2.父の話

 うちの家系、霊感があるっぽいんだよね。俺はあまり感じたことないけど。

 でも、きっとそういうのだろうな、っていうのは何個か見たことがある。

 こわさはあんまりなかったな。どちらかというと不思議、という感じ。あれ、これは俺にしか見えてないな、っていう。

 こわい思いをしたというのは、あれかな。ただあれは、幽霊とかともまた違うやつだと思う。なんというかまあ、とにかくこわいものだ。


 大学時代、盛岡に住んでいた。ひとり暮らし。アパート借りて。たまり場になってたよ。

 近所にいいスーパーがなかったから、自転車で十分ぐらい走ったところにあるスーパーに通ってた。小さいけど安くてね。惣菜とか弁当も美味しいんだ。

 小さいスーパーって、サッカー台が窓際にあるんだよね。多分、集客効果を狙ってのことだろうけど。買い物をしているのが外から見えるようにってね。

 レジに並んでて、前のカップルが会計終わって、サッカー台に向かったんだよ。結構、買い込んでたな。


 ばん、って音が鳴った。

 気付いたのは、多分、俺だけだった。


 そのカップルが荷詰めしているところの窓にさ、張り付いてたんだよ、女の人。

 ほんと、漫画みたいに、にたにた笑ってさ。

 でもカップルも店員さんも知らんぷり。だからきっと、俺にしか見えてないの。

 つまりは幽霊ってわけだよ。


 いやあ、こわかった。あんな典型的なの、見たことなかったもん。

 ずうっと窓に張り付いて、ばんばん叩いてんの。気持ち悪い笑い顔して。でもやっぱり、誰も気付いちゃいない。

 やべえな、こわいな。そう思いながら、俺も会計終わらせて、ちょっと離れたところで荷詰めして、もう、とっとと帰ろう。

 あれは幽霊だから、そのうち見えなくなるって。外に出ればきっと、何にも見えなくなるって。


 いやあ、甘かったねえ。

 外に出たらさ、いるのよ。ちゃんと窓に張り付いて。


 大急ぎで家に帰ったよ。それで友だち呼んで、酒かっくらって、泊まってもらって。

 生霊とか、そういうやつなのかな?坊さんとか霊媒師の知り合いがいるわけじゃないから、わかんないけど。


 まあとにかく、そういうのを見かけたら、とっとと逃げなさい。お前も小さい頃、変なところ指差してたりしたからね。きっと気付かないうちに見えてしまっているかもよ。

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