第3話 晶子登場
「あら、私も知っていますわ。市長の叔父様が入院したので、うちも先日大変でしたの」
声がする方を振り返ると、
その顔を見て特に反応もせずに、美紀の方に向き直る。
「相変わらず不愛想なことですのね。声をかけたのにまるで反応しないなんて」
「あ、私に声をかけていたんですね? 別の方かと思ったのでわかりませんでした」
「……ッ! 本当に相変わらずですのね!」
たかだかこれだけの軽口で頭に血が上っているのがわかる。
晶子は以前から私に突っかかってくる同級生だ。些細なことで感情的になりやすい性格なので、すぐに喧嘩腰になるのは困ったものである。
なぜ私によく突っかかってくるかと言えば、晶子が好きだった男子生徒を私がフッたからだ。
晶子は一年の頃に告白したのだが、見事に撃沈。ショックを受けて一週間学校を休んだ。
しかしなぜか、その男は翌週に私を呼びつけて告白をしてきた。
『俺の女になれよ』
どこぞのドラマからでも拝借してきた、彼にとって最高の告白の言葉だったのだろう。
しかし、言葉のチョイスも顔も私好みじゃなかった。またイイ男ムーブの表情もまったく好みじゃない。
『今のが告白の言葉? もう少し相手のことを考えて発言したら?』
不遜な物言いは承知していたが、この点についは彼も悪い。いくらなんでも言葉は選んでほしい。
その言葉に過剰に反応して激昂した彼は、私に向かってきたが、横によけながら足を引っ掻けたら転んで前歯を折った。
前歯と一緒に戦意もなくしたようで、涙目になりながら退散していった。
晶子はその話を聞いて、プライドに障ったのだろう。
以降『自分がフラれた相手をフッた女』として、何かにつけて因縁をつけてくるようになった。
「それで、なんなの? 大変だったって」
「市長の叔父様が入院しましたの。もう大変ですわ。急遽うちのお父様が代理を務めて、市長業務を手伝っていますの」
「そう、あなたのお父様は大変なのね」
「そうですの。その図書館の管理も一時的にうちがすることになりましたの。何か事件に巻き込まれないかって心配してますのよ」
「あら、大変だこと。話は終わり? もうチャイムなるしさっさと席に戻った方がいいんじゃない?」
「話聞いてましたの? 図書館のこと話しましたけど?」
「はい、聞いてたわよ。でも聞いてもいないことを話してると嫌われますよ?」
「……ッ! あなたって人は!」
そんなこんなを話していると、チャイムと同時に二時間目の先生が教室にきて、席につくように促された。
「絶対に吠え面かかせてやりますからね……!」
そんな意味深な捨て台詞を吐きながら、渋々席に戻っていくのが見えた。
「もう! すぐ喧嘩するんだから。こっちが冷や冷やしちゃうよ」
「ごめんごめん。今度何か奢るから許して」
美紀と短いやり取りを済ませ、授業を受けた。
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