第23話


 きらきらと花が降る。


 舞賜を中央に十数名の舞手たちが、朱布の上で舞っている。空を走る笛の音、空を揺らす手の動き、空に満ちる気、空に生まれる花。


 馥郁。そのなんと優雅なことか。


 遼灯は屋根の上からそれを眺めていた。贅沢である。人の手が生み出す花だというのに、艶やかな香りを立たせている。


 百花繚乱を目の当たりに、不思議だな、と遼灯はつぶやいた。幾度見ても同じ感想を抱く。


 王城に上がって以来、空師なれば王の共をし、神事に立ち会うのも役目だった。


 初めてみたときには役目を忘れて見入ってしまった。まばたきも忘れたために、翌朝まで目が痛んだものだ。

 この世にこんな優雅な種類の不思議があろうとは思いもしなかった。


 舞もやはり質なのだと、かつて久蒔は遼灯に言った。


――空師殿が空を駆けるも質、舞手が花を芽生えさせるも質でございます。


 遼灯は戯れに手を動かしてみた。花など生まれるはずもない。


 空を駆けることは不思議ではない、そのためになにかを考えることもなければ意識すらしていない。


 地を歩くように、空に出るだけだ。それでこの身は空に立つ。けれど舞手もそうだと聞いたところで、遼灯はどうにも納得できない。


 自分のやっていることよりもこちらは、遥かに優雅なものであるように思えた。


「普通のねーちゃんなんだがなー……」


 中央で澄ました顔を見せている舞賜、伽南のことだ。普通に威勢のいいねーちゃん。


 町に出れば行商のおっさんをも言い負かし、酒場どころか賭場にも出入りするそれを、威勢の二文字で片付けてよいものかと思うが。


 それを知っていても、舞えば伽南は美しい。遼灯は屋根に転がった。どうにもわからんこの世の不思議だ。


 芳香を深く吸い込み、遼灯は、ふう、と空に息を飛ばす。思えば可笑しな話、この奏園は王の持ち物、王の個人財産なのである。


 極めて実際的に徒なす呪や時には怨を祓うと共に、模糊に抽象的に民心の掌握という形で政における補佐を果たす園。


 国府を挟まず直接関わるが故に、王にとっては親しく気兼ねのない場所になろう。先王と久蒔の親しさの程も、窺えようというものだ。


 つまりは言ってみれば事を起こさずとも、千璃はすでに王の所有なのである。慎まず言ってしまえば、思うようにしてよい。


 隠すこともない、言ってしまおう。事実、そうしてきたことを、遼灯だって知っている。この度もそうした例を挙げ、側近たちは散々諫めたのだ。


 他の者の名を借りて後見の立場を取ればよろしいのでは? 


 宰補の顔には、およそ相応しからぬ出来事の処理を担わされたことに対する憤懣が明らかだった。


 年若ながらも切れ者として名を響かせる宰相補佐は、王を相手に歯に衣着せない。怒りを滲ませた低い声で付け足すに、


「私の名前をお貸ししてもよろしゅうございます」

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