第2話 all you need is kill
迷宮入って十分後、早くもクソおっぱいが今際の際だ。こひゅーこひゅーと漏れでる吐息、どんどん悪くなる顔色。苦痛に歪む表情。
「ご…め…ん…ね」
そう言い手を伸ばしてきた。
何でこうなったかは簡単、迷宮探索中にこいつがべらべらくっちゃべってるところへ、不意打ちで亜人が毒矢撃ってきてそれに馬鹿乳が間抜けにも被弾してこうなった。
ゲームじゃあるめえし毒食らったら死ぬわな。
そう思ってるうちに乳はくたばった
使えねえな。役立たず。ゴミカスが。この俺様がせっかくテメェなんざとパーティー組んでやったってのに期待を裏切りやがってクソが。
そして俺は、調子づいた亜人の短剣で喉を掻っ切られた。
灼熱が俺の喉をめちゃくちゃに焼き尽くす。その激痛という針が俺の脳みそをかき乱す。意識が飛びそうな程の激痛の中、俺は死んだ。
次の瞬間噴水のように俺の喉元から吹き出ていた血が空中で止まった。そしてまるで動画を逆再生するかの様な気味の悪い動き方で俺の喉元に向かって血が流れ込む。
それだけじゃない。クソ馬鹿乳に突き刺さった矢も、倒れ込んだ乳カスも、逆再生するかのように動き始め、その目には光が灯り始めた。
勘のいい皆様方のお察しの通り時が巻き戻っているのだ。
これが俺の切り札。たった一つの固有スキル。自身の死をトリガーとして十秒前に時を巻き戻すだけの、シンプル極まりない、単純な能力【死に戻り】
そして時は乳が毒矢を喰らう直前まで巻き戻り、時が動き出した。
「それでね、円くん、私」
頭をさげろ
そう俺が言うと奴はノータイムで頭を下げた。
毒矢が頭の上を通る
次の瞬間乳も臨戦態勢に入った。
戦闘開始だ。
俺が突っ込み馬鹿乳が魔術を詠唱する。
こいつのクラスは司祭。攻撃とデバフに特化した黒魔術と回復とバフに特化した白魔術を使えるがどちらも中途半端にしか使えないハズレ職。
俺のクラスは盗賊、多少すばしっこく、多少器用だが火力も耐久も魔力も無い半非戦闘員とも言えるクラス
本来とても戦えるようなパーティーではない。
無いのだが俺の固有スキルととある低級魔術がそれを覆している。
司祭はすぐに唱える
「【黒魔術系統第一位階魔術】」の詠唱を。
それは全魔術でもっとも習得が楽な魔術。そして地上で使った場合死刑相応の罰が課される五つの禁術の一角。
【睡眠魔術】
睡眠効果のある毒霧を打ち出すだけの魔術だが、その範囲は100平方メートル、成功率はほとんどの相手に八割の確率で通り、効果時間は30秒ほど。やられる前にやれが絶対の摂理の迷宮戦闘において三十秒も無防備な相手ならよっぽどの事が無い限り殺せる。要はほとんどの相手を8割の確率で即死させるチート魔術だ。
それでいて詠唱時間、魔力消費量は低位の魔術相応、全てにおいて強すぎた。その上習得が楽すぎた。
話は変わるが俺に限らずクズというものは怠惰。そして怠惰極まりないクズ共にとってこれほど都合の良いものは無い。それ故ダンジョン黎明期これによって全人類の1割が犠牲になった。
具体的に何があったのかは話したくない。ただ言えるのは、強すぎた。便利すぎた。皆様方が思うよりも遥かに。あまりの脅威に世界中の魔術師が一致団結して、睡眠魔術への対抗策を練り、安価な耐性マジックアイテムが作られ、全国民に配られた。
さらに睡眠魔術を使った犯罪者共は捕まった片っ端から、睡眠犯罪遺族の探索者と、本気を出した人類国家と言う究極の暴力機関によって、人類の悪意の集大成の様な拷問を食らって殺された。そう、それこそ誰もが睡眠犯罪を【割に合わない】と考えるような凄惨な拷問を。
一連の話を聞いてゾ◯トラークかよと皆様思われたであろうがこのチート魔法のあだ名はネルトラークだ
対人ではティッシュにこびりついた俺様の劣等汁以下の価値しか無いが魔物相手にはめちゃくちゃな猛威を発揮する。パーティ六人全員これしか覚えてないほどの低レベル魔術師と言う歪なパーティーでもそれなりに戦える程。
ダンジョン配信だか何だかでは絵面が終わる上強行動過ぎてみんなやってて見飽きてる為、基本使われないそうだが。
ともかく、そのどうかしている魔術が亜人どもに放たれた
B級以下の魔物なら8割方無力化でき、基本通じない探索者やA級以上のモンスター相手でもそいつらの召喚系能力を潰すのに良く使われる。
とにかく足切り性能が高すぎる。
そして俺は睡眠状態になったコボルトに近づいて、喉笛を切り裂いた
司祭の【睡眠魔術】で無防備になったところで短剣で急所を切り裂いて殺す、殺す、殺す。これが身体能力自体は探索者でも最底辺の俺にとっての基本戦術だ。
しかし、ここの迷宮は…いや、全ての迷宮は悪意の迷宮。
亜人達を次々に仕留めている中、俺に突如衝撃が襲いかかってきた。亜人集団の中に、【睡眠魔術】が効かなかったのにも関わらず寝た振りをしていた奴がいたのだ。
俺には短剣以外の武装はない。最低限の防御力を持った。動きやすい防具、それこそレザーブーツやらマント型の革鎧だけだ。
俺の場合耐久力が低すぎて重武装していても直撃すれば高位のモンスターにはワンパンされる。
軽武装なら言わずもがな。
俺は死んだ。
時が廻る。
今度はなんとか短剣で受け流し距離を取った。
目の前の魔物はランクB+トロル。シンプル優秀な攻防速に加え超再生を持つこいつはかなりタチの悪い魔物だ。
そしてこいつはその異常極まりない再生能力によって毒すらねじ伏せていく。要は毒霧である睡眠魔術が通じない。
そして俺の苦手で大嫌いな正面戦闘が始まった。進むと見せかけて引くというフェイントで大振りを誘って空振りさせて、懐に突っ込んだはいいものの、タイミングを合わせて飛んできた前蹴りで俺は爆散した。時が廻る。
今度は大振りを誘った後の蹴りのタイミングは分かっていたので俺の後方に前蹴りのエネルギーを逃がす感覚で受け流した結果、奴は態勢を崩したので思い切りかがみながら、トロルのアキレス腱を斬りつけたが圧倒的硬さの肉には刃が通らず弾かれた。そこに強烈な一撃が直撃した。俺は汚ぇ花火になって死んだ。時が廻る。
今度は向きを変えて斬りつけた。肉の筋に沿って斬れたのかすんなり刃が入った。
体勢が不安定なところにアキレス腱まで切り裂かれて転んだトロルを俺はひたすらに切り刻んだ。切り刻んだ端から再生していくものの、筋に沿って切れているため、ちゃんと傷は負わせられてる。
司祭の魔術での援護も入った。それはソフトボール程度の火球を打ち出す【黒魔術系統第一位階火炎魔術】。
とにかく笑っちゃうくらい火力の低いクソ魔術。
同位階同系統同習得難度【睡眠魔術】とは比べるべくも無いチンカス魔術だが、火炎は再生を阻害する。
今の選択として、悪く無い。そう思った直後アキレス腱の再生を終えたトロルが立ち上がり俺は殺された。時が廻る。
そして思う。ああ、こりゃ正攻法じゃ無理だ。
じゃあやるしか無いか。【領域】展開。
その瞬間俺の半径2メートルにセンサーの様な、超感覚の糸が張り巡らされたかのような感覚があった。
【領域】、それは盗賊職の長所である五感の優秀さ。それら全てを使い敵の肉質解析、行動パターンの先読みに転用する俺のもう一つの切り札。
トロルの首の比較的弱いルートが透けて見える。そして俺は、そのルートを、短剣で、なぞった。トロルの首が宙を舞う。
再生能力含めた大体の特殊能力は頭で命令を出して使うので、再生能力がいかに強かろうと脳を胴から切り離せば死ぬのだ。そして、これこそが、俺の武器、【首刎ね】
しかし、高位のモンスターは、残った力でも10秒程度は動く、何をどうしたのか、首無し死体は司祭に向かって走り出した。
全力で司祭に駆け寄り抱きかかえて逃げるが間に合わず、死なない程度に全身複雑骨折と言う、死に戻り能力持ちには一番つらい傷を負う羽目になった。それと同時に心臓を貫いて完全に殺しきったもののあまりの激痛で陸に上げられた死にかけの金魚みたいにゴロゴロと転がる。
この情けない姿を見せるのは司祭が【白魔術系統第一位階回復魔術】をかけて傷がある程度癒えるまで続いた。
俺を膝に置きながら、俺に必死こいて回復魔術をかけながら司祭は言った。
「君はもう自由に生きていいから……私なんかをこれ以上助けなくていいから」
そう言って司祭は泣いた。
計画通りだ。こいつは何を考えているか分からんが、こうやって庇い恩を売ればより便利な道具になるだろう。その調子で俺を利他的な人間だと勘違いしろ。そして信用したとこを利用して利用して利用し尽くしてやるよ
俺のダンジョン探索は基本こんな感じだ。クソッタレな俺のクソッタレな生活。ついでに最近になってクソッタレのおっぱいがついてきた、クソッタレな日常。当分こうなると思っていた。
次の日ダンジョン配信者とか言う女に会うまでは
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