8.川村社長の話

 どうも。川村建設の川村と申します。


 ああ。あの時の。はい、覚えています。

 わたくしどもも建設業なわけですから、そういうこともあるんです。

 祠とかおやしろとか、そういったもの。そしてそれにまつわるもの。

 あの案件のは特にこう、印象的でしたね。


 ええ、基礎を作る際に出てきたんですよ。

 棺。それもまだ、新しいもの。

 皆、こわがってしまって。そりゃあそうですよね。

 でもまあ、とりあえず馴染みの住職さん呼んで、開けてみよう。そうして改めて供養しようってことにして。


 なんにも入っていなかった。ほんとうに、空の棺。


 それでも何かあるだろうから、火葬場に連絡して、焼いてもらって。なんにも入っていない骨壺ひとつ、作ってもらいました。

 住職さんとしても、それでいいだろうって。それで共同墓地に入れてもらって。

 私もね、どうしてか、ちゃんと供養しようって思って、今でも通っています。

 地主さんも同じ考えでね。一緒に通ってくれていますよ。

 おかげさまで今までなんにもないわけですし。


 ただ地主さんも度が過ぎたというか、臆病というか。

 仏壇、作ったんですって。その棺のための。

 戒名も作ってもらって、毎日拝んでるって。

 やっぱり、おかげさまでなんにもないっておっしゃるわけですし。


 鰯の頭も信心ってやつですかね。

 まあ、なんにもないに越したこと、ありませんからね。

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