俺ら方の話

ヨシキヤスヒサ

1.祖母の話

 ら産まれた村だば山の中でよ。土地神さまっていうさまいたっきゃね。

 らのちゃっけ頃からでねく、らのかかだの祖母ばばだののちゃっけ頃からさまだすけ、あれだばほんとうに神さまだったんでねがべか。

 神さまってったどもよ、何するわけでもね。普段、どこさかいるんだがわがらねども、たまにふらあって訪ねてきて、はい、嵐ば来るすけ気をつけろだの、田んぼさ水こへとけだん、ひとことふたこと置いてくんだのよ。

 だどもほんとうにその通りになるんだすけ、親族おやぐだば、まま炊くすけ待ってけじゃ、酒持ってくるすけねまってけじゃんだの、わたわたど迎えてらったどよ。土地神さまもぼへらってして、らみてえったわらしこと話こばしてみたり、出されたままだの酒だのありがたそうにしてらったりしてたんだ。

 ら、ここさ嫁いできたべさ。何年かして、夜中さどんどと玄関叩く音のするったどよ。はい、したべと思いながらさまとふたり、玄関開けたべったん。


 いたのよ、土地神さま。顔、真っ青にして。


 らだばわたわたどままへねば、酒出さねばって、まんず入ってけじゃ、ねまってけじゃんど、そうやってさ上がらせたども。土地神さまば、ずうっと駄目だまね駄目だまねってるばりだすけ、はい、したっきゃって聞いたどもよ。


 種市の墓所はかしょさ虫湧いた。あれだば駄目だまね。あれだばら、あすこさ住めねぐなったべや。


 種市ったば、そのあたりの村長だわけでもないけれど、名前なめえこば知られた立派だ人だのよ。それさ虫湧いたってば、どったらことなんだべか。さっぱどわがねってなったべし。

 だども土地神さまば駄目だまね駄目だまねってるばりで何さもならねはんで、まんずその日は布団ば敷いて、土地神さまばさ寝かへたのよ。朝になったらさっぱどいなくなってらべさ。

 それからだべね。かかから種市さん亡くなっただの、蛇口からきたらしない水出ただの、ばんばと電話のかかってきたのよ。そのうちに何だかんだど、皆してここさいられねえって出はっていったど。かかども実家さるって言うはんで、誰もあの村さ住まなくなってまったっきゃね。


 皆してるず。土地神さま来たって。駄目だまねってってらったって。


 一回だけってみたどもよ、ほんとうに誰も住んでね。草もぼんぼと生えてらった。狸だの狐だのいて、これだばどうもなんねえってなったすけな。人も神さまも出はっていったんだば、ああもなるったっきゃね。


 土地神さま、どこさ行ったんだべね。虫湧いたってば、何のことだったんだべね。ともかく、神さまば大事にしねばならねはんでな。そればりだなあ。

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