぐに大小様々な剣や銃を構え標的である僕を睨んでいた。
一方チタニアスはそんな彼らを制止するように手を一瞬後ろにかざして下ろすのみ。
だがその瞳はまっすぐ僕を見つめ、その心に燃え滾っているであろう闘志を映しているよう。
「名前を覚えておきたい。前はお嬢様に邪魔されちったしな。聞いてもイイか?」
「サヴァンナM…………ミック、です」
その名を聞いたチタニアスは目を丸くしていた。
サヴァンナという実質的な奴隷戦士に名前が付いていたことに驚いていたのだろうが、すぐに笑みを浮かべた。
「いいだろう。サヴァンナ・ミック。お前を倒して、俺たちは先に進む」
僕を見据えたまま、魔族部隊の後ろへ下がっていくチタニアス。
合わせて残りの魔族も全員武器を構え、僕ににじりよってくる。
「リージャ。城壁には矢、弾丸の一発も当てるなよ。お前らもあの壁に傷つけて絶滅した魔物の仲間入りは嫌だろ?」
最後に拾ったチタニアスの声は、どこかに隠れているであろう狙撃手に向けた通信だろうか。それきり傭兵団の中に消え、姿も声も確認できなくなった。
ざっと見て二十人くらいだろうか。だが近くの物陰に伏兵もいるはず。中にはチタニアス含めて魔法を使ってくる者もいるだろう。
やはり、かなりハードな決戦になりそうだ。
だが不思議と――落ち着いていた。
頭が冴える。雑念もなく、先程ぼんやり感じていた恐怖心や不安も消え去っていた。
まるで第三者にでもなったように、余計な感情を挟まず物事を捉えられる不思議な感覚だった。
外骨格の一部、魔力コンデンサーと呼ばれる部位が黄色に発光し、ヘッドセットのエルフ耳を模したアンテナが鬼の角のように前方に自動展開される。
魔族連中をしっかりと見据え、ゆっくりと両の手を前方に降ろしてクラウチングスタートの姿勢をとると同時に、脚部スラスターのチャージを開始。
同時に、正面の魔族は見た。
ミックの藤色の髪が一部、黒く変色し、ゆっくりと開いた淡い黄金色の瞳は漆黒に染まり、瞳孔の傍に小さな赤い発光点が出来ていたことを。
それは脳内で増殖する魔力が許容量を超え、余剰エネルギーを変換して安定をとるべく人体に常軌を逸したパワーを与えた結果、外観にさえ影響を及ぼすほどになった現象。
俗に、魔法の極致と呼ばれるものの一つ。
「魔力飽和――ッ!?」
瞬間、ミックが門の前から消失した。
「
誰かが驚く間も無く代わって突風が吹き荒れる。
魔族の集団の中央を横切ったそれは、幾人かの首を飛ばして後方に抜けていた。
直後に振り下ろされるヒートブレイドが軽装備の魔族を左右に両断。
「
倒れゆく魔族の脇をすり抜け、左腕部パワードアームで力任せに近くの魔族の胸めがけてヒートブレイドを突き立てる。
「
特殊樹脂や合金製のプレートをものともせず赤熱化した切先は一人巻き込んだ上で貫通し、そのまま振り払い加えて一人首を刎ねる。
流石に魔族も冷静になったか、一歩引く者と一気に距離を詰める者に別れる。前後左右で二重丸を描くように、剣や槍を構える魔族で一気に囲まれた。
即、スラスターを後ろ上方に吹かし地を滑る。
「
左前方から駆け寄る短剣二刀流の魔族。
その足元にスラスターで高速スライディング、そのまま足払いしサメの背ビレのように立てたヒートブレイドで断ち切る。
パワードアームで地面に肘を打ち反動で身を起こす。
「
ハンドガンを構えていた魔族の顔面を巻き込んで着地、スラスターを吹かし増す勢いでストンプ、トドメと同時に後方に高く宙返り。
再着地を狙い槍を構える魔族にヒートブレイドを投擲。
足元に転がった先の槍を蹴り上げキャッチ、距離しつつショットガンを構えた魔族に投げつけ腹を貫き怯ませた一瞬を見逃さず流れるようにヒートブレイドを拾いつつ距離を詰め、首を切り飛ばす。
このわずかな間、数分も経っていない間に十三人。今まで感じたこともないほどの集中力に、ミック自身驚いていた。
「魔力飽和だ! 間違いない、髪と瞳の変色に目に写った赤い光……補助光まで出ているのか!?」
魔族の一人が叫ぶ。
自分では分からないが、僕は魔力飽和――体内魔力飽和を起こしているのか?
確かにサヴァンナの装備ならコンデンサーに充填した魔力を体内に逆流させて擬似的に、強制的に起こすことができる。
もちろんそんなことを行ったつもりはない。もし強制魔力飽和を起こせばどんな反動がくるか分かったもんじゃない。最後まで戦いきって生きて帰らねば意味がないのだ。
ならばやはり、僕自身の力で魔力飽和を起こしたと考えるのが自然だろう。
運命的な、シャリーナ様のご加護のようなものを感じ勇気が湧いてくる。
『前衛は下がれ! 私が撃ち抜いてやる!』
傍受していた連中の無線周波数に通信が入った。
やはり狙撃手の伏兵が居るらしい。発砲前に通信を挟んでくれたのは幸いだった。
ブレードアンテナの感度を全開に、全神経を研ぎ澄ませる。
チャンスは一度きり。
流石に背筋が凍りつくような感覚を覚え、冷や汗が止まらない。
発砲音――を聞く直前に着弾。
金属の塊を鉄棒で殴りつけたような、高い金属音が響き渡り大粒の火花が空中に咲き誇る。
周囲の魔族は、命中を確かに目視した。
だが直後、狙撃されたはずのミックは狙撃方向に猛スピードで飛び出し、進行方向の廃屋に
『外れた!? いや――弾きやがったのか!』
簡潔に言えば、頭部ブレードアンテナで飛来する弾丸を察知しながら弾いたのだ。
ブレードアンテナから一種の波を発し、弾丸などの高速で頭部に飛来するものをソナーのように探知。
大抵は活性魔力を放出し強烈な反発力によって逸らすが、避けきれない直撃コースの飛翔体を感知すると逆に引き寄せ、ブレードアンテナそのもので弾くという試作品だから、サヴァンナの装備だからという理由で開発が認可された狂気のシステム。
無論、本来は実戦で役立つようなものではない。
だがミックは魔力飽和による反応速度の劇的な向上を以って、弾丸を “引っ張ろうとする力” を感じると同時にその方向に頭部を振りかぶり無理やりブレードアンテナを当てることでその期待値を限界まで引き上げることに成功した。
それは異常なほどの集中力、精神力を必要とし、成功しても弾いた際の振動で一瞬のダウンは免れないはずだった。
しかしミックは飛び出した。
あえて俗っぽい言い方をするならば、それは彼の覚悟の高さが引き寄せた幸運、彼を送り出した仲間たちの加護とも呼べるものだろう。
「お前だな……お前がニコを……っ!!」
「甘いんだよ真っ直ぐ野郎がッ!!」
すぐそばの土を投げつける女魔族。
諦めにもとれる足掻きかと、雑に邪推したのがよくなかった。
土くれは一斉に爆燃、眩みそうなほどの光量に視界がわずかに焼きつく。
咄嗟に足を地に突き刺しブレーキ、同時に砂煙を巻き上げて火の気を防ぎつつ距離をとる。
「この不自然な爆発……まさかあのトラップもお前が……ジーナも、お前が……!」
「あー? あのデカブツのことか? つーことは撃ち抜いたチビの横にいたヤツか」
頭の中が溶岩のように煮え滾る。今すぐにでもあのふざけたニヤケ面に刃を突き立てやりたかった。
だがこんな時こそ落ち着かなければ。下手にヒートアップしては相手の思うつぼだ、カービンで牽制しつつあの魔族を観察しよう。
ギリースーツ風のフード付きポンチョに覆われ全体像は分かりにくいが、プロの傭兵とは思えないラフな薄着にタクティカルポーチをいくつか増設しているようだ。
「さっきので視界が焼き付いてる……よなぁッ!」
銃声と共に左肩の装甲から火花が散り、僅かに体制が崩れる。
お互いに走ってはフェイントをかけ、牽制目的とはいえこちらは一発も当てられていないというのに、向こうは第一射含め確実に当てに来ている。
開けた場所では勝ち目がないと判断、先の廃屋に飛び込み射線を切る。
ボロボロで木造の廃墟だけに壁材にも抜けや隙間が見えるが、ちょうどあったタンスを遮蔽物に隠れることができた。
「どう来る……壁ごと狙撃、抜刀して突撃、兵を連れて包囲銃撃……魔法で建物ごと爆破、か」
可能性が高いのは後の二つ。前者は確実に逃げ場を奪えるし、後者は何をさせる暇もなく跡形もなく吹き飛ばせる。どちらにせよ、早めに建物を飛び出すのが得策か?
直後――すぐ右隣に人影と刀身の反射を見た。
即座に身を捻り右肩越しにソードラックを伸ばし振り下ろされた刃を受け止め、スラスターを逆噴射してわずかに距離をとる。
まさか突撃してくるとは思いもしなかった。だがその理由もすぐに察した。
この狭い廃墟では、こちらのヒートブレイドのリーチが仇にしかならない。
逆に、魔族リージャのファルシオンは短く加工してあるため躊躇なく振るえる。
外に逃げようかとも考えたが、先読みされて他の敵兵に待ち伏せされているかもしれない。初撃は半分奇襲のような形がとれたため一方的に蹂躙できたが、これ以上そう上手くいくかどうか。
だがここでようやく違和感を感じた。
あんなに軽口の多い魔族の割には静かすぎる。
気がついた時には廃墟内に爆炎が上がり、幼児が崩した積み木のように跡形もなく吹き飛んでいた。
「やった……ワケねえかッ!!」
天井を突き破り飛び出したミックを外から見ていたリージャが狙撃銃を構える。
炎に巻かれる前に飛び出したはいいが、空中で無防備。瞬発力に長けたスラスターがあるとはいえ、向こうの腕前を考えると一撃は免れないだろう。
だが充分に防げる防御兵装もない。
空中で身動きはとれるが完全には避けられない。
この距離では射撃も当てられない。
そんな状況の中、脳内で溢れ出した魔力がアドレナリンのように作用し気でも狂わせたのだろうか。
ヒートブレイド二振りを抜刀、身を丸め、ソードラックも列を合わせてハリネズミのように展開。
スラスターを全開、歯車のようにグルグルと回転し、推力バランスを変えリージャめがけて猛スピードの大車輪斬りを繰り出す。
「イカれてんのか!? 三半規管どうなってんだよバケモンが!!」
大きな発砲音が複数。視界は全く役に立たないが、音の方向で敵の位置は分かる。
まっすぐ飛んでくる銃弾はヒートブレイドとソードラックで弾く。これだけ速度をつければ爆発魔法も充分な威力を発揮する前に爆炎を振り払える。
これなら――!!
「クッ……ソがっ!!」
あまりのことに反応が遅れたリージャだったが、すんでのところで狙撃銃の横腹を叩きつけ闘牛士のようにギリギリで回避。
まずは得物を一つ。
だが本体をやったわけではない。
更には大車輪斬りの着地でバランスを崩し木に背中を打ちつけ、咳き込んで地に伏しそうな始末。
息の整わぬ身に鞭を打って起きあがろうとした時、焦った足取りで近寄るリージャの姿を見た。
すぐに三度の発砲音。
今からでは回避が間に合わない!
咄嗟に左腕のアーマーで頭と胸だけでも守ろうと構えた――その時。
「バリアー……っ!? ずりいぞクソがッ!」
左前腕のアーマーの一部が展開。
オレンジに淡く発光する半透明の逆七角形の面状フィールド、シールドを作り出した。
ミックは原理から存在まで知らなかったが、高密度の魔力の奔流が物理的な障壁として働く試作兵器であり、ジーナの意向で搭載したものの出力不足で放置されていたもの。
それが今、魔力飽和を起こすほどの過剰な魔力供給を経て初めて起動した。
ミックとリージャ、二者が目を見開き停止する。
先に動き出したのは――リージャ。
拳銃で牽制しつつハーフファルシオンを抜刀。
遅れてミックもようやく息が落ち着いて立ち上がる。裏を取ろうと弧を描くように駆けるリージャに併せてシールド面を向けるが、シールドの不透明度が高く、僅かとはいえ発光やプリズム的な歪みも悪さして向こう側が見えない。
足音を頼りに駆け出し、シールドの向こう側に見える影に最接近したところでシールドを解除。一気にヒートブレイド二振りの横薙ぎを浴びせる。
直撃――だが妙に感触が薄い。
今一度しっかりとその姿を捉える。赤熱する刃は確かに脇腹を切り裂いていた。
だが飛び散ったのは血ではなく、絵の具や煙のようなもの。
幻覚? いや、この妙な手応えと飛び散った破片、そして爆破前提の廃屋に突っ込んできた時には確かに重い斬撃を感じた。
だとすると文字通りの分け身、魔力の塊を自身のように遠隔で動かしているわけか。
即座に振り返りながらシールドを展開、同時に二度の銃声。
「クッソ、こんなもんじゃ歯が立たねえか……だが魔力コーティングをかけたコイツなら!」
後方をとっていたリージャはすぐに飛び出し拳銃を収納、ハーフファルシオンに持ち換えて切りかかった。
ミックもシールドを構えるが、銃弾を逸らすほどの魔力の奔流は比べ物にならない質量とパワーを以って振るわれた剣になすすべなく、水流が岩で分たれるようにシールドは呆気なくその刃を通した。
幸運にも頑強なアーマーと発生機が肉体に到達せんとする刃を弾き、ミックもお返しとばかりに膝蹴りを見舞う。更には僅かに生まれた猶予が怒涛の攻勢を与えた。
切り払い、同時に左手のヒートブレイドを投棄。
全力の左ストレートを守りに入ったハーフファルシオンに食らわせて体幹を揺らがせる。
すかさず袈裟斬りで残りの体幹も削る。
威力を度外視した滅多斬りでダメ押し。
打ち合った時の剣の重さが上がった――崩した体幹が戻り始めたか。
振りかぶり袈裟斬りと見せかけて打ち合う刃を滑らせて左奥に抜ける。
向き直りつつスラスターを吹かして左ストレートを掠めつつ通り過ぎ、まっすぐ伸ばした左の手を開き投棄したヒートブレイドを拾い上げ弧を描きつつ急接近。
推力に遠心力を強くかけ、バランスを崩しているリージャの頸を狙う。
「
崩れた体制でこの全速の一撃を防いだ!?
二振りヒートブレイドがハーフファルシオンに阻まれ、お互いに一歩も引かずに火花を散らす。
流石は魔族、戦闘に関しては何にでもセンスを発揮するらしい。
「いくぜダメ押し――ッ!!」
突然リージャの背中から幽霊でも抜け出たように分身が姿を表し、隠していたらしいナイフを手に左側から勢いよく振り下ろした。
防御のためすぐ発生させたシールドで受けるが、あまりに咄嗟のことで適切な体勢にできず逆に力が分散したせいで押し返されそうになる。
片方に気を取られては片方にやられる。
仕留めるなら、両方一気にやらねばならない。
「ま……だ……! まだ負けるかぁっ!!」
シールドの発生機を手首側に限定、収束、一斉開放すれば!!
シールドで防いでいた分身を力任せに弾き飛ばし、シールドをブレイド状に変形させて一気に振りかぶる。
再び分身が向かってくるがシールドブレイドで両断。
勢いのまま本体の右半身に食い込ませ、魔族リージャの上半身を断ち切った。
「すま……ちー……た……」
「リージャ!!」
死に際の台詞に気を取られる暇もなく、声をあげて接近してきたのは魔族チタニアス。
「全体下がれ!! 俺がやる!!」
その声色には少なからず悲壮と憎悪が混じり、仇をとらんと向かって来ていることはすぐ察せた。
ミックを狙う、人間の体躯に匹敵する大剣の切先が虎の牙を思わせるが、寸前で高く飛び上がり上空から急襲する姿は猛禽類のようにも見えた。
すぐさま飛び退き、元いた地面が大きく抉れる。
流れるように短剣が飛来。
ヒートブレイドで弾こうと構えるが、想定以上に速度がついた短剣を真っ向から受け止めてしまい空中でバランスを崩してしまう。
直後、チタニアスは目前まで迫っていた。
空中で踏ん張ることもできないというのに軽々と振り下ろされる大剣。再びヒートブレイドで受けるが、その大質量と勢いを空中で止めることはできず、突然急加速した大剣により地面に叩き落とされる――寸前にスラスターを全開に噴射。
地面スレスレで僅かに再上昇し着地、ヒートブレイドを納刀し
「面白い反応だな、今ので仕留めるつもりだったんだが。流石リージャをやっただけはある」
発砲。しかし短剣に阻まれる。
「ハァ……ちょっとくらい付き合ってくれてもいいだろうが? あの隊長さんは結構喋ってくれたぜ?」
「隊長……? 隊長を殺したのはお前か……!?」
「殺した……ってのはちょいと違うか? ぶっ飛ばしたらいつの間にか炭になってたっていうか」
落ち着け、熱くなるな。
ヤツは僕がヒートアップして直情的になることを誘っているだけだ。その挑発に無策に乗ってはならない。
僕は、生きて帰らなきゃならないんだ。
このチタニアスという頭領を仕留めたところで、僕が死んではその後シャリーナ様の元に向かおうとする魔族への抑止力が無くなってしまう。
力んで震える息のまま深呼吸、敵の装備を確認して戦術を構築しクールダウンを狙う。
魔族チタニアスの武装は人間の体躯を超えるサイズの片刃大剣――いや、刃の中央に関節が仕込まれ折りたためる可変大剣か。
副兵装と思われる短剣が両腰に二振り、恐らく拳銃も装備していると考えた方がいいだろう。
「隊長の仇……いえ、シャリーナ様を守るために」
「へえ……じゃあ、俺は
「「死ねッッッ!!!!」」
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